「男だから」と抱え込む前に|男性介護者の悩みと支援のすべて

この記事は約19分で読めます。

「料理も洗濯もしたことがなかったのに、気づけば自分が親(妻)の介護の中心になっていた。」

「つらいのに、職場でも家でも弱音を吐けない。」

もしあなたが、そんな孤独を抱えているなら、それはあなたの能力や愛情が足りないからではありません。男性介護者には、男性ならではの壁があるのです。

いま、同居の主な介護者の約3割は男性です。息子が母を介護する「息子介護」も、夫が妻を介護する「夫介護」も、決して特別ではありません。

この記事では、男性介護者がひとりで抱え込まずに介護を続けるために、悩みの「正体」と、今日から使える支援策・相談先を、データと事例にもとづいて具体的に解説します。

この記事でわかること
  • 男性介護者が直面する5つの課題と、その「正体」
  • 息子介護・夫介護それぞれのリアルなつまずきと乗り越え方
  • なぜ男性は追い詰められやすいのか?虐待・離職に至る前に知るべきこと
  • 相談先・制度・仲間・仕事との両立|男性介護者を支える支援策の4本柱
  • 今日・今週・今月からできる、最初の一歩チェックリスト

「男だから」とひとりで抱えていませんか|増える男性介護者のリアル

料理も洗濯もしたことがなかったのに、ある日突然、親や妻の介護を担うことになった。誰に何を相談すればいいのかわからず、職場でも家でも本音を言えないまま、気づけば自分ひとりで抱え込んでいる…。

もしそんな状態なら、まず知っておいてほしいことがあります。それは、あなたの能力や愛情が足りないからではない、ということです。

そして、もう一つお伝えしたいことがあります。男性の介護がうまくいきにくいのは、あなたの努力不足のせいではありません。家事や身体介護を担ってきた経験の少なさ、そして「男らしさ」をめぐる社会の仕組みなど、性別に根ざした背景があるからです。同じように戸惑い、それでも踏ん張っている男性は、決してあなただけではないのです。

この記事の結論を先にお伝えします。男性介護者がつぶれずに介護を続ける最大のコツは、「自分ひとりで完璧にやろうとしない」こと、そして「頼ることを、介護を続けるための戦略として使う」ことです。弱音を吐くのは負けではありません。むしろ、限界の手前で人や制度に頼れる人こそ、介護を長く続けられます。

では、なぜ今これほど男性介護者が増えているのでしょうか。まずは現状を、数字で確認することから始めましょう。

データで見る男性介護者の現状|なぜ今「男性の介護」なのか

まず、いまの状況を数字で確認しておきましょう。「自分だけが大変なのでは」という孤立感をやわらげるうえで、現実を知ることはとても大切です。

主な介護者の約3割が男性という事実

厚生労働省の調査によると、要介護者と同居している主な介護者のうち、男性が占める割合は31.1%にのぼります1。かつて「介護は嫁や娘がするもの」とされていた時代から、状況は大きく変わりました。いまは息子や夫が主役として介護を担う家庭が、決して珍しくないのです。

背景には、いくつかの社会的な変化があると考えられます。具体的には、次のような要因です。

  • 未婚率の上昇により、親と同居する独身の息子が増えている。
  • 共働きや少子化で、介護を担えるきょうだいが少なくなっている。
  • 高齢化が進み、高齢の夫が妻を介護する「老老介護」が増えている。

つまり男性介護者の増加は、個人の事情というより、社会構造の変化が生み出した必然と言えます。あなたが介護の担い手になったのも、その大きな流れの中にあるのです。

「孤立しているのは自分だけ」という思い込みを手放す

男性介護者の問題に長年取り組んできた立命館大学の津止正敏氏は、男性介護者は全国に100万人以上いると指摘しています2。同じように悩み、戸惑い、誰にも言えずに踏ん張っている男性が、それだけ大勢いるということです。

それなのに、なぜ「自分だけが孤立している」と感じてしまうのでしょうか。理由のひとつは、男性が介護の悩みを人に話しにくいことにあります。職場では言い出せず、地域の介護者の集まりは女性が中心で入りづらい。結果として、当事者同士がつながる機会を持てないまま、それぞれが孤立しているのが実情です。

一方で、見過ごせないデータもあります。家族などによる高齢者虐待では、加害者に占める息子・夫の割合が突出して高いことがわかっています(詳しくは後の章で扱います)。

これは男性が冷たいからではなく、ひとりで抱え込んだ末に追い詰められやすい構造があることを示しています。だからこそ、早めに悩みの正体を知り、手を打つことが大切なのです。

男性介護者が直面する5つの課題|悩みの「正体」を知る

男性介護者の「つらさ」は、漠然としているようで、実はいくつかの型に整理できます。自分がどれに当てはまるのかを知るだけで、対処の糸口が見えてきます。ここでは代表的な5つの課題を見ていきましょう。

課題1|家事・身体介護の経験不足と「俺流介護」の限界

多くの男性は、炊事・洗濯・掃除といった日常の家事や、排泄・入浴の介助を担ってきた経験が乏しいまま、主介護者になります。経験がないこと自体は、恥ずべきことではありません。問題は、その不慣れをどう乗り越えるかです。

このとき男性に多いのが、仕事の延長で「効率」や「マニュアル化」で乗り切ろうとする、いわゆる「俺流介護」です。しかし、人の老いや認知症の進行は、計画どおりには進みません。思いどおりにならない現実に、強い徒労感や無力感を抱きやすくなる傾向があります。

「こんなに頑張っているのに、なぜうまくいかないのか」と感じているなら、それは努力不足ではなく、アプローチを変えるサインかもしれません。

課題2|「ひとりで何とかすべき」という思い込みによる孤立

男性介護者の困難を深刻にする最大の要因は、社会的な孤立だと考えられます。

背景には、「男は自立して、自分の力で物事をコントロールすべきだ」という根強い規範があります。この規範を強く内面化していると、介護に行き詰まっても、それを「弱み」と感じて人に打ち明けられません。

地域包括支援センターやケアマネジャーといった専門職を前にしても、「自分はちゃんとやれています」と取り繕ってしまう。その結果、行政や地域の支援ネットワークから孤立し、状況が限界寸前まで悪化してから初めて周囲に気づかれる、というケースが少なくありません。

助けを求められないことそのものが、男性介護者特有のリスクなのです。

課題3|仕事と介護の両立困難と「介護離職の罠」

40〜50代で親の介護に直面する息子世代は、職場で責任あるポジションに就いている時期と重なりがちです。「介護をしている」と知られるとキャリアに不利になるのではと恐れ、介護を隠したまま有給休暇でやりくりする男性も多く見られます。

けれど介護は育児と違い、いつ終わるかが見えません。突発的な対応も頻繁に起こります。有給を使い果たし、心身ともに限界に達したところで「もう自分が辞めるしかない」と思い詰め、勢いで介護離職してしまう。これが「介護離職の罠」です。

一度離職すると、特に中高年男性が同じ条件で再就職するのは難しく、自身の老後資金まで失いかねません。両立支援制度の正しい使い方は後の章で詳しく解説します。

課題4|「完璧にやらねば」という抱え込みとレスパイトの拒否

責任感が強い人ほど、「主介護者になった以上、最後まで完璧に面倒を見なければ」と自分を縛りがちです。その思いから、デイサービスやショートステイといった休息(レスパイト)の利用を、「親や妻を見捨てる行為」「自分の努力不足」と誤って捉えてしまうことがあります。

しかし、これは逆効果になりかねません。サービスを拒んで抱え込むほど、睡眠不足と疲労が蓄積し、心の余裕が失われていきます。適度にプロの手を借りることは、怠慢ではなく、介護を長続きさせるための合理的な判断です。

課題5|誰にも言えない疲労の蓄積と心身の不調

ここまでの課題は、すべて「疲労の蓄積」という一点につながっています。家事の不慣れ、孤立、仕事との板挟み、完璧主義。これらが重なると、睡眠・食事・自分の時間が削られ、知らないうちに心身が消耗していきます。

男性は不調を「気合いで乗り切れる」と過小評価しがちな傾向もあります。けれど、介護は短距離走ではなく長距離走です。介護する人自身が倒れてしまっては、元も子もありません。

次の章からは、息子介護・夫介護それぞれのリアルな実情と、具体的な乗り越え方を見ていきます。

【深掘り】息子介護のリアル|つまずきと乗り越え方

「息子介護」と検索する方の多くは、母親(ときに父親)の介護を担い始め、戸惑いの渦中にいます。ここでは息子介護に特有のつまずきと、その乗り越え方を具体的に見ていきます。

異性である母の身体介護への戸惑い

息子介護でまず壁になりやすいのが、異性である母親の身体介護です。

着替えや排泄、入浴の介助は、相手が実の母であっても、強い心理的な抵抗を伴います。母親の側も、息子に体を見られることに抵抗を感じることが少なくありません。

この戸惑いは、決して薄情だからではなく、ごく自然な感覚です。だからこそ、無理にすべてを自分で抱える必要はありません。

入浴や排泄といったデリケートな介助は、訪問介護やデイサービスのプロに任せるという選択も有効です。「自分でやらないと親不孝だ」と思い込む必要はないのです。

「お膳立て」の不在というつまずきの本質

息子介護のつまずきには、見えにくい本質があります。社会学者の平山亮氏は、著書『介護する息子たち』のなかで、ケアには物理的な作業だけでなく、相手の機嫌をとり、尊厳を守り、関係を円滑に保つ「お膳立て(感情の調整)」が不可欠だと指摘しています3

これまで、この「お膳立て」は主に女性が担ってきました。母親自身や、姉妹、妻が、見えないところで関係を整えてきたのです。ところが、単身の息子が親を介護する場合、その担い手がいません。

息子は「オムツを替える」「食事を出す」といったタスクをこなせば介護が成り立つと錯覚しがちですが、実際にはうまくいかず、戸惑うことになります。

認知症の親に「論理」が通じないとき

とくに親が認知症の場合、論理的な説得やルール化は通用しません。何度説明しても同じ問いを繰り返し、約束も守られない。仕事では成果を出してきた人ほど、「自分のやり方が通じない」状況に強いいら立ちと混乱を覚えやすい傾向があります。

蓄積した混乱が限界を超えると、親への厳しい言動や、最悪の場合は虐待として表れてしまうことがあります。これは性格が冷酷だからではなく、「自分ひとりでコントロールできる」という思い込みが崩れたときに起きる、構造的な現象だと理解することが大切です。

乗り越え方の核心は、発想の転換にあります。

認知症の人を「説得」しようとするのではなく、本人が混乱しにくい「環境を整える」ことに目を向ける。そして、関係の調整というお膳立ての部分こそ、ケアマネジャーやヘルパーといったプロに積極的に委ねる。これは手抜きではなく、最も賢い役割分担です。

【深掘り】夫介護(老老介護)のリアル|身体の限界と異性介護の戸惑い

一方、高齢の夫が妻を介護する「夫介護」には、息子介護とは異なる固有の難しさがあります。多くは60〜70代以上の老老介護であり、介護する側にも体力や健康の不安がついて回ります。

介護する側の体力・健康という壁

夫介護でまず直面するのが、介護者自身の身体的な限界です。

ベッドからの移乗や入浴の介助は、若い人でも腰を痛めやすい重労働です。加齢や持病を抱えた夫が無理を続ければ、介護者が先に倒れる「共倒れ」のリスクが高まります。

ここで頼りになるのが、福祉用具と住宅改修、そして訪問サービスです。介護保険を使えば、手すりの設置や段差解消といった住宅改修、特殊寝台やスロープなどの福祉用具のレンタルが、一定の条件のもとで利用できます。
※要件や自己負担は要介護度や自治体により異なるため、ケアマネジャーや自治体に要確認です。

移乗や入浴は、無理せず福祉用具や訪問入浴に「外注」するという発想が、夫介護では特に重要になります。

伴侶を失っていく喪失感と異性介護の葛藤

夫介護には、身体面とは別の、深い心理的な苦しみもあります。長年連れ添い、家庭を一緒に切り盛りしてきた妻が、認知症などで少しずつその人らしさを失っていく。その喪失感は、はかりしれません。

さらに、妻の下着の着脱や排泄の介助といった異性介護には、強い戸惑いや羞恥が伴います。たとえば、ある男性介護者は、認知症の妻を外出先のトイレへ誘導し、下着の着脱を介助することが最もつらいと語っています。この切実な声は、地域の取り組みのなかで「認知症の人と介護者が使いやすいトイレ(Dトイレ)」の整備へとつながりました4

こうした葛藤は、誰にも相談できずに抱え込まれがちです。けれど、同じ立場の男性と語り合える場では、こうした本音こそが共感を呼びます。「つらい」と言葉にすることは、弱さではなく、状況を変える第一歩なのです。

なぜ男性は追い詰められやすいのか|「男らしさ」の呪縛と最悪の結末

ここまで見てきた課題の根っこには、共通するものがあります。それは「男はひとりで何とかすべき」という思い込み、いわば「男らしさ」の呪縛です。

この章では、その呪縛がもたらす最悪の結末と、そこへ至らないための考え方を、正面から見ていきます。

高齢者虐待データが示す厳しい現実

目を背けたくなるかもしれませんが、大切なデータがあります。

家族など(養護者)による高齢者虐待で、加害者の続柄を見ると、1位が息子で38.7%、2位が夫で22.8%を占めます5。息子と夫を合わせると、加害者の6割を男性が占めている計算です。主介護者に占める男性の割合(31.1%)と比べても、男性に偏っていることがわかります。

同じ調査では、虐待が起きる主な要因(複数回答)として、「被虐待者の認知症の症状」が56.6%、「介護疲れ・介護ストレス」が54.8%、「虐待者の理解力の不足や低下」が47.7%と報告されています6。つまり多くは、追い詰められた末に起きているのです。

「暴発」は冷酷さではなく、抱え込みの結果

このデータを、男性を責めるために紹介しているのではありません。むしろ逆です。手を上げてしまうのは、その人がもともと冷たいからではなく、誰にも頼れずひとりで抱え込み、疲労が限界を超えた末の「暴発」だと考えられるからです。

言い換えれば、これは特別な誰かの問題ではなく、孤立して頑張りすぎている男性介護者なら、誰の身にも起こりうることです。だからこそ、「自分は大丈夫」と過信せず、限界の手前で止まる仕組みを持つことが欠かせません。

SOSを出すことは「弱さ」ではなく「危機管理」

ここで発想を変えてみましょう。

仕事の世界では、トラブルを未然に防ぐ「リスクマネジメント(危機管理)」は、有能なリーダーの条件とされます。介護も同じです。「自分にはできないこと」を認め、早めに人や制度に助けを求めることは、弱さではなく、最も優れた危機管理です。

もし今、「自分が怖い」「親や妻に強くあたってしまう」と感じる瞬間があるなら、それは限界が近いサインです。

心身の限界サインの見分け方や、気持ちを立て直す具体的な方法については、「介護ストレスの限界サインと解消法|CBTで心を守る7つの技法」でくわしく解説しています。あわせて読むことで、追い詰められる前のセルフケアに役立ちます。

次の章では、実際に使える支援策を具体的に見ていきましょう。

男性介護者を支える支援策|相談先・制度・仲間・両立の4本柱

ここからは、「では具体的にどうすればいいのか」に答えます。男性介護者が使える支援策は、大きく4つの柱に整理できます。①相談する、②仲間とつながる、③仕事と両立する、④距離を取るです。

順番に見ていきましょう。

柱1|地域包括支援センターを「伴走者」にする

まず押さえてほしいのが、公的な相談窓口である地域包括支援センターです。

保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーといった専門職が配置され、介護の総合相談に無料で応じてくれます。自治体によっては「高齢者支援センター」「あんしん相談室」などの名称で、より身近な地域に窓口を設けています。

どんなことを相談できるのか、利用の流れについては、「地域包括支援センターとは?相談できること・利用方法」でくわしく解説しています。

大切なのは、「もう限界」になってからではなく、「少し心配だ」という段階で相談することです。

早めに専門職とつながれば、介護保険の申請から、サービスの組み立て、いざというときの避難先まで、あなたの「伴走者」になってくれます。ケアマネジャーは、単なる手配係ではなく、親や妻との関係調整まで担ってくれる専門家として、遠慮なく頼ってかまいません。

柱2|男性介護者の会・メンズケアラーズカフェでつながる

一般的な家族介護者の集まりは、女性の参加者が中心で、男性は「家事の初歩的な悩み」や「妻の排泄介助の戸惑い」を口にしづらいことがあります。そんなときに力になるのが、男性だけが集まる「男性介護者の会」や「メンズケアラーズカフェ」です。

同じ立場の男性が語る失敗談やぐちを聞くと、「うまくできないのは自分だけじゃない」と実感できます。この安心感が、孤立感を解きほぐします。お住まいの地域にそうした場があるかは、地域包括支援センターや自治体の窓口で尋ねてみるとよいでしょう。

柱3|仕事と介護を両立する制度を「戦略的に」使う

仕事と介護の両立で最も大切なのは、「介護休業は、自分が介護をするための休みではない」という発想の転換です。

育児・介護休業法では、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して介護休業を取れます7。この期間は、自分がつきっきりで介護するためではなく、ケアマネジャーと体制を整え、自分が職場に復帰しても介護が回る仕組みを作る「準備期間」として使うのが本来の趣旨です。

休業中は、雇用保険から賃金の67%にあたる介護休業給付金が支給されます8。さらに、急な通院の付き添いやケアマネ面談には、年5日まで(対象家族が2人以上なら年10日)取得でき、時間単位でも使える「介護休暇」を組み合わせられます9

実際、介護や看護を理由に離職する人は年間およそ10.6万人にのぼります10。その多くは「制度を知らなかった」「使い方がわからなかった」ことが背景にあると考えられます。

介護を職場で隠さず、早めに上司や人事に伝えて制度を確認すること。これが、キャリアと収入を守る最大の防衛策です。

※制度の要件や社内手続きは勤務先や最新の法令で必ず確認してください。

制度使える日数・期間主な使いどころ
介護休業対象家族1人につき通算93日(3回まで分割可)ケアマネと連携し、介護の「体制」を構築・試運転する
介護休暇年5日まで(家族2人以上は年10日/時間単位可)突発的な通院付き添い、ケアマネ面談など
介護休業給付金賃金の約67%を支給介護休業中の収入を一定程度カバーする

柱4|レスパイトで「距離を取る」時間を確保する

4つ目の柱は、要介護者と物理的・心理的に離れる時間(レスパイト=休息)を意図的に作ることです。デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)を使えば、その間はプロが介護を担い、あなたは休んだり仕事をしたりできます。

「他人に預けるのはかわいそう」と感じる必要はありません。適度な距離は、互いの尊厳を守り、介護を長く続けるための土台です。むしろ、介護する人が休めない体制こそが、共倒れの原因になります。

次の章では、この「距離を取る」という発想を、住まいの選択肢にまで広げて考えてみます。

介護と「距離を取る」という発想|サービス活用と住まいの選択肢

「距離を取る」とは、介護を放棄することではありません。互いの生活と心を守りながら、介護を続けるための工夫です。その手段は、サービスの利用だけでなく、住まいの工夫にも広がります。

距離の取り方は一つではない|4つの選択肢を比較する

介護される人とどう暮らすかには、いくつかの選択肢があります。

それぞれに長所と短所があり、「どれが正解」というものではありません。費用・介護負担・プライバシー・将来の扱いといった観点で比較し、自分たちの条件に合うものを選ぶことが大切です。

選択肢介護のしやすさプライバシー費用・将来の扱い
同居のままサービス活用近くで見守れる互いに保ちにくい追加費用は比較的小さい
施設に入居する専門職に任せられる本人の生活拠点が変わる月額費用が継続的に発生
近居・住み替え距離により負担増の場合も保ちやすい住み替え費用・売却等の検討が必要
別棟(離れ)で同じ敷地にすぐ行ける距離を保てる互いに保ちやすい設置費用・設置条件の確認が必要

たとえば「同じ敷地にいたいが、生活空間は分けたい」という場合、母屋とは別に庭へ小さな別棟を置く方法があります。これなら、すぐ様子を見に行ける近さと、互いのプライバシーを両立しやすくなります。(※敷地の広さや法規制など、設置の条件は事前の確認が必要です。)

選択肢の一つとしての「別棟介護」|事実と向き不向き

こうした「適度な距離を保つ」考え方を形にした選択肢の一つに、庭に設置する介護専用の別棟「シニアリビング」があります。

仕様

  • 自宅はそのままに、庭へ介護専用ハウスを設置するため、大がかりなリフォーム工事が不要です。
  • 工場で仕上げた状態で運搬・設置し、給排水をつなげばトイレや風呂も設けられます。
  • 長く室内で過ごす前提で、高断熱仕様にしています。ヒートショック対策や冷暖房効率の面で利点があります。
  • 使い終えた後は買取の相談もでき、従来の建物で生じがちな解体費用を抑えられる場合があります。

向いているケース・慎重に考えたいケース

  • 向いている:同じ敷地で近さを保ちつつ、互いのプライバシーや生活リズムを分けたい家庭。庭にスペースを確保できる場合。
  • 慎重に考えたい:敷地に十分な広さがない場合や、本人が施設での専門的なケアを希望する場合。設置条件や費用は土地・自治体により異なるため、要確認です。

別棟介護は万能の正解ではなく、あくまで選択肢の一つです。施設や同居と並べて比較し、自分たちの条件に合うかどうかを冷静に見極めてください。

詳しい仕様や事例を知りたい方は、「距離を保つ介護」の特集ページも参考になります。

今日からできる|男性介護者の最初の一歩チェックリスト

最後に、読み終えたあとすぐ動けるよう、行動を時間軸で整理します。すべてを一度にやる必要はありません。まずは一つ、できそうなものから始めてください。

  • 今日できること
    • お住まいの地域包括支援センターの場所と連絡先を調べる。
    • 「自分の限界サインかも」と思う症状を一つ書き出してみる。眠れない、いら立つ、など。
  • 今週できること
    • ケアマネジャー、または職場の上司・人事のどちらか一人に「介護をしている」と話す。
    • 使える両立支援制度(介護休業・介護休暇)を勤務先の規程で確認する。
  • 今月できること
    • デイサービスかショートステイを一度試し、「距離を取る」時間を体験する。
    • 男性介護者の会やメンズケアラーズカフェが近くにないか窓口で尋ねる。

どれも、たった一歩です。

けれど、その一歩が「ひとりで抱え込む介護」から「みんなで支える介護」への分かれ道になります。あなたが倒れないことが、結局は親や妻のためにもなるのです。

よくある質問

Q
男性でも家族介護者の会や相談先を利用できますか?
A

はい、もちろん利用できます。地域包括支援センターは性別を問わず誰でも無料で相談できる公的窓口です。一般的な家族介護者の会が女性中心で入りづらい場合は、男性だけが集まる「男性介護者の会」や「メンズケアラーズカフェ」を探すとよいでしょう。同じ立場の男性と話すことで、孤立感がやわらぎます。

Q
母親や妻の入浴・排泄の介助が恥ずかしく、うまくできません。どうすれば?
A

異性の身体介護に戸惑うのは、薄情だからではなく、ごく自然な感覚です。無理にすべて自分で抱える必要はありません。入浴や排泄といったデリケートな介助は、訪問介護やデイサービス、訪問入浴などプロの手に任せるのが現実的な解決策です。「自分でやらないと親不孝」と思い込まなくて大丈夫です。

Q
仕事を辞めずに親の介護を続けることはできますか?
A

はい、可能です。育児・介護休業法では、対象家族1人につき通算93日まで介護休業を取れ、休業中は賃金の約67%の給付金が支給されます。この期間は自分が介護をするためではなく、ケアマネジャーと「自分が働きながらでも介護が回る体制」を作るために使うのがコツです。介護を職場で隠さず、早めに上司や人事へ相談しましょう。

Q
弱音を吐いたり人に頼ったりするのは、介護者として無責任ではないですか?
A

いいえ、まったく逆です。早めに人や制度に助けを求めることは、トラブルを未然に防ぐ「危機管理」であり、責任ある行動です。高齢者虐待の多くは、ひとりで抱え込んだ末に疲労が限界を超えて起きています。頼ることは、自分と大切な家族の両方を守るための最も賢い選択です。

Q
デイサービスやショートステイに預けるのは、親を見捨てることになりませんか?
A

いいえ、見捨てることにはなりません。要介護者と適度な距離をとる時間(レスパイト)は、互いの尊厳を守り、介護を長く続けるための土台です。介護する人が休めない体制こそ、共倒れの原因になります。プロに任せる時間を持つことは、怠慢ではなく、介護を続けるための合理的な判断です。

まとめ|「頼ること」は、介護を続けるための力になる

男性介護者がつぶれずに介護を続ける鍵は、たったひとつです。それは、「自分ひとりで完璧にやろうとしない」こと。

家事や身体介護に不慣れでも、弱音を吐きたくなっても、それはあなたの責任感が足りないからではありません。男性介護者が追い詰められやすいのは、社会の仕組みと「男らしさ」の呪縛による、構造的な問題なのです。

本記事の要点を振り返ります。

Point
  • 男性介護者は約3割を占め、いまや特別な存在ではない。孤立しているのは自分だけではない。
  • 悩みの正体は、家事・身体介護の経験不足、孤立、仕事との両立、抱え込みの4方向の負担。
  • 息子介護は、お膳立て(関係の調整)をプロに委ね、夫介護は身体介護を福祉用具やサービスに外注する。
  • 追い詰められる前に、相談先・制度・仲間・両立支援の4本柱を使う。
  • 頼ること=危機管理。介護と適度な距離をとることが、互いを守り、介護を長続きさせる。

大切なのは、限界が来てからではなく、「少し心配だ」という今のうちに動くことです。

まずは地域包括支援センターに足を運ぶ、ケアマネジャーに相談する、同じ立場の仲間とつながる。その一歩が、ひとりで抱え込む介護からあなたを解放します。

そして、介護と「適度な距離」をとる工夫のひとつとして、住まいを見直すという選択肢もあります。同じ敷地で近さを保ちながら生活空間を分けたい方は、庭に置く別棟という考え方も検討してみてください。

「距離を保つ介護」の特集ページで、具体的な事例や仕様を気軽にご覧いただけます。あなたが倒れないことが、結局は、大切な家族を守る一番の力になります。

脚注

  1. 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況(同居の主な介護者の状況)」(2023). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html ↩︎
  2. みんなの介護「津止正敏『男性介護者は全国に100万人以上、彼らの悩みをすくいあげる場をつくりたかった』」(2021). https://www.minnanokaigo.com/news/special/masatoshitsudome/ ↩︎
  3. 平山亮『介護する息子たち:男性性の死角とケアのジェンダー分析』勁草書房(2017). https://www.keisoshobo.co.jp/book/b279195.html ↩︎
  4. 日本認知症国際交流プラットフォーム「トイレの数だけ安心があるまちづくり『Dトイレプロジェクト』(町田市)」(2021). https://dementia-platform.jp/ja/article/331/ ↩︎
  5. 厚生労働省「令和5年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001415213.pdf ↩︎
  6. 厚生労働省「令和5年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001415213.pdf ↩︎
  7. 厚生労働省「介護休業制度特設サイト(育児・介護休業法の概要:介護休業・介護休暇)」(2024). https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/leave/ ↩︎
  8. 厚生労働省・ハローワーク「介護休業給付の内容(給付率67%)」(2024). https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_kaigo.html ↩︎
  9. 厚生労働省「介護休業制度特設サイト(育児・介護休業法の概要:介護休業・介護休暇)」(2024). https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/leave/ ↩︎
  10. 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査の結果(介護・看護を理由とする離職者数)」(2023). https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf ↩︎