使っていない部屋が、二階に二つある。冬の廊下は寒く、庭の手入れは年々こたえる。それでも、この土地を離れる気にはなれない。近所の顔も、通っている医院も、寺との距離も、全部ここにあります。
それなら、いま持っている敷地の余白に小さな一棟を建てて、そちらで暮らせばいい。そう考えて「離れ」という言葉で調べはじめた方が、この記事にたどり着かれたのだと思います。
ところが、検索して出てくるのは趣味の部屋や仕事場の記事ばかりで、どうも自分の話ではない気がする。そう感じられたなら、理由があります。あなたが置こうとしているのは、母屋に足す一室ではなく、これから毎日を過ごす主たる住まいのほうだからです。
そして、この違いに気づくと、検討の順番が変わります。先に決めるのは間取りでも工法でもなく、母屋をどうするかのほうです。この記事では、その理由を条文で確かめたうえで、順番どおりに考えていきます。
その一棟は、母屋の付け足しではありません
まず、「離れ」という言葉が何を指してきたのかを確かめておきます。ここに、調べても話が噛み合わない原因があります。
離れは、母屋で暮らしが完結していることを前提にした言葉です
離れと呼ばれてきたのは、客間、書斎、隠居のための一室、成人した子の部屋といったものです。用途はさまざまですが、共通点が一つあります。食事も入浴も就寝も母屋で済み、離れはそこに足された一室だったという点です。
そういう建て方が広まった頃、家には人が大勢いました。母屋に二世代も三世代も暮らし、手狭になった分を庭へ逃がす。離れは、人が増えたときの解決策でした。
いま起きているのは、その逆です。母屋には空いた部屋のほうが多く、そこに一人か二人で住んでいます。人が減ったのに、器だけが当時のまま残っている。減ったほうの解決策に、増えたときの言葉を借りているので、話が噛み合わなくなります。
主従が、すでに入れ替わっています
思い描いている一棟は、そこで眠り、そこで朝を迎え、一日の大半を過ごす場所のはずです。一方の母屋は、使わない部屋を抱えたまま静かになっていきます。どちらが暮らしの中心かは、はっきりしています。
つまり、主と従の関係は、頭のなかではもう入れ替わっています。けれども、それを言い表す言葉のほうは古いままです。ほかに呼びようがないので「離れ」と呼んでいる。この記事は、その呼び方のずれを出発点にします。
ずれているのは、言葉だけではありません
制度の側も、すでに建っている母屋があることを前提に組み立てられています。そのため、新しい一棟をどう建てるかを考える前に、母屋をどうするのかを決めることになります。順番が逆にはできません。
これは気持ちの問題ではありません。母屋が敷地に建っている限り、新しい一棟がどういう建物として扱われるかは、母屋との関係で決まってしまうからです。理由は、このあと条文で確かめます。
なお、敷地に置くという選択肢は、平屋やタイニーハウス、移設できる家と地続きです。全体像から確かめたい方は、平屋・タイニーハウス・移設できる家まで含めた小さな家の全体像もあわせてお読みいただけます。
家が合わなくなったのではなく、釣り合いが変わりました
二階へ上がる回数が減った。空いたままの部屋がある。冬は廊下と風呂が寒い。庭の手入れが年々きつくなる。こうしたことが重なると、自分の体力が落ちたからだと考えてしまいがちです。
けれども、公的な調査を見ると、少し違う姿が浮かんできます。
「広すぎる」と答えるのは、持ち家の人です
内閣府が令和5年度に、65歳以上の方へいま住んでいる住宅の問題点を聞いた調査があります。持ち家に住む人と賃貸住宅に住む人で、答えがはっきり分かれた項目がありました1。
| 住宅の問題点 | 持ち家(2,262人) | 賃貸住宅(342人) |
|---|---|---|
| 住宅が広すぎる | 12.1% | 0.9% |
| 部屋数が多すぎる | 10.9% | 1.5% |
| 住宅が狭い | 4.6% | 13.7% |
| 住まいが古くなり、いたんでいる | 29.8% | 30.4% |
| 段差や階段等があり使いにくい | 13.1% | 11.1% |
「広すぎる」は持ち家で12.1%、賃貸住宅で0.9%。およそ13倍の開きがあります。「部屋数が多すぎる」も、持ち家10.9%に対して賃貸住宅は1.5%です2。
そして「住宅が狭い」は、賃貸住宅13.7%に対して持ち家4.6%と、向きが逆になります。広すぎることに困るのは、持ち家に固有の現象です。
変わったのは、家でも体でもありません
なぜ持ち家だけで起きるのかは、考えてみれば当たり前のことです。賃貸住宅なら、暮らす人数が減ったときに小さな部屋へ移ります。持ち家では、同じようにはいきません。家は建てた日のまま変わらず、暮らす人数と使う部屋の数だけが減っていきます。
子どもが二人いて、四人で暮らすために建てた家に、いま二人、あるいは一人で住んでいます。家の側は何も悪くなっていません。体の側も、まだ何とかなっています。合わなくなったのは、その二つの釣り合いのほうです。
部屋は、ある日まとめて余るわけではありません
この釣り合いのずれは、ゆっくり進みます。上の子が家を出て一部屋空き、下の子が出てもう一部屋空く。しばらくは物置として使い、来客のときだけ片づけていました。
やがて階段が億劫になり、二階へ上がるのは月に何度かになります。そのうち、二階に何が置いてあるかを思い出せなくなります。どの時点でも「困った」と言うほどのことは起きていません。 だから、対処するきっかけがないまま、今日まで来ています。
広すぎることが厄介なのは、ここです。雨漏りのように、ある日はっきり困るわけではありません。少しずつ手入れの範囲が広がり、少しずつ暖まりにくい部屋が増えていきます。気づいたときには、家の半分が使われていないという状態になっています。
先に見た内閣府の調査では、「何も問題点を感じていない」と答えた持ち家の人は31.0%でした3。裏を返せば、およそ7割の方が、何かしら気になることを抱えたまま暮らしています。あなただけの話ではありません。
この土地を離れない、という選び方には理由があります
広すぎるのなら住み替えればいい、と言われたことがあるかもしれません。売って、駅に近い小さな住まいへ移る。合理的に聞こえますし、実際そうする方もいます。
それでも踏み切れないとき、多くの方は理由をうまく説明できません。愛着があるから、と言えばそれまでですが、それでは相手を納得させられない。ここでは、その説明のしかたを整理してみます。
動かないほうが、多数派です
内閣府が60歳以上の方に、いま住んでいる地域に住み続ける予定があるかを聞いたところ、93.1%が「ある」と答えています4。10人のうち9人以上が、この場所で暮らし続けるつもりでいます。動かないという選択は、例外ではありません。
同じ調査で、安心して住み続けるために何が必要かを聞くと、最も多かったのは「近所の人との支え合い」で55.9%でした5。資金でも設備でもなく、人との関係が一番に挙がっています。
※この調査は2018年度に行われたものです。
移れば、作り直しになるもの
住み替えの比較表には、価格や広さや駅からの距離が並びます。そこに載らないものを、いくつか挙げてみます。
- 暗くなってからでも歩ける道と、その道のどこに段差があるかという記憶
- 顔と名前が一致している近所の方、回覧板の順番、ごみ出しの暗黙の作法
- 何年も通っているかかりつけの医院と、こちらの事情を知っている歯科
- 寺や墓との距離、法事のたびに使ってきた仕出し屋
- どの店の何が安いかまで分かっている、買い物の順路
これらは、移れば一から作り直しになります。若い頃なら数年で作り直せたものが、いまは同じようにはいきません。この土地に留まりたいというのは、感傷ではなく、積み上げたものを手放さないという判断です。
留まることを選ぶのと、動けないのとは違います
ただし、ここには一つ気をつけたい点があります。留まることを自分で選んだのか、動く決断ができないだけなのか。 外から見ると同じですが、中身はまったく違います。
選んだのであれば、この先も自分で舵を取れます。その土地でどう暮らすかを、条件を並べて決めていけます。決断を先送りしているだけだと、いずれ体か家か家族の事情のどれかが先に動き、そのときには選べる幅が狭くなっています。
この記事が扱うのは、前者の場合です。場所は動かさない。そう決めたうえで、住まいの大きさのほうを変える。いま持っている敷地の余白に、暮らしの大きさに合った一棟を据えるという方法があります。
なお、この土地を離れるほうを選ぶとき(たとえば子どもの家の近くへ移る場合)は、確かめる順番そのものが変わります。そちらは老後の近居|子供の家の近くに住むのがわがままにならない条件にまとめています。
一つの敷地に、建物は一つ 。法律はそう決めています
自分の土地なのだから、空いているところに何を建てても自由なはずだ。多くの方がそう考えます。ところが、ここには前提の食い違いがあります。
「敷地」は、土地ではなく建物の側から決まります
建築基準法施行令の第1条第1号は、「敷地」を次のように定めています6。
敷地 一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう。
短い一文ですが、読み方に注意が要ります。
ここでいう敷地とは、登記簿に載っている土地の区画のことではありません。 一つの建物が建っている一団の土地、あるいは用途のうえで切り離せない関係にある複数の建物が建っている一団の土地を、法律は「敷地」と呼んでいます。
つまり、敷地は土地の側から決まるのではなく、建物の側から決まります。同じ一枚の土地でも、そこに建つ建物の関係しだいで、一つの敷地にも二つの敷地にもなり得るということです。
裏返すと、こういうことになります
この定義を裏から読むと、次のようになります。それぞれが独立して用を成す建物を二つ置きたいのなら、そこは二つの敷地でなければならない。 一つの敷地に二つ置けるのは、両者が用途のうえで切り離せない関係にある場合だけです。
これが「一つの敷地に建物は一つ」と言われる原則の根拠です。母屋が建っている土地にもう一棟を置こうとするとき、まずこの一文が前提になります。そして、この一文があるために、検討の順番が決まります。
なお、実際に建てるとなると、申請が要るのかどうか、その一棟に税金がどうかかるのかも気になるところです。ただ、これらは制度の中身が細かく、地域や年度によって扱いも変わります。この記事では立ち入らず、平屋の建築確認と固定資産税で詳しく整理しています。
だから、母屋をどうするかを先に決めることになります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。敷地に一棟を置く話は、その一棟をどう建てるかから始まりません。母屋をどうするかから始まります。
分岐は一つだけです。母屋に、これから住み続ける人がいるかどうか。 ここが決まらないうちは、新しい一棟の図面を引くこともできません。
母屋に住み続ける人がいる場合
配偶者が母屋に残る、あるいは子ども世帯が入る、という形です。このとき敷地には二つの建物が並びます。先ほどの条文でいえば、二つは用途のうえで切り離せない関係になければなりません。
つまり、二つの建物は、用途のうえで切り離せない一組として扱われます。 あなたにとって暮らしの中心は新しい一棟のほうですが、制度から見れば、二棟でひとつの住まいという扱いになります。設備をどこまで新しい棟に持たせるかも、この関係に関わってきます。
ひとつ補っておきます。先ほどの条文は、二つが切り離せない関係にあることを求めているだけで、どちらが主でどちらが従かまでは書いていません。 主従を決めているのは、条文ではなく「母屋」「離れ」という呼び方のほうです。冒頭で言葉のずれから話を始めたのは、このためです。
なお、母屋に子ども世帯が入る形については、子ども世帯の側から見た事情もあります。税金のことや、日々の距離の取り方です。そちらは敷地内同居の税金と、家族の距離のとり方で、子世帯の視点から詳しく扱っています。
母屋に住み続ける人がいない場合
あなたが新しい一棟へ移れば、母屋は空きます。この場合、母屋の行き先を決めることになります。人に貸すのか、売るのか、解いて更地に戻すのか。決めれば、敷地の使い方は大きく変わります。
母屋が敷地から無くなれば、新しい一棟は他の建物と組にして扱われることがなくなります。その敷地に建つ、ただ一つの建物になります。 制度の上でも、あなたが実感しているとおりの位置に収まります。
二つの道は、裏表になっています
ここまでを整理すると、こうなります。
- 母屋を残して、離れとして建てる・・・二棟が並び、二つで一つの住まいとして扱われます。
- 母屋を畳んでから、建てる・・・その敷地に建つ、ただ一つの建物になります。
この二つは、別々の選択肢のように見えます。けれども実際には、母屋の行き先が決まった瞬間に、どちらになるかも決まります。選んでいるのは建て方ではなく、母屋の扱いのほうです。
だから、業者に相談する前に決めておくべきことは、間取りでも工法でもありません。母屋に、これから誰か住むのか。 この一問です。ここが空欄のままだと、どんな図面を見せられても判断できません。
この一問が決まらない理由は、たいてい三つのどれかです
とはいえ、すぐに答えが出る方ばかりではありません。決まらないときは、次のどれかであることが多いように見受けられます。
- 自分だけでは決められない:
配偶者や子どもの意向が絡み、一人で結論を出すと角が立ちます。 - 子どもの考えを聞けていない:
戻る気があるのか、無いのか。聞けば済むのに、聞くこと自体が気重になっています。 - 思い出があって決めきれない:
建てたときのこと、育てたときのことが家と結びついていて、貸すとも売るとも言い切れません。
三つのうち、性質が違うのは最初の二つです。これらは考えても解けません。相手に聞くまで、答えは存在しないからです。 一人で何日考えても進まなかったのは、あなたが優柔不断だからではなく、材料が手元に無いからです。
三つ目については、時間をかけてよい種類の迷いだと考えられます。ただ、迷ったまま何も決めないことと、迷いながら期限を決めることは違います。「この秋に子どもが帰ってきたら聞いてみる」くらいまで具体化しておくと、迷いが宙に浮きません。
決めないまま置くと、母屋はどうなるか
とはいえ、母屋の行き先はすぐには決められないかもしれません。とりあえず新しい棟を建てて、母屋のことは追い追い考えよう。そう思うのも自然なことです。
その「追い追い」がどこへ着地するかについては、参考になる数字があります。
1年経っても、大半は同じところに留まります
国土交通省が、空き家の所有者に対して行った調査があります。使用目的のない空き家について、直近の1年間で状況が変わったかを聞いたところ、85.2%が「現在も空き家である」と答えました7。1年のあいだに何らかの決着がついたのは、7軒に1軒ほどです。
今後どうするつもりかについても聞いています8。
- 空き家として所有しておく(物置を含む):40.6%
- 除却する:19.2%
- 売却する:18.3%
資料は、この結果を「約4割が今後も空き家として所有する意向がある一方で、4割弱に除却又は売却する意向がある」とまとめています9。
この差は、決めた人と決めていない人の差だと考えられます
ここから先は当媒体の読み取りになりますが、この二つの4割は、性質が違うように見えます。除却する、売却すると答えた方は、行き先を決めています。時期はともかく、方向は定まっています。
一方、所有しておくという回答には、二種類が混ざっているはずです。物置として使うと決めた方と、まだ決めていない方です。後者にとって「所有しておく」は選択ではなく、決めていないことの言い換えになります。
母屋を残すこと自体は、何も悪くありません。問題になるのは、残すと決めたのか、決めていないだけなのかが、自分でも分からなくなることです。 そして決めていない家は、あなたが決めなければ、いつか誰かが決めることになります。
どんな一棟を置くか。広さと、設備をどこまで持たせるか
母屋の行き先がおおよそ見えてきたら、次はその一棟の中身です。ここから先は、毎日の暮らしの話になります。
設備の持たせ方には、三つの幅があります
新しい一棟に、台所や風呂をどこまで持たせるか。ここには段階があります。
- 母屋の設備を使い続ける:新しい棟は寝起きする場所と割り切り、食事も入浴も母屋で済ませます
- 水回りの一部だけを持たせる:手洗いと簡単な湯沸かしは新しい棟に置き、風呂は母屋を使います
- 新しい棟だけで完結させる:台所も風呂も備え、母屋へ行かなくても一日が終わります
どれを選ぶかで、母屋との行き来の回数が変わります。そして、この行き来こそが、暮らしてみると一番こたえる部分です。
冬の夜に、風呂へ通えるかどうか
母屋の風呂を使う形にすると、入浴のたびに外へ出ることになります。晴れた日の夕方なら、なんということもありません。問題は、それ以外の日です。
雨の日。風の強い日。雪の日。体調が思わしくない日。そして冬の夜、暖まった体で外の空気にあたって戻る形になります。週に何度あることかを数えてから決めたほうが、後で後悔しにくくなります。
渡り廊下でつなぐという方法もありますが、これは建物の扱いそのものを変えることがあります。つなぎ方によっては二棟が一棟と見なされる場合もあり、判断は地域によって異なります。設計の段階で、自治体の窓口や設計者に確かめておくのが確実です。
広さは、坪数ではなく居場所の数から考えます
何坪あれば足りるか、という問いは立てにくいものです。同じ広さでも、間の取り方で暮らしやすさは変わります。それよりも、毎日いる場所をいくつ持つかから考えると決めやすくなります。
寝る場所、食べる場所、一日の大半を過ごす場所。この三つが実質的に同じ部屋でよいのか、分けたいのか。ここが決まると、必要な広さはおおよそ見えてきます。
逆に、新しい一棟へ持ち込まないほうがよいものもあります。年に数回しか使わない来客用の部屋と、置き場所に困ったものを入れておく部屋です。広い家で使われないまま残るのは、たいていこの二つです。 同じことを、小さな棟でもう一度繰り返す必要はありません。
建て方によって、後の身軽さが変わります
建て方は大きく、現場で組み上げるものと、工場で仕上げて運ぶものに分かれます。どちらが優れているという話ではなく、負担のかかる場所が違います。
現場で組む場合と、工場で仕上げて運ぶ場合
現場で組み上げる建て方は、敷地の形に合わせて自由に設計できます。変形した土地でも、木を避けたい場所があっても、図面のほうを合わせられます。この自由さは、他の方法では置き換えにくい利点です。
その代わり、工事の期間は長くなります。そして見落としやすいのが、工事のあいだずっと、母屋のすぐ隣が現場になることです。住み替えの工事と違い、あなたはその現場の隣で暮らし続けます。
工場で仕上げて運ぶ建て方は、敷地の上での作業が短く済みます。その代わり、運び込める道と、据えるための作業の空間が要ります。前の道が狭い、上に電線が渡っている、といった条件で選べないこともあります。
違いが最も大きく出るのは、使い終わったときです
建てるときの違いは、数か月から半年ほどの話です。もっと長く影響するのは、その一棟を使い終わったときのほうだと考えられます。
- 壊すしかないもの:解体して処分することになり、その費用と手間は残された人が負います。
- 動かせるもの:別の場所へ移す、あるいは引き取ってもらうという道が残ります。
動かせる住まいがどういうもので、動かすときには実際に何をすることになるのかは、移設できる家という選び方と、動かすときに起きることで詳しく扱っています。
敷地に建物を一つ増やすということは、いつか誰かが向き合う建物を一つ増やすということでもあります。この点だけは、建てる前でなければ選べません。
なお、費用の内訳や工法ごとの金額の目安については、この記事では扱いません。子ども世帯が親のために離れを建てる場合の費用をまとめた記事として、庭に離れを増築する費用と、工法ごとの総額の考え方があります。視点は異なりますが、金額の構造そのものは共通していますので、参考になるはずです。
建てる前に、畳むときのことを決めておく
あまり考えたくないことかもしれません。それでも、この順番で考えておくと、後の選択がずいぶん楽になります。
敷地に残る建物が、二つになります
母屋を残したまま新しい一棟を建てると、母屋の始末に、新しい一棟の始末が加わります。あなたが使わなくなった後、その二つは同時に引き継がれることになります。
母屋のほうは、築年数も相応で、そのままでは使いにくいことが多いはずです。そこへもう一棟が加わると、引き継ぐ人は二つ分の判断を同時に迫られます。しかも、その人はあなたほどこの家に思い入れがありません。
引き継ぐ側から見ると、どう見えるか
立場を入れ替えて考えてみます。遠方で暮らしている子どもが、ある日この敷地を引き継いだとします。手元にあるのは、古い母屋と、比較的新しい小さな一棟です。
その人はまず、二つを別々に扱えるのかどうかを調べることになります。片方だけ手放せるのか、二つで一組なのか。そこがはっきりしないと、売ることも貸すことも進みません。調べているあいだ、両方の維持と手入れは続きます。
そして多くの場合、その人は仕事と自分の家庭を抱えたまま、遠くから判断することになります。現地に来られるのは、月に一度あればよいほうです。あなたが決めずに残したものは、その条件のもとで処理されることになります。
だから、新しいほうだけでも先に決めておきます
母屋の始末は、事情が絡んで簡単には決まらないことがあります。それなら、せめて新しい一棟のほうだけでも、始末のつけ方が見えている形にしておくという考え方があります。
使い終わったら移せる、あるいは引き取ってもらえる。そういう形にしておけば、その一棟は母屋の問題とは切り離して扱えます。二つ分の重さが、一つ分に減ります。
自分で決められるうちに決めておけることと、どうしても後の人に委ねざるを得ないことがあります。その線を、自分で引いておくということです。 建物の始末のつけ方は、前者に入ります。
この選び方が向かないケース
敷地に一棟置くという方法が、誰にでも合うわけではありません。次のような場合は、他の方法を検討したほうがよいと考えられます。
敷地に、思っているほどの余白がない場合
庭が広く見えても、建てられる範囲は敷地の広さとは別に決まります。建物の大きさには土地ごとに上限があり、道路との関係や、隣との距離にも決まりがあります。見た目の余白と、建てられる余白は別のものです。
敷地の条件をどう確かめるかについては、老後の平屋を左右する五つの敷地の制約と、その確かめ方で詳しく整理しています。まずそちらで見当をつけてから戻ってこられると、話が早く進みます。
母屋の行き先が、どうしても決まらない場合
この記事で繰り返しお伝えしてきたところです。母屋をどうするかが空欄のまま新しい一棟を建てると、後になって制度の側と暮らしの側の両方から、無理が出やすくなります。
決まらない理由が「まだ考えていない」なら、考える時間を取れば済みます。決まらない理由が「自分だけでは決められない」なら、そこは相談の順番の問題です。
家族に、まだ話していない場合
敷地は、いずれ誰かが引き継ぎます。自分の意思で決めることと、誰にも言わずに決めることは、別のことです。
相談して許可をもらう必要はありません。ただ、決めた後で伝えるのと、決める前に伝えるのとでは、受け取られ方がまるで違います。反対されるのが怖くて黙っているのだとしたら、それは後回しにするほど重くなります。
来客や帰省を、いまの規模で受け続けたい場合
盆と正月に子や孫が帰ってくる。そのために部屋を空けてある。この形を続けたい場合、小さな一棟へ移ると、母屋を維持する理由が年に数回の来客だけになりがちです。
年に数日のために、一年分の維持と手入れを続けることになります。それでも構わないと考えるならそれも一つの答えですが、数えてから決めたほうがよい種類の判断です。
今日、庭に出て確かめられること
ここまで読まれた方が、今日のうちにできることを挙げておきます。見積もりを取るのはもっと先で構いません。まず、母屋との関係を確かめるところからです。
五つの確認
- 母屋のどちら側に余白があるか
朝の光が入る側でしょうか。日が回らない北側でしょうか。道路に近い側か、奥まった側か。同じ広さでも、方角と位置で暮らしやすさが変わります。 - 母屋との距離をどれくらい取るか
近すぎると窓が向かい合い、互いの気配が常に伝わります。離れすぎると、雨の日の行き来がこたえます。実際に歩いて、傘をさして往復してみるのが確実です。 - 母屋のどの設備を使い続けるつもりか
風呂だけか、台所もか、それとも何も使わないか。決めきれなくても、いまの気持ちを言葉にしておきます。 - 母屋の行き先について、いま何と答えられるか
「決まっている」「決まっていない」「考えたことがなかった」のどれでしょうか。どれであっても構いません。自分がどこにいるかを知っておくことが先です。 - この話を、最初に誰へ伝えるか
配偶者でしょうか。子どもでしょうか。順番を決めておくと、後で気まずくなりにくくなります。
四番目に「考えたことがなかった」と答えた方も、心配は要りません。そこが出発点だと分かっただけで、一歩進んでいます。この検討でいちばん時間がかかるのは、図面ではなく、この一問だからです。
母屋を壊さずに、敷地の中へ据えるという選び方 – 移設・買取ができる平屋ユニット
選択肢の一つとして、当社が扱っている住まいをご紹介します。シニアリビング「終活の住処」という、移設・買取ができる平屋ユニット住宅です。
どういうものか(仕様)
- 1ユニットは6.0m×2.4m。単棟(お一人用)から連棟(ご夫婦・平屋住宅に相当する広さ)まで、敷地と暮らしに合わせて組み合わせられます。
- 工場で完成させた状態でクレーン付きトラックにより運搬し、敷地に据えます。
- 高断熱・高気密で、段差の少ない設計です。ご夫婦それぞれの個室を取ることもできます。
- 使い終わった後の買取に対応しています。 ※条件は個別にご確認ください
- 分類はユニック車吊り下げ型のユニットハウス(建築物)で、トレーラーハウス(車両)とは扱いが異なります。
敷地の中での位置を、後から決め直せます
この記事の中心は、母屋の行き先が新しい一棟の性格を決める、というところにありました。ただ、母屋の行き先が今日決まるとは限りませんし、決めた後で事情が変わることもあります。
現場で組み上げる建て方では、置く場所は基礎を打った時点で確定します。後になって母屋を解いたとしても、建物のほうは動かせません。平屋ユニット住宅であれば、母屋を解いた後に位置を決め直す、という順番も選べます。 敷地の使い方が変わったときに、建物の側で追いかけられるということです。
これは、母屋の行き先を今日決めきれない方にとって、判断を分割できるという意味を持ちます。いま決めるのは「どこに住むか」まで。「敷地全体をどう使うか」は、事情がはっきりしてから決める。 そういう進め方ができます。
ただし、位置を変えられるといっても無条件ではありません。作業のための経路と空間が、そのときにも確保できることが前提になります。母屋を解いた後であれば敷地は広く使えますが、隣家との距離や庭木の位置は変わらないままです。
従来の建て方との比較
| 現場で組み上げる建て方 | 移設・買取ができる平屋ユニット | |
|---|---|---|
| 母屋との関係 | 配置は設計時に確定する | 据えた後に位置を変えられる |
| 工事の期間と母屋での暮らし | 期間は長く、隣が工事現場になる | 敷地の上での作業は短い |
| 据えるための条件 | 敷地の形に合わせて設計できる | 運び込める道とクレーンの作業空間が要る |
| 後で位置を変えられるか | できない | 条件を満たせば可能 |
| 使い終わったあと | 解体して処分する | 移設または買取という道がある |
| 敷地に残るもの | 建物が残る | 引き取れば更地に戻せる |
表のとおり、据えるための条件はこちらのほうが厳しくなります。前の道が狭い、電線が低い、作業の空間が取れないといった場合には選べません。敷地の形に合わせて自由に設計できるという点では、現場で組み上げる建て方に明確な利点があります。
向かないケース
- 据えるための空間や搬入経路が取れない敷地の場合
- 用途地域や条例による制約がある場合(地域によって扱いが異なるため、事前の確認が必要です)
- 来客や帰省を今の規模で受け続けたい場合
- 母屋の行き先が決まっていない場合。ここが決まらないうちは、どの建て方を選んでも判断の材料が足りません。
住み慣れた土地を離れずに、いまの暮らしの大きさに合った住まいを用意する。そのうえで、その一棟の始末のつけ方まで自分で決めておく。そういう選び方があることを知っていただければと思います。詳しくは終活の住処でご覧いただけます。
よくある質問
- Q母屋に配偶者や子ども世帯が残る場合と、誰も住まなくなる場合とで、建てられるものは変わりますか?
- A
はい、変わります。母屋に住み続ける人がいる場合、敷地には二つの建物が並ぶことになり、その二つは用途のうえで切り離せない一組として扱われます。設備をどこまで新しい棟に持たせるかも、この関係に関わってきます。誰も住まなくなる場合は、母屋の行き先を決めることになります。母屋が敷地から無くなれば、新しい一棟はその敷地に建つただ一つの建物になります。
- Q新しい棟に、台所やお風呂を付けてもよいのですか?
- A
母屋をどうするかによって、考え方が変わります。設備の持たせ方には、母屋の台所と風呂を使い続ける形、水回りの一部だけを持たせる形、新しい棟だけで生活が完結する形という幅があります。母屋を残す場合は、二つの建物が用途のうえでどういう関係にあると見なされるかに関わります。設計の段階で、自治体の窓口や設計者に確かめておくのが確実です。判断は地域によって異なります。
- Q庭が広ければ、必ず建てられますか?
- A
いいえ、庭の広さと建てられる範囲は別のものです。建物の大きさには土地ごとに上限があり、道路との関係や、隣との距離にも決まりがあります。また、工場で仕上げて運ぶ建て方を選ぶ場合は、運び込める道の幅と、据えるための作業の空間も必要になります。見た目の余白があっても選べないことがあるため、早い段階で敷地の条件を確かめておくと無駄がありません。
- Q建築確認の申請や、税金はどうなりますか?
- A
申請が要るかどうか、税金がどうかかるかは、建物の規模や地域によって扱いが変わります。制度の中身が細かく、年度によって改まることもあるため、この記事では立ち入らず、「平屋の建築確認と固定資産税」の記事で整理しています。実際に進めるときは、自治体の窓口や設計者、税の専門家に最新の情報を確かめておくのが確実です。母屋を残すか畳むかによっても、確認すべき点が変わってきます。
- Q母屋を残したまま先に建てて、あとから母屋を解体してもよいのですか?
- A
その順番も選べますが、建て方によって後の自由度が変わります。現場で組み上げる建て方では、置く場所は基礎を打った時点で確定するため、後から母屋が無くなっても建物の側は動かせません。工場で仕上げて運ぶ造り方であれば、母屋を解いた後に位置を決め直すという進め方も可能です。ただし、そのときにも作業のための経路と空間が確保できることが前提になります。
まとめ
自宅の敷地に終の棲家を建てるという選択は、「離れをどう建てるか」から始まりません。
母屋に、これから住み続ける人がいるかどうか。 ここが決まった瞬間に、離れとして建てるのか、母屋を畳んでから建てるのかも決まります。順番を逆にすると、どんな図面を見せられても判断できないまま話が進みます。
そして、この選択の底にあるのは、住まいを小さくすることだけではありません。広すぎる母屋を、自分の代でどうするかを決めるということでもあります。
- 「広すぎる」は持ち家に固有の悩みです。持ち家で12.1%、賃貸住宅で0.9%10。家も体も変わっておらず、変わったのは家の大きさと暮らしの大きさの釣り合いのほうです。
- この土地を離れないという選択には、根拠があります。60歳以上の93.1%が現在の地域に住み続ける予定と答え、安心して住み続けるために必要なこととして最も多く挙がったのは「近所の人との支え合い」でした11。
- 一つの敷地に独立した建物は二つ置けません。法律は敷地を土地の区画ではなく建物の側から定義しています。だから母屋の行き先が先に決まっていないと、新しい一棟の性格も決まりません。
- 決めないまま置いた家は、そのまま残ります。使用目的のない空き家の85.2%が1年経っても空き家のままで、4割は今後も所有しておく意向です12。
- 建て方の違いが最も大きく出るのは、使い終わったときです。壊すしかないものと、動かせる・引き取ってもらえるものとでは、その一棟が家族に残す意味が変わります。
見積もりを取るのは、まだ先で構いません。
母屋のどちら側に余白があるか、母屋との距離をどれくらい取るか、母屋のどの設備を使い続けるつもりか。母屋の行き先について、いま自分が何と答えられるか。そして、この話を最初に誰へ伝えるか。この五つを確かめるところから始まります。
「考えたことがなかった」という答えでも構いません。そこが出発点だと分かった時点で、検討はもう始まっています。
住み慣れた土地を離れずに、いまの暮らしの大きさに合った住まいを用意する。そのうえで、その一棟を使い終わったときのことまで、自分で決めておく。子に頼らず、美しく仕舞える住まいという考え方に沿った選び方です。
移設・買取ができる平屋ユニット住宅の仕様や、据えるための条件については、シニアリビング「終活の住処」でご覧いただけます。敷地の様子をお伝えいただければ、置けるかどうかの見当もつきます。
脚注
- 内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」図1-3-3 現在の住宅の問題点(持家/賃貸住宅の別)(2024年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_3_1.html ↩︎
- 内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」図1-3-3 現在の住宅の問題点(持家/賃貸住宅の別)(2024年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_3_1.html ↩︎
- 内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」図1-3-3 現在の住宅の問題点(持家/賃貸住宅の別)(2024年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_3_1.html ↩︎
- 内閣府「令和元年版高齢社会白書(概要版)」第3節〈特集〉「高齢者の住宅と生活環境に関する意識」(2019年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_3.html ↩︎
- 内閣府「令和元年版高齢社会白書(概要版)」第3節〈特集〉「高齢者の住宅と生活環境に関する意識」(2019年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_3.html ↩︎
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」第1条第1号(昭和25年政令第338号). https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338 ↩︎
- 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」(2025年). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907473.pdf ↩︎
- 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」(2025年). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907473.pdf ↩︎
- 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」(2025年). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907473.pdf ↩︎
- 内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版)」図1-3-3 現在の住宅の問題点(持家/賃貸住宅の別)(2024年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_3_1.html ↩︎
- 内閣府「令和元年版高齢社会白書(概要版)」第3節〈特集〉「高齢者の住宅と生活環境に関する意識」(2019年). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_3.html ↩︎
- 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」(2025年). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907473.pdf ↩︎