認知症の親への接し方|暴言・徘徊・妄想への対応と心構え

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「財布を盗ったでしょう」と責められる。さっき答えたばかりの同じ話を、また聞かれる。夕方になると「家に帰る」とそわそわ歩き出す…。

認知症の親を介護していると、こうした言動に戸惑い、時にはつい声を荒げてしまい、あとで自分を責めてしまう。そんな日々を過ごしていませんか。

けれど、その困った言動には一つひとつ理由があります。理由が分かり、接し方を少し変えるだけで、本人も家族も驚くほど楽になることがあります。

この記事では、認知症の症状ごとの具体的な接し方と声かけの例、そして「頑張りすぎて共倒れしない」ための家族の心構えと相談先まで、在宅介護のプロの視点でわかりやすく解説します。

この記事でわかること
  • 認知症の困った言動に共通する「接し方の3つの軸」
  • 暴言・徘徊・もの盗られ妄想・同じ話の繰り返しなど、症状別の具体的な対応と声かけ例
  • 徘徊への自宅での備えと、いなくなったときの動き方
  • 「なぜ一番世話をしている自分が責められるのか」— 自分を責めないための理解
  • 家族だけで抱え込まないための相談先と、限界を感じたときの選択肢

結論|認知症の「困った言動」には、必ず理由がある

認知症の親の言動にどう向き合えばいいのか?

その答えを探すうえで、出発点になる大切な事実があります。それは、暴言・徘徊・妄想といった「困った言動」には、必ず理由があるということです。

これらは本人の性格が悪くなったからでも、あなたの介護が下手だからでもなく、脳の変化による不安や混乱から生まれる「困りごとのサイン」です。理由がある行動だからこそ、接し方を少し変えるだけで、お互いがぐっと楽になることがあります。

接し方で大切なのは、次の3つです。

  • 否定せず、まず受け止める:本人にとっての「現実」を頭から否定しない。
  • 行動の「理由」を探す:困った言動の裏にある不安・不快・混乱に目を向ける。
  • 家族だけで抱え込まない:正しく接することと同じくらい、介護者が倒れないことが大切。

症状ごとの対応を一つずつ暗記する必要はありません。この3つの軸さえ持っておけば、初めて出会う場面にも応用がききます。以下では、まず「なぜその言動が起きるのか」を整理したうえで、症状・場面別の具体的な接し方、そして家族が心を守るための考え方と相談先まで、順を追って解説します。

なお、「そもそもこれは認知症なのか、加齢によるもの忘れなのか」をまず見極めたいという段階の方は、認知症の初期症状と見分け方|家族がすぐすべき初動5ステップもあわせてご覧ください。

認知症の人が見ている世界 ─ 「中核症状」と「BPSD」を分けて理解する

接し方を考える前に、ひとつだけ知っておいてほしいことがあります。それは、認知症の症状には 2つの階層がある ということです。ここを分けて理解できると、日々の対応の「軸」が定まります。

症状は「氷山」のように2つに分かれている

認知症の症状は、しばしば氷山にたとえられます。水面下にあるのが「中核症状」、水面上に見えているのが「BPSD(行動・心理症状)」です。

  • 中核症状
    脳の神経細胞の変化によって直接起こる症状。新しいことを覚えられない(記憶障害)、日付や場所が分からない(見当識障害)、段取りが立てられない(実行機能障害)など。認知症であれば、程度の差はあれ誰にでも現れます1
  • BPSD(周辺症状)
    暴言・徘徊・妄想・興奮・不眠・介護拒否など、目に見える形で表れる言動。中核症状を土台に、本人の不安・体調・環境・人間関係などが絡み合って、二次的に起こります2

ここで大切なのは、家族が「困った」と感じる言動の多くは、水面上のBPSDだということです。そしてBPSDは、中核症状とちがって、周囲の接し方や環境しだいで和らぐ余地が大きいと考えられています。つまり、接し方は無力ではありません。

「困った言動」の裏には、必ず理由がある

BPSDは、本人にとっての「SOS」だと考えると腑に落ちます。急に怒り出す、そわそわ歩き回る、といった行動の背景には、たいてい何らかの理由が隠れています。

  • 体の不調:便秘、痛み、脱水、空腹、眠気、薬の飲み合わせなど。うまく言葉にできない不快感が、行動に出ることがあります。
  • 環境の要因:大きな音、まぶしさ、暑さ・寒さ、見慣れない場所、人の多さなど。
  • 心理的な要因:自分の失敗への不安、役割を失った寂しさ、これからへの恐怖など。

だからこそ、困った言動に出会ったときの第一歩は「やめさせる」ことではなく、「なぜだろう?」と理由を探すことです。理由が分かれば、対応の糸口が見えてきます。

覚えておきたい、たったひとつのこと

認知症になっても、「感情」は最後まで残ります

日付や名前は忘れても、「怒られた」「恥をかいた」「大切にされた」という感情の記憶は、むしろ敏感に残ると言われています。何を言われたかは忘れても、「嫌な気持ちにさせられた」という感覚だけが残り、それが次の不安や興奮につながることもあります。

これは裏を返せば、穏やかに接すれば「安心した」という感情が残るということでもあります。認知症は決して珍しい病気ではありません。国の推計では、2040年には65歳以上の約7人に1人(約584万人)が認知症になると見込まれています3。多くの家族が同じ道を歩み、同じ悩みと向き合っています。一人で抱える必要はありません。

認知症の人への接し方 ─ 基本の7原則

ここからは、どんな場面にも共通する「接し方の基本」を7つに整理します。それぞれに「なぜそうするのか」という理由を添えました。理由が分かると、機械的なテクニックではなく、自然な関わりとして身についていきます。

1. 否定しない・訂正しない

本人にとっては、間違った記憶や思い込みも「まぎれもない現実」です。事実を突きつけて「違うでしょ」と正すと、本人は理由の分からないまま責められたと感じ、恐怖や怒りにつながります。

まずは「そうなんだね」と、いったん受け止める。それだけで場が落ち着くことは少なくありません。

2. 急かさない・本人のペースに合わせる

認知症になると、情報を処理する速度がゆっくりになります。一度にいくつも指示されたり、「早くして」と急かされたりすると、頭が混乱してパニックになりがちです。

用件は一つずつ、ゆっくり伝える。返事を待つ「間」を大切にしましょう。

3. 短く、わかりやすい言葉で伝える

長い説明や、「あれ」「それ」といった曖昧な言葉は伝わりにくくなります。「ごはんですよ」「お風呂に入りましょう」のように、短く具体的な言葉を選ぶと理解しやすくなります。

4. 目線を合わせ、笑顔で話しかける

立ったまま見下ろして話すと、本人は威圧感を覚えることがあります。同じ目の高さまで腰を下ろし、正面から、穏やかな表情で話しかけましょう。

言葉の内容以上に、表情や声のトーンが安心感を左右します。

5. 話をよく聞く(傾聴・共感)

うまく言葉にできないもどかしさを、本人も抱えています。話の内容が事実と違っても、途中でさえぎらず、「うんうん」とうなずいて最後まで聞く。共感を示すことが、何よりの安心材料になります。

6. 尊厳を守る(子ども扱いしない)

言葉が出にくいからといって赤ちゃん言葉で話したり、本人が目の前にいるのに「この人はもう分からないから」と他の人と話したりするのは避けましょう。

大人として敬意をもって接することが、自尊心を守り、余計な怒りや拒否を防ぎます。

7. できることを奪わない

時間がかかるから、失敗するからと、何でも先回りして手を出してしまうと、本人の「まだできる」という自信が失われていきます。

見守りながら、できる部分は本人にまかせる。それが持てる力を保つことにつながります。

【逆に】やってはいけない対応

基本原則の裏返しですが、次のような対応は不安を強め、かえって暴言や興奮を招きやすいので注意しましょう。

  • 間違いを問い詰める、言い負かす、説得しようとする。
  • 「早く」「何度言えばわかるの」と急かす・叱る。
  • 大勢で取り囲む、無理やり体を動かす。
  • 本人の訴えを頭から否定する、無視する。

とはいえ、これらを24時間完璧に守り続けるのは、どんな家族にも不可能です。7原則は「目指す方向」であって、「守れない自分を責めるための基準」ではありません。

できない日があって当たり前、という前提で読み進めてください。

【症状・場面別】具体的な対応と声かけ例

ここからは、検索でよく調べられる症状・場面ごとに、具体的な接し方を見ていきます。

どの症状も、「なぜ起きるのか」→「どう対応するか」→「避けたいこと」→「声かけの例」の順で整理しました。前のセクションで触れた3つの軸を、実際の場面に当てはめたものだと考えてください。

なお、認知症は原因となる病気によって、症状の出方に傾向の違いがあります(アルツハイマー型はもの忘れが中心、レビー小体型は幻視や体調の波、血管性は感情の起伏、前頭側頭型は行動の変化など)。

あくまで傾向であり、診断は医療機関の役割です。ここでは「傾向を知っておくと対応の見当がつく」という範囲で触れます。

① 暴言・暴力・興奮への対応

なぜ起きるのか

状況がのみ込めない不安、体の痛みや不快、自尊心が傷つけられたと感じたときなどに、感情があふれ出します。本人も、自分の感情をうまく抑えられずに苦しんでいることがあります。

どう対応するか

まずはお互いの安全を確保します。売り言葉に買い言葉で応じず、いったんその場を離れて、少し時間を置きましょう。落ち着いた頃に、何事もなかったように別の話題から入ると、興奮が続かないことが多いです。

あとで「体調が悪くなかったか」「不快なことがなかったか」を振り返ると、次の予防につながります。

避けたいこと

力で抑え込む、大声で言い返す、正論で説き伏せる。いずれも興奮を長引かせます。

声かけの例

「わかったよ、ちょっとお茶にしようか。」「少し休んでからにしましょう。」

② 徘徊(一人歩き)への対応 ─ 自宅の備えと、いなくなったとき

なぜ起きるのか

本人の中には目的があります。「会社に行かなければ」「子どもを迎えに」など、昔の習慣や役割にもとづいて動いていたり、道が分からず迷ってしまったりします。「意味もなく歩き回っている」わけではありません。

徘徊(一人歩き)は、事故や行方不明につながりやすく、命に関わることもある症状です。実際、2024年(令和6年)の1年間に、認知症を原因として警察に届け出のあった行方不明者は1万7,345人にのぼり、その約77%を80代以上が占めています4。だからこそ、日ごろの「備え」がとても大切です。

自宅でできる予防・備え

  • 出て行きにくくする工夫
    玄関に開閉を知らせるセンサーやチャイムを付ける、ドアの施錠位置を変えるなど。ただし、外から鍵をかけて閉じ込めるのは事故時に危険で、本人の尊厳も損なうため避けましょう。
  • 見つけやすくする備え
    GPS端末や紛失防止タグを靴・かばん・杖に付ける。実際、GPS端末や紛失防止タグがきっかけで発見されたケースも報告されています5。衣類や持ち物に名前と連絡先を書いておくのも有効です。
  • 地域に事前登録する
    多くの自治体が「認知症SOSネットワーク(見守りネットワーク)」を運営しています。あらかじめ本人の情報や写真を登録しておくと、いなくなった際に警察・交通機関・協力事業者へ一斉に連絡が回り、早期発見につながります6。お住まいの市区町村や地域包括支援センターに問い合わせてみてください。

いなくなったときの初動

ためらわずに、早めに警察(110番)へ連絡してください。「家族が捜すべき」と抱え込む必要はありません。あわせて地域包括支援センターや、登録済みのSOSネットワークにも連絡します。発見が早いほど安全です。

外へ出ようとする本人への声かけ

前に立ちふさがって止めると、かえって興奮させます。後ろからではなく横に並び、行き先を否定せずに寄り添いましょう。

声かけの例

「どちらまで行かれますか? 途中まで一緒に行きましょう。」「その前に、お茶を一杯どうですか?」

③ もの盗られ妄想・被害妄想への対応

なぜ起きるのか

自分でしまった場所を忘れてしまい、「なくなった=盗られた」と感じてしまう症状です。「自分がなくすはずがない」という気持ちの裏返しでもあります。そして、その「犯人」にされやすいのが、一番近くで世話をしている家族です。※この理由は次のセクションで詳しく触れます

どう対応するか

犯人扱いされても、否定も反論もしないのがコツです。「盗ってないでしょ」と言い返すと、口論になり関係がこじれます。まずは「それは困ったね、一緒に探そう」と、本人の不安に寄り添って一緒に探しましょう。

見つけたときも、本人に手渡すのではなく「ここにあったよ」と本人が自分で見つけた形にすると、プライドを傷つけません。

避けたいこと

「証拠を出して」と問い詰める、「そんなわけない」と一蹴する、見つけたときに「ほら、あなたが置いたんでしょ」と責める。

声かけの例

「大事なものがなくなって不安だよね。一緒に探そうか。」「あ、ここにあったね。よかった。」

④ 同じ話・同じことを何度も繰り返すときの対応

なぜ起きるのか

直前の出来事を数分で忘れてしまう、短期記憶の障害が原因です。本人にとっては、毎回が「初めて話すこと」「初めて聞くこと」。わざと繰り返しているわけでも、困らせようとしているわけでもありません。同じ質問の裏に、不安が隠れていることもあります。

どう対応するか

「さっきも言ったでしょ」という指摘は、本人を不安にさせるだけで逆効果です。難しくても、毎回はじめて聞いたように相づちを打つのが基本です。

何度も続いてつらいときは、答えを紙に書いて見える場所に貼る、別の話題や作業へさりげなく気を向ける、といった工夫も助けになります。

避けたいこと

「何回も言わせないで」と叱る、うんざりした態度を見せる。

声かけの例

「そうなんだね。」と受けてから、「そういえば、お茶が入りましたよ。」

⑤ 嘘をつく・取り繕う(作話)への対応

なぜ起きるのか

忘れてしまったことや失敗を、なんとか取り繕おうとして、つじつまの合わない話をすることがあります。これは「作話」と呼ばれ、本人を守るための無意識の反応で、意図的な嘘とは違います。

どう対応するか

嘘を論破して事実を認めさせても、本人が恥をかき、傷つくだけです。生活に実害がなければ、深追いせずに話を合わせて受け流しましょう。プライドを守ることが、穏やかな関係につながります。

避けたいこと

矛盾を指摘して追い詰める、「嘘つき」と決めつける。

声かけの例

「そうだったんだね、大変だったね。」

【参考】その他のよくある場面

  • 帰宅願望(家にいるのに「家に帰る」と言う)
    今いる場所を自分の家だと認識できない見当識障害が背景にあります。否定せず、「暗くなってきたから明日にしましょう」「夕飯を食べてからにしましょうね」と、いったん気持ちを受け止めて時間を置きます。
  • 幻視(そこにない虫や人が見える)
    レビー小体型でよくみられる傾向があります。本人には本当に見えているので、「何もいないよ」と否定せず、「追い払っておいたよ」と安心できる行動をとると落ち着くことがあります。
  • 介護拒否(入浴・着替えなどを嫌がる)
    羞恥心や「まだ自分でできる」という自立心の表れです。無理強いせず時間を改める、家族には抵抗してもデイサービスなど第三者(専門職)には応じることも多いので、外部の力を借りるのも有効です。

なぜ「一番世話をしている自分」が責められるのか

「これだけ尽くしているのに、どうして私が泥棒扱いされ、暴言を浴びなければいけないのか…。」

認知症介護のなかでも、この理不尽さは特に心を削ります。でも、この「なぜ」を知っておくことは、あなた自身の心を守るためにとても大切です。

攻撃が身近な家族に向かうのには、理由がある

暴言やもの盗られ妄想の矛先は、たいてい最も近くで介護している人に集中します。これには理由があります。

認知症の人は、記憶や判断力が揺らぐなかで、常に強い不安のなかを生きています。そのなかで、「この人なら、どんな感情をぶつけても自分を見捨てない」と最も信頼している相手だからこそ、不安をぶつけてしまうのです。

言い換えれば、あなたが責められるのは、あなたの介護が下手だからではありません。むしろ、一番の安心できる存在だと本人が感じている証とも言えます。つらい現実に変わりはありませんが、この見方を知っているだけで、受け止め方が少し変わります。

「症状」と「本人」を切り分ける

暴言も妄想も、病気の症状であって、あなたへの本心からの否定ではありません。「憎くて言っているのではなく、病気がそう言わせている」。この切り分けができると、言葉を丸ごと受け止めて傷つくことを、少し避けられます。

それでも、毎日となれば心はすり減ります。うまく笑顔で対応できず、きつく当たってしまう日があっても、それはあなたが冷たいからではありません。それだけ限界まで頑張っているという証拠です。完璧な介護者などどこにもいません。うまくいかない日があって当たり前、という前提を、どうか自分にも許してあげてください。

介護者自身の心のケアについては、介護ストレスの限界サインと解消法もあわせて参考にしてください。

家族だけで抱え込まない ─ 困ったときの相談先マップ

ここまで接し方を見てきましたが、最後に一番お伝えしたいのは、「接し方の工夫だけで、すべてを抱え込まないでほしい」ということです。認知症介護は長く続きます。頼れる先を早めに知っておくことが、あなたと親御さんの両方を守ります。

「抱え込み」は、共倒れの最大の原因

「親のことは家族で最後まで」という責任感は尊いものですが、行きすぎると危険です。

国の調査では、家族など養護者による高齢者虐待の相談・通報は令和5年度に4万386件と過去最多を更新し、その発生要因の第1位は「介護疲れ・介護ストレス」でした。被害を受けた高齢者の多くが認知症のある方です7

また、同居しておもに介護している人の約6割(60.8%)が「悩みやストレスがある」と答え、その原因のトップは男女とも「家族の病気や介護」でした8

これらの数字は、認知症介護が「気合いと愛情」だけで乗り切れるものではないことを示しています。外部に頼ることは、手抜きでも親を見捨てることでもありません。介護を長く安全に続けるための、必要な備えです。

まず知っておきたい相談先

「どこに相談すればいいか分からない」という方のために、主な相談先を役割ごとに整理しました。迷ったら、まずは地域包括支援センターに連絡すれば大丈夫です9

相談先どんなときに・何をしてくれるか
地域包括支援センター高齢者の総合相談窓口。市区町村ごとに設置。介護保険の申請支援、ケアプラン、困りごと全般を無料で相談できる「最初の駆け込み寺」。
かかりつけ医・もの忘れ外来まず体調の変化を相談する窓口。必要に応じて専門の医療機関へつないでくれる。
認知症疾患医療センター都道府県などが指定する認知症専門の医療機関。詳しい診断や、対応が難しい症状の相談ができる。
認知症初期集中支援チーム本人が受診を嫌がる、サービスにつながらない、といった困難なケースに、専門職が家庭を訪問して支援する(原則おおむね6か月)。地域包括支援センター等が窓口。
認知症の人と家族の会介護経験者や当事者が集う全国組織。電話相談や、同じ立場の家族が悩みを分かち合う「つどい」を各地で開催。
認知症カフェ/認知症サポーター地域の居場所や見守りの担い手。気軽に立ち寄って情報交換や息抜きができる。

相談先の名前や連絡先は、いざというときにすぐ動けるよう、今のうちにメモしておくことをおすすめします。担当のケアマネジャーがいる場合は、気になる症状を共有しておくと、デイサービスやショートステイを組み込んだ「休息(レスパイト)」の計画も立てやすくなります。

まだ受診や介護保険の申請にたどり着いていない場合や、本人が受診を嫌がって困っている場合は、認知症の初期症状と見分け方|家族がすぐすべき初動5ステップで、受診を嫌がるときの声かけと、相談から要介護認定までの進め方を解説しています。

対応だけでは支えきれないと感じたら ─ 限界サインと「距離を保つ」選択肢

接し方を工夫し、サービスを使っても、在宅での介護には限界が訪れることがあります。それは決して「頑張りが足りなかった」からではありません。症状の進行に、家族だけの対応が追いつかなくなるのは自然なことです。

ここでは、そのサインと、次の選択肢について触れておきます。

在宅介護の「限界サイン」

次のような状態が続くなら、住まいや介護体制の見直しを考えるタイミングかもしれません。

  • 睡眠が破綻している
    夜間の徘徊や興奮が続き、介護者が慢性的な睡眠不足で、仕事や生活に支障が出ている。
  • 安全が保てない
    暴力・暴言がエスカレートし、家族に危険が及ぶ。あるいは自分が「手を上げてしまいそう」と感じる瞬間がある。
  • 事故のリスクを防ぎきれない
    火の消し忘れや外出中の事故など、見守りや工夫だけでは防げなくなってきた。
  • 介護者自身が心身を壊しかけている:気分の落ち込みが続く、体調不良が回復しない。

とくに「手を上げてしまいそう」という感覚は、我慢ではなく助けを求めるべきサインです。すぐにケアマネジャーや地域包括支援センター、主治医に相談してください。

住まいや距離の見直しは、親御さんの安全と、あなた自身の人生の両方を守る、責任ある選択です。詳しくは在宅介護「もう限界かも」と感じたらで、施設や住まいの見直しを含めた選択肢を整理しています。

「近くで見守りつつ、少し離れる」という考え方

選択肢は「在宅を続ける」か「施設に入れる」かの二択ではありません。両者の間に、物理的な距離を少し取りながら見守るという考え方もあります。

同じ空間で24時間向き合うと、お互いに逃げ場がなく、摩擦も増えがちです。少し距離があるだけで、暴言や帰宅願望が和らいだり、介護者が息をつけたりすることもあります。

主な住まいの選択肢を、費用・プライバシー・介護負担・将来の扱いなどの観点で整理すると、次のようになります。認知症の方は環境の変化に敏感で、住み替え自体が混乱(リロケーションダメージ)を招くこともあるため、選択には本人の状態と相談が欠かせません。

選択肢費用の目安プライバシー/距離認知症介護での留意点
在宅を続ける(サービス強化)介護保険の自己負担中心同一空間で近い環境が変わらず本人は安心。ただし介護者の負担は大きい。
施設・グループホーム月10万〜30万円程度(種類による)分離される専門的な見守りが得られる。入居時の環境変化に配慮が必要。
母屋のリフォーム工事費(介護保険の住宅改修は上限20万円・原則1〜3割負担、要確認)同一空間で近い動線は改善するが、同居のストレスは残る。
敷地内の別棟(離れ)建て方により幅が大きい同じ敷地内で「ほどよい距離」見守りつつ生活空間を分けられる。設置条件の確認が必要。

選択肢の一つ|庭に置く介護ハウス「シニアリビング」

「同じ敷地内で、ほどよい距離を保ちたい」という場合の選択肢の一つが、当社の別棟介護ハウス「シニアリビング」です。

仕様

  • 自宅の庭に置くタイプの介護専用ハウスで、母屋のリフォーム工事は不要です。工場で仕上げた状態でクレーン付きトラックで運び、設置します。
  • 給排水をつなげば、トイレや浴室の設置も可能です。
  • 高断熱仕様で、冬の寒さ・夏の暑さをやわらげ、ヒートショック対策にも配慮しています。
  • 使い終わった後は買取にも対応でき、従来の解体費用を抑えられる場合があります。

向き・不向き

  • 向いているケース:まだ身の回りのことがある程度でき、「近くで見守りつつ、生活空間は分けたい」段階。庭に設置スペースがあり、給排水の接続ができる場合。
  • 慎重な検討が必要なケース:夜間対応や見守りが常時必要な進行した段階、土地に余裕がない場合、広い間取りが必要な場合。また、環境の変化に弱い方は、住み替えのタイミングと本人の状態をケアマネジャー等と相談することをおすすめします。設置には用途地域や建築上の条件確認も必要です。

「これが一番」という提案ではありません。在宅継続・施設・リフォームなども含め、ご家庭の条件に合わせて比較検討する材料の一つとして、頭の片隅に置いていただければと思います。

今日からできる ─ 認知症の親への接し方チェックリスト

最後に、この記事のポイントを「今日から実践できること」に落とし込みました。全部を一度にやる必要はありません。できそうなものから一つずつで大丈夫です。

Check!

【接し方】まずは今日の会話から

  • 間違いを正したくなっても、いったん「そうなんだね」と受け止める
  • 用件は一つずつ、短く、目線を合わせてゆっくり伝える
  • 困った言動に出会ったら「なぜだろう?(体調・環境・不安)」と理由を探す

【備え】もしものために

  • 徘徊に備え、自治体のSOSネットワークに登録し、GPSや連絡先の記入を用意する
  • 地域包括支援センターとケアマネジャーの連絡先をメモしておく
  • 気になる症状は記録して、医療・介護の専門職に共有する

【自分を守る】抱え込まないために

  • 「症状であって、本心ではない」と切り分ける
  • デイサービスやショートステイで、意識的に休息(レスパイト)の時間をつくる
  • うまくできない日があっても、自分を責めない

よくある質問

Q
同じ話を何度もされて、つい「さっきも聞いた」と言ってしまいます。どうすればいいですか?
A

「さっきも言ったでしょ」という指摘は避けるのが基本です。本人は短期記憶の障害で、毎回「初めて話すこと」として繰り返しているため、指摘されても不安が増すだけです。難しくても、毎回はじめて聞いたように相づちを打ち、つらいときは答えを紙に書いて貼る、別の話題にさりげなく切り替える、といった工夫が助けになります。

Q
暴言に思わず怒鳴り返してしまう自分が嫌になります。私が悪いのでしょうか?
A

いいえ、あなたが悪いわけではありません。暴言は病気の症状であって本心からの否定ではなく、しかも「見捨てないと信頼している相手」だからこそ向かいやすいものです。うまく対応できない日があるのは、それだけ限界まで頑張っている証拠です。完璧を目指さず、デイサービスなどで意識的に休息をとりながら、一人で抱え込まないことが大切です。

Q
徘徊が心配です。玄関に鍵をかけて外に出られないようにしてもいいですか?
A

外から施錠して閉じ込めるのは、火事などの緊急時に危険で、本人の尊厳も損なうため避けたい方法です。玄関に開閉を知らせるセンサーやチャイムを付ける、GPS端末や連絡先を記した名札を持ち物に付ける、自治体の「認知症SOSネットワーク」に事前登録する、といった備えのほうが安全です。もしいなくなったら、ためらわず早めに警察へ連絡してください。

Q
薬を飲めば、暴言や妄想は落ち着きますか?
A

薬に関する判断は医療の領域のため、この記事では触れません。ただ、暴言や妄想などの症状は、体調不良や不安、環境の不快さが引き金になっていることが多く、接し方や環境を見直すだけで和らぐこともあります。気になる変化や体調については、かかりつけ医やもの忘れ外来に相談し、専門家の判断をあおいでください。

Q
まず、どこに相談すればいいですか?
A

迷ったら、まずお住まいの地域の「地域包括支援センター」に連絡すれば大丈夫です。高齢者の総合相談窓口で、介護の困りごと全般を無料で相談でき、必要なサービスや医療につないでくれます。あわせて、かかりつけ医への相談や、同じ立場の家族が集まる「認知症の人と家族の会」の電話相談も、心の支えになります。

まとめ|「理由を探す」ことが、お互いを楽にする第一歩

認知症の暴言・徘徊・妄想は、本人の性格でも、あなたの介護の失敗でもありません。不安や混乱から生まれる「困りごとのサイン」です。

だからこそ、言動を無理にやめさせるのではなく、その裏にある理由を探し、否定せずに受け止める。この向き合い方が、本人にも家族にも穏やかな時間を取り戻す第一歩になります。

この記事の要点を振り返ります。

Point
  • 困った言動には理由がある。接し方の軸は「否定しない」「理由を探す」「抱え込まない」の3つ。
  • 症状ごとに「なぜ起きるか」を知れば、暴言・徘徊・妄想・繰り返しにも落ち着いて対応できる。
  • 徘徊は自宅の備え(センサー・GPS・SOSネットワーク登録)と、いなくなったときの早めの通報が命を守る。
  • 暴言や妄想が身近な家族に向かうのは、あなたが信頼されている証。症状と本人を切り分けて、自分を責めない。
  • 一人で抱え込まず、地域包括支援センターなどの相談先と休息(レスパイト)を早めに使う。

それでも、対応を工夫するだけでは支えきれない時期は訪れます。無理を重ねて共倒れになる前に、住まいや距離を見直すことも、親御さんとあなた自身を守る大切な選択です。

「近くで見守りながら、生活空間は少し分ける」という方法に関心があれば、庭に設置する別棟の介護ハウスシニアリビング「距離を保つ介護」もひとつの選択肢としてご覧ください。まずは気軽に、情報を集めることから始めてみてください。あなたは、決して一人ではありません。

脚注

  1. 国立長寿医療研究センター「認知症初期集中支援チーム員研修テキスト」(2024). https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/kenshu/documents/ninchisyo.tekisuto2024.pdf ↩︎
  2. 国立長寿医療研究センター「認知症初期集中支援チーム員研修テキスト」(2024). https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/kenshu/documents/ninchisyo.tekisuto2024.pdf ↩︎
  3. 内閣府「令和6年版高齢社会白書」(2024)※認知症有病者数の将来推計(厚生労働省研究班推計). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s2s_02.pdf ↩︎
  4. 警察庁「令和6年における行方不明者の状況」(2025). https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/R6_yukuefumeishakouhoushiryou2.pdf ↩︎
  5. 警察庁「令和6年における行方不明者の状況」(2025). https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/R6_yukuefumeishakouhoushiryou2.pdf ↩︎
  6. 神奈川県「認知症等行方不明SOSネットワーク」. https://www.pref.kanagawa.jp/documents/25826/hp_ninchisyo_sos_210303_ol.pdf ↩︎
  7. 厚生労働省「令和5年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001366830.pdf ↩︎
  8. 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」(2023). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html ↩︎
  9. 厚生労働省「認知症に関する相談先(認知症施策)」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html ↩︎