老後の住まいを調べているうちに、「移設できる家」という言葉に行き当たった方は少なくないと思います。工場で仕上げて運び、据え、あとから動かすこともできる住まいです。
ただ、ご自分が家を動かす場面を思い浮かべてみると、これといって浮かんでこない。それなのに、なぜかその言葉が気になって、つい読み進めてしまう。そんな感覚をお持ちではないでしょうか。
この記事では、その「気になる」の正体を確かめたうえで、動かせるという性質がどこまで本物なのかを、建築基準法の条文と国の統計に当たりながら見ていきます。動かすことをおすすめする記事ではありません。ご自分の敷地と暮らしに照らして、選択肢として評価していただくための材料をお渡しします。
- 「移設できる家」を調べている方は、三つに分かれています
- 多くの方は、動かすつもりでこの言葉を調べていません
- 建てた家は、三十年ほどで失われています
- 法律は、家を動かすことを「建築」の一つに数えています
- 何が、移設を可能にしているのか
- 移設が必要になるのは、どういうときか
- 動かすときに、実際に何が起きるか
- 「固定資産税がかからない」という話は、どこまで当てはまるか
- 使い終わったあと – 買い取ってもらうという道
- 移設できる家が向かないケース
- 今日からできること – 「いま決めること」と「あとで決めてよいこと」を分ける
- 出口が最初から決まっている住まい——移設・買取ができる平屋ユニット
- よくある質問
- まとめ:置いた場所を、最終決定にしないという考え方
- 脚注
「移設できる家」を調べている方は、三つに分かれています
同じ言葉で検索していても、探しているものは同じではありません。この言葉で調べている方は、おおよそ三つに分かれます。以下は、当媒体が検索結果を見て整理したものです。
- これから用意する住まいとして、動かせる家を探している方
- いま住んでいる家そのものを、別の場所へ動かせないかと考えている方
- タイニーハウスやコンテナを使った小さな家の種類を知りたい方
二番目に当てはまる方は、この記事より曳家(ひきや)という言葉で調べたほうが早くたどり着けます。曳家は、建っている家を解体せずに持ち上げ、そのまま別の位置へ動かす工法で、古くから続いてきたものです。
ただし曳家は、いま建っている建物が対象です。これから用意する住まいの話とは、まったく別のものだとお考えください。
三番目の方は、小さな家にどんなかたちがあるのかを先に見ておくと迷いが減ります。平屋、タイニーハウス、移設できる家、母屋を活かす離れという四つのかたちについては、平屋・タイニーハウス・移設できる家・敷地内の離れまで含めた小さな家の全体像を整理した記事があります。
この記事が扱うのは、一番目です。工場で完成させてから運び、敷地に据え、必要になればもう一度動かせる住まいについて、老後の住まいという観点から書いていきます。
多くの方は、動かすつもりでこの言葉を調べていません
先に、この記事の結論をお伝えします。
「移設できる家」を検討する方の多くは、実際に家を動かす予定を持っていません。それでもこの言葉に引きつけられます。当媒体は、その理由が「動かせること」そのものではなく、その性質がもたらす別のものにあると考えています。
家は、建てた時点で選び直せなくなります
普通の家は、敷地の上で組み上がった瞬間に土地と一体になります。あとから「やっぱりここではなかった」と思っても、建物だけを持って移ることはできません。売るか、貸すか、壊すか、そのままにしておくか。選べるのはその四つです。
三十代でこの決断をするのと、六十代半ばでするのとでは、意味が変わります。若い頃なら、合わなければ十年後に住み替える時間が残っています。けれども六十代の住まい選びには、その先の十年でやり直すという前提が置きにくくなります。
間違えたときに、やり直す時間が残っていない。この感覚が、多くの方の検討を止めていると考えられます。
資料を集め、見学にも行き、それでも決めきれない。優柔不断だからではありません。決断の重さが、若い頃とは違うからです。
「移設できる」は、機能である前に状態です
ここで意味を持つのが「移設できる」という性質です。動かせる家は、置いた場所が最終決定にならない家です。据えたあとで事情が変われば、動かすという道が残ります。使い終われば、引き取ってもらうという道も出てきます。
実際に動かすかどうかは、この際どちらでも構いません。多くの方は動かさないまま暮らし続けるでしょう。それでも、取り消せる状態にあること自体が、決断のときの重さを下げます。
では、その「取り消せる」という感覚には、どれだけの裏づけがあるのでしょうか。次の章では少し遠回りをして、日本の住まいがこれまでどう扱われてきたかを、国の統計で確かめます。取り消せることの重みは、そこから見えてきます。
建てた家は、三十年ほどで失われています
「やり直しがきかない」という感覚は、気分の問題ではありません。日本の住宅がたどってきた事実が、その感覚を裏づけています。
日本の家が使われる期間は、欧米の半分以下です
国土交通省は、取り壊された住宅が建てられてから何年たっていたかを推計しています。日本は32.1年、アメリカは66.6年、イギリスは80.6年でした1。同じ資料は「日本の滅失住宅の平均築後年数は、諸外国に比して半分以下となっている」と述べています。
ただし、この数字にはいくつか前提があります。日本の値は2008年から2013年までの期間にもとづく推計で、直近の状況をそのまま表したものではありません。また、二つの調査時点のあいだで建築時期別の戸数がどれだけ減ったかから割り出した推計であって、取り壊された一棟ずつを追いかけた数字でもありません。
なお、比較した各国のデータは、それぞれ調査の年次が異なります。
それでも、日本の家が欧米の半分ほどの期間で失われてきたという傾向は、この推計から読み取れます。今の家を建てたときに三十年先を想像した方は、多くありません。けれども実際には、その三十年が家の寿命とほぼ重なっていました。
建てた家は、中古として次の方に渡りにくい状態です
もうひとつ、住まいの出口に関わる数字があります。新しく建てられた住宅と、中古として取引された住宅を合わせた数のうち、中古が占める割合は約14.5パーセント(平成30年)にとどまり、欧米諸国と比べると6分の1から5分の1程度の低い水準です2。
つまり、日本で家を手に入れる方の大半は、新しく建てられた家を選んでいます。建てた家を次の方へ渡すという道は、制度として閉じてはいないものの、実際には細い道です。「うちは売ればいい」と考えていた家が、思っていたほど簡単には買い手を見つけられない。この落差が、住まなくなった家の始末を難しくしています。
壊すことは、手続きを伴う作業です
では壊せばよいかというと、こちらにも段取りがあります。
建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律は、一定規模以上の解体工事について、コンクリートや木材などを種類ごとに分けながら計画的に工事を進めることを義務づけています3。この「一定規模以上」は、建築物の解体工事では床面積の合計が80平方メートルと定められています4。
実際、解体で出たものはほとんどが再資源化されています。建設廃棄物全体の再資源化・縮減率は、2018年度の実態調査で97.2パーセント、2022年度のモニタリング調査でも97.4パーセントでした5。
ここから分かるのは、家を壊すという行為が、重機で崩して運び出せば終わりという作業ではないということです。分けて、運んで、再び資源にする。手順が決まっている以上、そこには費用と時間がかかります。この負担は、住まなくなった家を持つ方に回ってきます。
「壊して建て直す」は、二十年前より大きく減りました
もうひとつ、住まいの取り扱われ方の変化を示す数字があります。
国土交通省の統計によると、住宅の滅失は年間およそ10万戸で、令和6年度は10万2812戸でした。このうち除却された10万504戸の内訳を見ると、老朽化を理由とするものが4万1077戸です6。
目を引くのは、除却された住宅のうち「同じ敷地に建て直すために壊したもの」が2万8000戸まで減っていることです。平成17年度には10万5000戸でしたから、四分の一近くまで下がったことになります。
この変化がなぜ起きたのかは、資料に説明がありません。ですので当媒体も理由を断定しません。ただ、壊して建て直すという選択が、以前ほど当たり前ではなくなっているという事実だけは、押さえておいてよいと思います。
ここまでの数字が示しているのは、建てた家は資産として残りにくく、住まなくなったときの始末は持ち主の側に回ってくるということです。だからこそ、置いた場所を後から変えられること、そして使い終わったあとの道筋が見えていることに、意味が出てきます。
法律は、家を動かすことを「建築」の一つに数えています
ここから、移設という行為そのものを見ていきます。まず確かめたいのは、建物を動かすことが法律の上でどう扱われているかです。
建築基準法は、第2条第13号でこう定めています7。
十三 建築 建築物を新築し、増築し、改築し、又は移転することをいう。
「移転」が、新築・増築・改築と並んで「建築」の一種として書かれています。建物を動かすことは、法律が想定していない抜け道ではありません。家を建てる行為の一つとして、最初から数えられています。
この一文は、読者の方が抱きやすい不安に直接答えます。「動かせる家というのは、正規の住宅ではない何かなのではないか」という不安です。少なくとも法律の枠組みの上では、動かすことは新築と同じ「建築」の一種として並んでいます。
ただし、条文はここまでしか書いていません。同じ敷地の中で動かすのか、別の敷地へ移すのかによって、実際の手続きの扱いは変わることがあります。この違いは条文からは読み取れませんので、具体的に動かす段になったら、必ず自治体の窓口や設計者に確認してください。建築確認の要否や進め方については、平屋の建築確認と固定資産税の記事で整理しています。
何が、移設を可能にしているのか
「本当に動かせるのか」という疑問は、性能の話に見えて、実は造り方の話です。頑丈だから動かせるのではありません。動かせるように造ってあるから動かせます。
普通の家は、現場で組み上げます
柱を立て、梁を渡し、屋根をかけ、壁を張る。普通の家は、こうした工程を敷地の上で積み重ねてつくります。完成したとき、それらの部材は互いに噛み合った一つの構造になっています。
この造り方には確かな利点があります。敷地の形に合わせて自由に設計でき、大きさにも制約が少なくなります。その代わり、分解して運ぶことは前提になっていません。動かそうとすれば、いったんばらすか、建物ごと持ち上げる曳家という工法を選ぶことになります。
工場で仕上げる家は、運べる形のまま完成します
これに対して、工場で造る家は最初から運ぶことを織り込んでいます。箱の形をしたまとまりとして仕上げ、トラックに載せて運び、クレーンで吊って据えます。できあがった時点で、すでに運べる形をしています。
だから、据えたあとにもう一度動かすという道が残ります。動かすための特別な装置が付いているわけではありません。移設するときも、工場から運んできたときと同じように、トラックとクレーンを使います。
工場で造ることは、日本の住宅供給の一角をすでに占めています。一般社団法人プレハブ建築協会の調査によれば、2023年度に完成したプレハブ住宅は11万4729戸で、その年に新しく着工された住宅全体の14.3パーセントにあたります8。
※これは業界団体による調査ですので、官庁の統計とは性格が異なる点にご留意ください。
「土地に定着する」という一語が、扱いを分けています
ここで押さえておきたいのが、建築基準法の建築物の定義です。同じ第2条の第1号は、建築物を「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」と定めています9。
基礎を設けて据えれば、その家は土地に定着した建築物として扱われます。移設・買取ができる平屋ユニット住宅も、この意味で建築物です。一方、車輪と車台を備えて随時動かせる状態を保つものは、車両として別の扱いを受けます。この線引きの詳しい要件については、タイニーハウスの種類ごとの違いと、終の棲家としての向き不向きを扱った記事で整理しています。
そして、工場で造ったからといって、性能の物差しが別になるわけではありません。
住宅の品質確保の促進等に関する法律は、住宅の性能表示について国が基準を定めることとし10、登録を受けた機関が設計された住宅や建設された住宅を評価する仕組みを置いています。工場で造ろうと現場で造ろうと、性能は同じ物差しで表せます。
移設が必要になるのは、どういうときか
ここまで「動かせる」という性質を見てきましたが、実際に動かす場面はどんなときでしょうか。当媒体は、次の五つに整理しています。いずれも、シニアご本人の暮らしに起きうる変化です。
五つの場面
- お子さんの暮らしが動いたとき・・・転勤、転職、住み替え。近くへ移りたくなることもあれば、逆に来てもらう話になることもあります
- 土地の事情が変わったとき・・・相続で敷地の持ち主が変わる、売却の話が出る、借りている土地を返すことになる
- おひとりになったとき・・・住まいを縮める、暮らしの拠点を移す
- 体の状態が変わったとき・・・通院や買い物の便を、それまでより優先したくなる
- 住み続けられない事情が生じたとき・・・敷地や周辺の環境が変わり、その場所での暮らしが続けにくくなる
お住まいの敷地に置く場合と、お子さんの近くに置く場合については、それぞれ別の記事で改めて詳しく扱う予定です。
五つに共通しているのは、「今はまだ分からない」ということです
並べてみると、あることに気づきます。この五つはどれも、起きるかどうかが今の時点では分からないものばかり、ということです。お子さんの転勤は会社の都合で決まります。相続がいつ起きるかも、体の状態がどう変わるかも、今日の判断材料にはなりません。
にもかかわらず、住まいの決断は今しなければなりません。ここに矛盾があります。
先のことが分からないのに、先を見越して決めなければならない。多くの方が住まいの検討で行き詰まるのは、この矛盾に突き当たるからだと考えられます。
「移設できる」という性質は、この矛盾に対して一つの答えを出します。今はここに置き、必要になれば動かす。そう決めておけば、今日決めなければならないことが減ります。決めるべきことの一部を、事情がはっきりする時期まで先送りできるからです。
なお、母屋のある敷地に離れとして建物を置く場合、費用や法規の考え方は一棟の家を建てる場合とは変わってきます。お子さん世代が親御さんのために離れを用意するという視点から、庭に離れを増築する費用と、工法ごとの違いを整理した記事が姉妹メディアにありますので、そちらもあわせてご覧ください。
動かすときに、実際に何が起きるか
ここまで読んで「では気軽に動かせるのだな」と受け取られたとしたら、それは正確ではありません。移設は引っ越しではなく、もう一度「据える」ことです。何が必要になるのかを、順に見ていきます。
以下は当媒体が工程を整理したものです。実際に必要な作業は、建物の大きさ、敷地の条件、移す先の状況によって変わります。
移す前に切り離すもの
まず、いまの敷地で建物を身軽にします。電気、水道、ガスの接続を切り離し、基礎への固定を外します。荷物も、当然ながら運び出しておくことになります。
そして忘れられがちなのが、建物が去ったあとの敷地です。基礎はその場に残りますから、撤去して地面を整える必要が出てきます。建物を売却するにせよ、次の使い道を考えるにせよ、コンクリートの塊が残ったままというわけにはいきません。
運ぶ日に必要になるもの
運搬の日には、大きな車とクレーンが敷地に入ります。ここで問われるのは建物ではなく、敷地までの道と、その上の空間です。
- 前面道路の幅と、曲がり角を通り抜けられるか
- 敷地の中に、クレーンを据えて作業できる空間があるか
- 上空に電線や大きな木の枝がかかっていないか
このうち一つでも欠けると、建物の性能とは関係なく作業ができません。据えるときに通れなかった道は、運び出すときにも通れません。ここは最初の設置の段階で確かめておくべき点です。
移した先で、もう一度必要になるもの
新しい敷地では、据えるための準備がもう一度必要になります。基礎をつくり、建物を下ろし、電気や水道やガスをつなぎ直します。手続きが必要かどうかも、その土地の条件によって変わります。
つまり、移設の費用は「運賃」ではありません。切り離す作業と、運ぶ作業と、据え直す作業、それに旧敷地を元に戻す作業を合わせたものです。金額そのものは条件によって大きく動きますので、この記事では示しません。ただ、費用が二度かかるという性質だけは、はっきりお伝えしておきます。
ですから、移設は「頻繁に動かすための機能」ではありません。暮らしが大きく変わったときに使える、一度きりかもしれない選択肢だと考えておくのが実際に近いと思います。
「固定資産税がかからない」という話は、どこまで当てはまるか
この分野を調べていると、必ずこの言葉に出会います。動かせる住まいは車両として扱われるので、固定資産税がかからない、という説明です。
結論から申し上げると、これは車両として扱われる型についての話です。基礎を設けて据える建物、つまりこの記事で扱っている移設・買取ができる平屋ユニット住宅には、そのままは当てはまりません。前の章で見たとおり、据えれば土地に定着した建築物として扱われるからです。
条文は、意外なほど簡潔にしか書いていません
税の扱いは、その建物が「家屋」に当たるかどうかで決まります。ではその家屋とは何かというと、地方税法の第341条第3号は次のように定めているだけです11。
三 家屋 住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう。
条文が書いているのは、この一文です。どんな状態なら家屋に当たるのかという判断の基準は、ここには書かれていません。実際の判定は市町村が行い、その考え方は地域や状況によって幅があります。
ですので、この記事では税額や要件を断定しません。お住まいの自治体の窓口や税の専門家に、実際の条件を示して確認してください。建築確認の要否や固定資産税の考え方については、平屋の建築確認と固定資産税で詳しく扱っています。
そのうえで、問いを一つ立て直したいと思います。建築物として扱われることは、住まいにとって不利なだけなのでしょうか。前の章で見たとおり、性能は工場で造っても現場で造っても同じ物差しで表せます。走ることを前提にしない造りですから、断熱や耐久を作り込む余地もあります。
使い終わったあとの道筋については、次の章で見ていきます。
使い終わったあと – 買い取ってもらうという道
住まなくなった家に残された道は、先に書いたとおり四つでした。売る、貸す、壊す、そのままにしておく。そして、そのどれもがそれなりに重いものでした。
しかし、工場で造って運ぶ家には、もう一つの道がありえます。建てた会社に引き取ってもらうという道です。
なぜ引き取れるのかというと、運べる形をしているからです
この記事で見てきたとおり、こうした住まいは運べる形のまま完成しています。ですから、動かして次の場所で使うことが技術的に可能です。壊して資源に戻すのではなく、建物として次に渡せるという点が、現場で組み上げた家との違いです。
読者の方にとって、これは金額の話である前に段取りの話です。住まなくなった家の始末を、残される方に委ねずに済みます。
ただし、条件つきです
ここは正確に書きます。買い取りが必ず成立するとは限りません。建物の状態、仕様、その時期の需要、引き取る側の事情によって、成り立つこともあれば成り立たないこともあります。金額も同じで、あらかじめ約束できる性質のものではありません。
ですから、高く売れることを見込んで検討されるのは適切ではありません。この道が変えるのは、出口が「未定」から「条件つきで見えている」に移るという一点です。
この差は小さく見えて、実際にはかなり大きいと当媒体は考えています。何も決まっていない状態と、条件つきでも道筋がある状態とでは、ご家族に説明できることの量が違うからです。
移設できる家が向かないケース
ここまで読んでこられて、ご自分の状況に合いそうだと感じられた方もいれば、そうでない方もいると思います。向かない場合をはっきり書いておきます。
- 搬入の経路と作業の空間が取れない敷地:
道が細い、角を曲がれない、上空に電線や大きな木がある。この場合は、そもそも据えることができません。据えられない敷地は、動かすこともできません - 用途地域や条例で制約がある土地:
地域によっては置けない場合があります。土地の条件は自治体への確認が欠かせません - 広い来客対応や、大人数の帰省が続く暮らし:多くの人が長く滞在する前提には向きません
- 土地から新たに取得する場合:
移設できることの利点は、すでに土地をお持ちの方ほど大きくなります - 動かすこと自体を目的にする場合:
費用は移すたびにかかりますので、頻繁に動かす前提には向きません
この記事の限界もお伝えしておきます
制度は地域と時期によって変わります。費用は敷地と建物の条件で大きく動きます。買い取りは条件つきで、その時期の状況にも左右されます。
また、この記事では公的な資料にもとづく事実と、当媒体の整理とを書き分けてきました。統計や条文には出典を付けています。工程の整理や五つの場面、移設の意味づけは、当媒体が考えたものであって、公的機関が示したものではありません。ご判断の際は、この違いを踏まえてお読みください。
今日からできること – 「いま決めること」と「あとで決めてよいこと」を分ける
最後に、今日から手をつけられることをお伝えします。紙を一枚用意して、二つの列に分けて書き出してみてください。
今日のうちに確かめられる四つ
次の四つは、専門家に相談する前でも、ご自分で見ておけます。
- 前面道路の幅と、家の前の曲がり角の様子
- 敷地に大きな車が入り、クレーンを据える空間があるか
- 上空を横切る電線や、張り出した木の枝がないか
- お住まいの自治体で、建築の相談窓口はどこか
おふたりでお住まいの場合は、それぞれ別々に書いてから見せ合ってみてください。「いま決めること」の側にどれだけ書き込むかは、人によってかなり違います。その差が見えるだけでも、話が具体的になります。
出口が最初から決まっている住まい——移設・買取ができる平屋ユニット
ここまで書いてきた「移設できる」という性質を、実際のかたちにしたものが、シニアリビング「終活の住処」の平屋ユニット住宅です。
仕様
- 移設・買取ができる平屋ユニット住宅。1ユニットは6.0メートル×2.4メートルで、単棟(おひとり用)から連棟(ご夫婦・平屋住宅相当)まで構成できます
- 工場で完成させた状態で、クレーン付きトラックにより運搬・設置します
- 分類の上ではユニック車吊り下げ型のユニットハウス(建築物)で、トレーラーハウスとは扱いが異なります
- 高断熱・高気密で、段差の少ない設計です。将来の身体の変化にも合わせられます
- ご夫婦それぞれの個室を確保できる構成が可能です
- 使い終わったあとの買取に対応しています(条件は個別にご確認ください)
この記事で見てきたことと、どう対応するか
| 従来の建て方 | 移設・買取ができる平屋ユニット | |
|---|---|---|
| 初めの負担 | 設計から完成まで期間がかかる | 工場で仕上げてから運び、据える |
| 工事の期間と暮らし | 現場での工事期間が続く | 敷地での作業は据え付けが中心 |
| 据えるための条件 | 敷地に入れれば工事はできる | 搬入経路とクレーンの作業空間が要る |
| 将来動かせるか | 原則として動かせない | 条件が整えば移設できる |
| 住まなくなったあと | 売る・貸す・壊す・そのままにする | 四つの道に加えて、買取という道がありうる |
| ご夫婦の距離 | 間取り次第で自由に設計できる | ユニットの構成で個室を確保できる |
従来の建て方にも、はっきりした利点があります。敷地の形に合わせて自由に設計でき、大きさの制約も少なくなります。広い家を望まれる方、間取りにこだわりたい方には、そちらのほうが合います。
向かないケースについては、前の章でお伝えしたとおりです。とくに搬入の経路と作業の空間は、最初に確かめるべき条件になります。
この住まいの、この記事における意味
この記事の主題は、動かせることそのものではありませんでした。大事なのは、決めたあとに引き返す道が残っているかどうかです。この住まいは、置き場所と出口の両方について、その道を残しています。
普通の家では、出口は住まなくなってから考えるものになります。そのとき考えるのは、多くの場合ご本人ではありません。出口が先に見えている住まいは、その順番を逆にします。仕様や条件の詳細は、シニアリビング「終活の住処」でご覧いただけます。
よくある質問
- Q移設できる家は、何度でも動かせますか?
- A
回数の制限があるわけではありませんが、頻繁に動かす前提の住まいではありません。移設は運ぶだけの作業ではなく、電気や水道の切り離し、基礎からの取り外し、運搬、移した先での基礎づくりと再接続まで含まれるからです。つまり費用は動かすたびに発生します。暮らしが大きく変わったときに使える選択肢だと考えておくのが、実際に近いと思います。
- Q曳家(ひきや)とは何が違いますか?
- A
対象になる建物が違います。曳家は、いま建っている家を解体せずに持ち上げ、そのまま別の位置へ動かす工法です。これに対して移設できる家は、工場で完成させたものを運んで据え、必要になればまた運ぶという造り方をしています。今のお住まいを動かしたい方は曳家を、これから住まいを用意する方は移設できる家を調べるのが近道です。
- Q固定資産税はかかりますか?
- A
その建物が「家屋」に当たるかどうかで決まりますので、一律にお答えできません。基礎を設けて据える建物は、土地に定着した建築物として扱われます。一方、地方税法は家屋を「住家、店舗、工場、倉庫その他の建物」と定めているだけで、どんな状態なら家屋に当たるかという基準までは書いていません。実際の判定は市町村が行いますので、お住まいの自治体の窓口や税の専門家に、条件を示して確認してください。
- Q工場で造った家は、現場で建てた家より性能が劣りませんか?
- A
工場で造ったという理由で性能の物差しが変わることはありません。住宅の品質確保の促進等に関する法律は、住宅の性能表示について国が基準を定めることとし、登録を受けた機関が設計された住宅や建設された住宅を評価する仕組みを置いています。工場か現場かを問わず、同じ基準で性能を表せます。実際に検討される際は、断熱や耐久について具体的な数値を確認されるとよいと思います。
- Q使い終わったあと、買い取ってもらえないのはどんな場合ですか?
- A
建物の状態、仕様、その時期の需要、引き取る側の事情によって、成り立たないことがあります。買い取りは約束されたものではなく、条件が合ったときに成立する仕組みだからです。ですので、高く売れることを見込んで検討されるのは適切ではありません。この道が変えるのは、住まなくなったあとの見通しが「未定」から「条件つきで見えている」に移るという点です。
まとめ:置いた場所を、最終決定にしないという考え方
「移設できる家」の値打ちは、家を動かすことそのものにはありません。置いた場所が最終決定にならないこと、そして使い終わったあとの道筋が、契約の時点で条件つきに見えていること。この二つです。
多くの方は、実際には動かさないまま暮らし続けます。それでも、動かせる状態にあること自体が、60代以降の住まいの決断から重さを取り除きます。やり直せる余地が残っていれば、決めることは怖くなくなります。
この記事で確かめてきたことを、あらためて整理します。
住まいを決めるとき、私たちはつい「どこに住むか」だけを考えます。けれども、その家を最後にどうするかは、いつか誰かが決めなければなりません。その誰かがご自分でなくなったとき、決めるのは残された方です。
出口が先に見えている住まいは、この順番を逆にします。仕舞い方を決めてから住み始められるということは、ご自分の住まいを、最後までご自分の手で扱えるということです。子に頼らず、美しく仕舞える。それは我慢ではなく、これからの時間を自分の意思で整えるという選び方だと、当媒体は考えています。
移設・買取ができる平屋ユニット住宅の仕様や、設置できる敷地の条件については、シニアリビング「終活の住処」でご覧いただけます。まずは、ご自分の敷地に据えられるかどうかを確かめるところから始めてみてください。
脚注
- 国土交通省「我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)」(2020年). https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001323215.pdf ↩︎
- 国土交通省「関連データ等について」(2024年). https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001764618.pdf ↩︎
- e-Gov法令検索「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(平成十二年法律第百四号)第九条. https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000104 ↩︎
- e-Gov法令検索「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律施行令」(平成十二年政令第四百九十五号)第二条. https://laws.e-gov.go.jp/law/412CO0000000495 ↩︎
- 国土交通省「建設リサイクルを取り巻く近年の社会情勢の変化とこれまでの取組」(2024年). https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/05shiryou2.pdf ↩︎
- 国土交通省「令和7年度 住宅経済関連データ」(2025年). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-jutaku-2_tk_000002.html ↩︎
- e-Gov法令検索「建築基準法」(昭和二十五年法律第二百一号)第二条. https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 ↩︎
- 一般社団法人プレハブ建築協会「プレハブ住宅完工戸数実績調査報告 2023年度実績」(2024年). https://www.purekyo.or.jp/about/information/data/investigative-report_202409.pdf ↩︎
- e-Gov法令検索「建築基準法」(昭和二十五年法律第二百一号)第二条. https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 ↩︎
- e-Gov法令検索「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(平成十一年法律第八十一号)第三条・第五条. https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000081 ↩︎
- e-Gov法令検索「地方税法」(昭和二十五年法律第二百二十六号)第三百四十一条. https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226 ↩︎
