老後の平屋は敷地で決まる|5つの制約と、今の家を活かす4つの道

膝や腰に、少しずつ不安が出てきた。外壁の塗り替えの見積もりを前に、手が止まってしまった。二階の子ども部屋は、もう何年も物置のままになっている。——そんなきっかけで「平屋」という言葉を調べ始めた方に向けて、この記事は書きました。

先に結論をお伝えします。老後の住まいとして平屋が向いているのは、本当です。ただし向いているかどうかは、家の形ではなく「敷地」と「年齢」で決まります。同じ平屋でも、正解になる方と後悔する方に分かれるのは、そのためです。

この記事では、平屋の良さを並べるのではなく、あなたが自分の敷地と年齢に照らして「するか、しないか」を決められるよう、判断の材料を順に整理しました。

この記事でわかること
  • 老後の暮らしに平屋が向く4つの理由を、公的な統計から見直す
  • 間取りの工夫では消せない、平屋の5つの制約
  • あなたの敷地に平屋が建つかどうかを、今日確かめる4つの手順
  • 建て替える・減築する・一階だけで暮らす・住み替えるという4つの道
  • 後悔しない設計の分かれ目と、「何歳までなら、どの道を選べるのか」

読み終えるころには、「うちはどうするか」を自分の言葉で言えるようになっているはずです。ぜひ最後までご覧ください。

この記事は、平屋をすすめる記事ではありません

平屋についての情報は、世の中にたくさんあります。そのなかで、この記事がお伝えしたいのは「平屋の良さ」ではありません。あなたが自分で決めるための材料です。

ですから、間取りの工夫では解消できない制約もそのままお伝えします。「平屋にしない」という結論も、平屋にするという結論と等しく扱います。敷地の条件によっては、そちらのほうが安全で、暮らしやすいことがあるからです。

ここで扱うのは判断の軸だけです。二十坪台の具体的な間取り図、坪単価の相場、バリアフリーの寸法といった各論には踏み込みません。それぞれ別の記事にて解説しています。

なお、平屋・タイニーハウス・移設できる家・敷地内の離れまで含めた全体像については、「終の棲家は「小さな家」|平屋・タイニー・移設できる家の選び方」で俯瞰しています。

では、なぜ老後の暮らしに平屋が向くと言われるのか。まずはそこから、根拠にあたって確かめていきます。

老後の暮らしに平屋が向く4つの理由 – 効果の大きい順に

平屋の良さとしてよく挙がるのは「段差がない」「動線が短い」といった説明です。間違いではありませんが、これでは印象論の域を出ません。

ここでは、老後の暮らしにとって効果の大きい順に並べ直します。

理由1:もっとも重い事故の入口が、家からなくなる

国民生活センターが2025年に公表した資料では、2020年度以降に医療機関から寄せられた65歳以上の家庭内事故923件が分析されています。それによると、事故のきっかけは「転倒」と「転落」で全体の約半数を占めていました1

注目したいのは、その中身です。「転落」に関係したものとして最も多く挙がったのは、75歳以上では「階段」でした(49件)。同じ資料では、骨折・切断・頭蓋内損傷といった重い症状が全体の3割にのぼることも示されています。実際に「トイレに行こうとして階段を14段転落し、背骨を圧迫骨折して入院した」という70歳代の事例も報告されています。

平屋にすれば、この入口が家から消えます。手すりをつける、滑り止めを貼るといった対策とは次元が違います。危険な場所そのものが存在しなくなるのですから、確実です。

ただし、ここで付け加えておかなければならないことがあります。同じ資料で「転倒」に関係したものの1位は、「住宅」そのものでした。コードにひっかかる、わずかな段差につまずく、スリッパが脱げて滑る。そうしたちょっとしたことが転倒や転落の原因になっていると、資料は指摘しています。

階段をなくせば転落は防げますが、転倒は防げません。この事実には、後の「後悔しない設計」の章でもう一度触れます。

理由2:家の中の温度差が、構造的に小さくなりやすい

二階建ての家では、暖かい空気が上へ抜けていきます。冬の朝、一階の居間は寒いのに二階は暖かい、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。平屋には、そもそも上下階がありません。階をまたぐ温度差が生じないという、構造そのものに由来する利点です。

断熱や気密の性能をどこまで確保するか、冷暖房費や住まいの性能の考え方については、また別の話になります。ここで押さえておきたいのは、平屋は「暖房した空気が逃げていく先」が上にないという一点です。

理由3:維持管理が、自分の手の届く範囲に収まる

家は建てて終わりではありません。屋根や外壁は、一般に十年から十五年ごとが点検や塗り替えの目安とされます。二階建てでは、そのたびに高い足場を組むことになります。平屋であれば、足場の規模は小さくて済む傾向があります。

金額の話だけではありません。雨樋の詰まりに気づく、外壁のひび割れを見つける。そうした日常の点検を、自分の目で見て回れるということが大きいのです。人に頼まなければ何も分からない家と、自分で把握できる家とでは、住んでいるときの安心感が違います。

理由4:暮らしが一つの階で完結し、使わない部屋が生まれにくい

二階建てには、階段室と二階のホールが必要です。これは移動のためだけの空間で、そこで暮らすわけではありません。平屋にはそれがないため、同じ延床面積でも、実際に使える面積は平屋のほうが広くなります

もう一つ。子どもが独立したあとの二階は、多くの家で物置になります。使わないのに、固定資産税がかかり、掃除の対象になり、いずれ片づけなければならない荷物がたまっていきます。平屋には「見て見ぬふりをする階」がありません。これは不便のようでいて、老後にはかえって助けになります。

設計では消せない、平屋の5つの制約

ここからが本題です。平屋には、間取りの工夫や設備の追加では解消できない制約があります。これらは設計の巧拙の問題ではなく、法規制や建物の形から必然的に生じるものです。

制約1:同じ広さを求めるなら、二階建てより広い敷地が要る

敷地には「建ぺい率」という上限があります。敷地面積に対して、建物を真上から見たときの面積をどこまで取ってよいかを定めるもので、用途地域ごとに数値が決まっています2

たとえば建ぺい率50%の地域で、100平方メートルの敷地があるとします。建てられる建築面積の上限は50平方メートルです。二階建てなら一階50・二階50で、延床100平方メートルの家を建てられる可能性があります。ところが平屋にすると、延床面積の上限もそのまま50平方メートルになります。今と同じ広さの平屋を建てるには、およそ二倍の敷地が要るという計算です。

なお延床面積には、建ぺい率とは別に「容積率」という上限もかかります3。実際に建てられる広さは、この二つの上限のうち厳しいほうで決まります。ご自分の敷地の数値は、必ず自治体でご確認ください。

これは工夫でどうにかなる話ではありません。法律で決まっている以上、設計者がいくら腕を振るっても越えられない線です。「今の家を平屋に建て替えたら、思ったより狭くなった」という後悔の多くは、ここから生まれます。

制約2:水害のとき、上へ逃げられない

内閣府の「避難情報に関するガイドライン」では、水害時に自宅の上階へ移動して身を守る行動を「屋内安全確保」(垂直避難と呼ばれることもあります)と呼んでいます。そして、この行動を取るための条件として、「自宅等に浸水しない居室があること」を挙げています4

平屋には、上階がありません。浸水想定深が居室の高さを超える場所では、この条件を満たせないことになります。実際、同じガイドラインには「浸水想定区域内のマンション低層階や平屋に居住する者など立退き避難しないと命を脅かされるおそれがある」という記述があり、避難行動を示す図の凡例にも「戸建て平屋」が独立して置かれています。

ここに、見過ごせない逆転が潜んでいます。階段の上り下りがつらくなったから平屋にした方が、大雨のときには、冠水しはじめた道を歩いて避難所まで向かわなければならない——という事態です。足腰に不安があるほど、この負担は重くなります。

平屋を検討するなら、ハザードマップの確認は間取りを考えるより先に済ませてください。

制約3:出入口と窓が、すべて地面の高さに並ぶ

警察庁の統計によると、令和6年に一戸建住宅で認知された侵入窃盗(空き巣・忍込み・居空き)は11,772件でした。このうち侵入口が「窓」だったものは6,519件で、全体のおよそ55%を占めます5

とくに老後の住まいで気になるのは「忍込み」です。これは家の人が寝ている間に侵入する手口で、一戸建住宅では3,543件が認知されています。その侵入口も、およそ55%が窓でした。

二階建てであれば、寝室を二階に置くという逃げ道があります。就寝時に一階の窓をすべて閉めてしまえば、侵入経路と寝ている場所との間に距離ができます。平屋には、その距離を作る手がありません。寝室も、浴室も、勝手口も、すべて地面の高さに並びます。夏に窓を開けたまま眠るという選択も、しにくくなります。

防犯ガラスや補助錠を入れれば侵入されにくくはなります。ただしそれは「対策で埋め合わせる」話であって、制約そのものが消えるわけではありません。費用も手間もかかる、という前提で見積もっておいてください。

制約4:日当たりを、隣の家に握られる

建築基準法には、建物の高さを抑える斜線制限があります6。道路斜線、北側斜線といった規定です。これらは周囲の採光や通風に配慮するための仕組みですが、あくまで「これから建てる建物の高さ」を抑えるものです。すでに周囲が建て込んでいる敷地で、あとから低く建てる家の日当たりまで保証してくれるわけではありません。

周囲に二階建てや三階建てが建ち並んでいる敷地で平屋を建てると、建物の高さがそのまま不利に働きます。南側の隣家の影に入り、昼間でも照明が必要な家になることがあります。風の通りも悪くなりがちです。

天窓や高い位置の窓を設けて、上から光を取る方法はあります。ただし費用がかかり、夏の暑さ対策も別途必要になります。まずは敷地の周囲を、実際に立って見上げて確かめることをおすすめします。

制約5:建築費は、坪あたりで見ると高く出やすい

「階段がない分、平屋のほうが安いのでは」と思われるかもしれません。実際には逆になることが多い、というのが平屋の特徴です。

理由は建物の形にあります。同じ延床面積で比べると、平屋は基礎の面積と屋根の面積が、総二階の建物のおよそ二倍になります。延床30坪の家を総二階で建てれば、基礎も屋根も15坪分で済みます。同じ30坪を平屋にすると、基礎も屋根も30坪分が必要です。基礎工事と屋根工事はどちらも費用のかさむ部分ですから、坪あたりの単価は構造的に上がります。

もちろん足場が小さくて済む、階段が要らないといった有利な点もあり、総額がどうなるかは条件によって変わります。

平屋の費用相場そのものと、坪単価をどう読むかについては、別記事「小さな平屋の費用と坪単価|総額の三つの層と見積書の読み方」で限られた予算のなかで平屋をどう建てるかについては、「ローコスト平屋で建てる終の棲家|1,000万円前後に収める5つの手」で扱っています。

あなたの敷地に平屋は建つか? – 4つの確認

ここまで挙げた制約のうち、いくつかはあなたの敷地で、今日にでも確かめられます。間取りの相談に行く前に、この4つを済ませておいてください。順番にも意味があります。

確認1:建ぺい率を調べる

お住まいの自治体の都市計画課、あるいは自治体が公開している都市計画図で、敷地の用途地域と建ぺい率が分かります。多くの自治体はインターネットでも公開しています。

敷地面積に建ぺい率をかけた数字が、平屋にしたときの延床面積の上限です。この数字が、今の暮らしに必要な広さを下回るようなら、平屋という選択肢はその時点で厳しくなります。角地などでは緩和される場合もありますので、確定した数字は自治体でご確認ください。

確認2:接道を調べる

建築基準法は、「建築物の敷地は、道路に二メートル以上接しなければならない」と定めています7。ここでいう道路は、原則として幅員4メートル以上のものを指します。

長く住んでいる敷地や、通路が細長い旗竿地では、この条件を満たしていないことがあります。その場合、平屋かどうか以前に、建て替えそのものができません。ただし同じ条文には、敷地の周囲に広い空地がある場合など、特定行政庁の認定や許可によって建てられる道も定められています。該当しそうなら、建築士や自治体の建築指導課に相談してください。

確認3:周囲の建物の高さを見る

敷地に立って、南側と東西を見上げてみてください。二階建て以上の建物が近くに迫っているなら、制約4の話が現実になります。今は二階の窓から光が入っている、というお宅ほど注意が必要です。平屋にした瞬間に、その光を失うことになります。

確認4:ハザードマップを見る

国土交通省が運営するハザードマップポータルサイトで、洪水・内水・高潮・土砂災害のリスクを確認できます8。自治体が配布している紙のハザードマップでも構いません。

見るべきは浸水想定深です。想定される深さが床上を大きく超えるようなら、制約2はあなたにとって現実の問題になります。あわせて「家屋倒壊等氾濫想定区域」に入っていないかも確認しておいてください。

この4つのうち一つでも引っかかったなら、平屋を検討する前に、次章以降の別の道を先に検討することをおすすめします。

平屋にしないほうがいい人 – 3つのケース

ここでは、はっきりと「平屋以外を検討したほうがよい」と考えられるケースを挙げます。あなたが当てはまるかどうか、確かめてみてください。

ケース1:敷地が浸水想定区域にあり、想定深が居室の高さを超える

制約2と確認4の帰結です。この条件では、平屋にすることで避難の選択肢が一つ減ります。今ある二階建てを残し、一階の暮らしやすさを整えるほうが、結果として安全になることがあります。手すりや段差の解消は、建て替えなくてもできます。

ケース2:敷地が狭く、平屋にすると必要な広さが取れない

制約1と確認1の帰結です。ここで起きるのは「ちょうどよく小さくする」ではなく、「狭くて不便になる」という別の事態です。収納が足りず、床に物が置かれ、かえって歩きにくい家になることもあります。ダウンサイジングは、必要なものが収まってこそ成立します。

ケース3:今の家がまだ健全で、住まい方を変えるだけで足りる

これがもっとも見落とされやすいケースです。二階を使わずに一階だけで生活が完結するのであれば、建て替えは目的ではなく、手段の過剰になりかねません。寝室を一階に移し、水回りを整えるだけで、暮らしの負担はかなり軽くなります。この道については、次の章で詳しく扱います。

最後に一つ、申し上げておきたいことがあります。平屋にしないという判断は、後退ではありません。目的は平屋に住むことではなく、これから二十年を機嫌よく暮らすことです。手段が目的にすり替わっていないか、ときどき立ち止まって確かめてみてください。

今の家をどうするか – 4つの道

「平屋にするかどうか」は、実のところ独立した問いではありません。持ち家がある以上、それは必ず「今住んでいるこの家を、どうするか」という、より大きな問いの一部になります。

道は4つあります。

仮住まい敷地の制約住まなくなった後向いている方
建て替えて平屋にする必要まともに受ける建物として残る敷地に余裕があり、体力にも余裕がある方
減築して平屋にする必要な場合が多い受けにくい建物として残る一階部分の構造が健全で、土地に愛着がある方
建てずに、一階だけで暮らす不要受けない二階も含めて残る今の家がまだ健全な方、判断を先送りしたくない方
住み替える/敷地に小さな家を置く条件による受けにくい選択肢を残しやすい今の家の維持そのものを見直したい方

※費用や工期は、地域・建物の状態・工事の内容によって大きく変わります。必ず複数の専門家にご確認ください。

道1:建て替えて平屋にする

もっとも自由度が高い道です。断熱も間取りも一から決められます。その代わり、前章で挙げた敷地の制約をまともに受けます。建ぺい率の上限が、そのまま新しい家の広さの上限になります。

もう一つ、忘れられがちなのが仮住まいです。工事の間どこかへ移り、完成したらまた戻る。引越しが二度発生します。これは家の性能とは関係なく、体力と時間を使います。

道2:減築して平屋にする

二階部分を撤去し、一階を活かして平屋にする方法です。住み慣れた家の骨格を残せること、解体して更地にするより工事の規模が小さくなりやすいことが利点です。

ただし、手続きの面で知っておくべき変化があります。令和7年4月から、小規模な木造建築物についても「大規模の修繕」「大規模の模様替」にあたる工事には、建築確認と検査が必要になりました9。ここでいう大規模の修繕とは、主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根または階段)の一種以上について、その過半を修繕することを指します。二階を撤去して屋根を全面的にかけ直すような工事は、これに該当する可能性があります。

「では現行の基準にすべて合わせる工事が必要になるのか」と心配されるかもしれませんが、そうとは限りません。同じ資料では、二階建ての木造一戸建て住宅について緩和措置が示されており、構造耐力上の危険性が増大しなければ既存不適格のままでよいとされています。容積率・建ぺい率・高さの制限についても同様です。また、水回りだけのリフォームや、手すり・スロープの設置工事は、従来どおり建築確認の手続きが不要です。

とはいえ、確認申請が必要になれば手続きの期間と費用は増えます。工事の範囲によって扱いが変わりますので、着手前に建築士へ確認してください。なお工事によって床面積が変わった場合は、変更があった日から一か月以内に建物表題部変更登記を申請する必要があります10

道3:建てずに、一階だけで暮らす

もっとも早く、もっとも安く、そしてもっとも見落とされている道です。寝室を一階に移し、水回りを整え、「二階はもう使わない」と決めてしまう。それだけで、階段の上り下りは日常から消えます。

工事は最小限で済み、仮住まいも要りません。判断を急がずに、数年かけて次の一手を考える余裕も生まれます。

ただし正直に申し上げれば、二階は残ります。固定資産税も、雨漏りの心配も、いずれ片づけなければならない荷物も、そのままです。「使わないと決めた階」を抱えたまま暮らすことになります。

この道を選ぶなら、二階を物置として使い続けないことだけは決めておいてください。後で片づけるのは、今のあなたより年齢を重ねたあなたです。

道4:住み替える/敷地に小さな家を置く

今の家の維持そのものを見直す道です。住み替えのほか、母屋を活かしたまま敷地に小さな家を置くという方法もあります。この選択肢については、後の章であらためて取り上げます。

広さは「坪数」ではなく「暮らし」から決める

「老後の平屋は何坪あればいいのか」——よく検索される問いです。世の中には「二人暮らしなら二十坪台」といった目安があふれていますが、数字を先に決めると、たいてい合いません。暮らし方が違えば、必要な広さも違うからです。

ここでは、自分で決めるための手順をお渡しします。

手順1:毎日いる場所から数える

寝室、居間、台所、浴室、トイレ。一日のうちで必ず使う場所を先に挙げ、そこに必要な広さを見積もります。ここは削らない部分です。とくに寝室とトイレの距離は、年齢を重ねるほど大切になります。

手順2:「年に何回使うか」で線を引く

次に、毎日は使わない部屋を書き出します。来客用の部屋、仏間、趣味の部屋、納戸。それぞれについて「去年、何回使ったか」を正直に数えてください。

年に数えるほどしか開けない部屋は、建てるときの費用がかかるだけでなく、住んでからも掃除と空調と固定資産税を静かに要求し続けます。その部屋を持つか持たないかは、広さの問題ではなく、これからの時間を何に使うかの問題です。

手順3:移動のための面積を数えない

廊下は、そこで何かをするための場所ではありません。廊下を減らすと、掃除する面積が減り、同時に部屋どうしの温度差も小さくなります。面積を削るのではなく、使わない面積をなくす。この考え方に切り替えると、必要な広さは自然に見えてきます。

坪数ごとの具体的な間取り例については、シニア夫婦の平屋間取り|20坪台の面積配分と3つの型で扱っています。

最後に一つ。家を小さくすることは、人生を縮めることではありません。使わない部屋を維持するために払っていた労力を、これからの時間に振り替えるということです。順番が逆になっていないか、確かめながら進めてください。

後悔しない設計 – 「あとから直せるもの」と「直せないもの」

設計の打ち合わせでは、決めることが山ほど出てきます。どれも大事に思えて、判断に迷うものです。そこで、一本の軸をお渡しします。「あとから直せるか、直せないか」です。

あとから直せるものあとから直せないもの(先に決める)
設備のグレード(台所・浴室・トイレ)敷地の中での建物の位置と向き
内装の仕上げ、床材、壁紙窓の位置と大きさ
収納の造作、棚の追加天井の高さ
手すりの設置、段差の解消寝室と水回りの距離
防犯設備の後付け屋根の形と、軒の出

限られた予算と判断力は、右の列に集中して使ってください。左の列は、住んでから不満が出たときに手を打てます。

この軸を頭に置いたうえで、平屋ならではの後悔を4つ挙げます。いずれも、費用を積めば防げるという類のものではありません。

後悔1:日当たり – 建ててから、隣家の影に気づく

制約4でお伝えしたとおりです。図面の上では明るく見えても、実際に建つと隣家の影に入ることがあります。着工前に、敷地に立って季節と時間帯を変えながら光の入り方を確かめておくことをおすすめします。天窓や高窓は後から付けにくい部分です。

後悔2:音と距離 – ワンフロアだからこそ、離れられない

平屋の良さとして「お互いの気配が感じられる」とよく言われます。それは裏を返せば、離れたいときに離れられないということでもあります。就寝時間が違えば、片方が見ているテレビの音が寝室に届きます。

夫婦であっても、一人で過ごす時間は必要です。それぞれの居場所をどこに取るかは、間取りを描く前に話し合っておくべきことだと考えられます。壁で仕切るのか、距離を取るのか、時間帯でずらすのか。答えは家ごとに違います。

後悔3:収納 – 二階という物置がなくなる

これがもっとも多い後悔かもしれません。二階建てには、意識せずとも「物を上げておく場所」がありました。平屋にはそれがありません。にもかかわらず荷物を減らさずに移り住むと、収まりきらない物が床に置かれ、動線をふさぎます。

ここで、理由1でお伝えした事実がもう一度関わってきます。転倒に関係したものの1位は「住宅」そのものであり、コードや段差やスリッパといったささいなものが原因になっていました11階段をなくして安全にしたはずの家が、床の荷物で転びやすい家に変わる。これは実際に起こります。

平屋を建てる決断と、物を減らす決断は、同時に進めてください。

後悔4:来客と帰省 – 泊まってもらう部屋がない

子や孫が帰省したとき、寝てもらう場所がない。気を使わせているうちに、足が遠のいた。そんな話をよく聞きます。

一方で、来客用の部屋は年に数回しか使いません。手順2でお伝えした線引きと、正面からぶつかる部分です。「泊まってもらうか、近くに泊まってもらうか」を先に決めておくと、判断がぶれません。居間を可変にする、寝具だけ用意しておくといった中間の答えもあります。

なお、廊下や出入口の幅、トイレや浴室の広さといった寸法の具体的な目安については、バリアフリー住宅の寸法と設計に絞った記事で詳しく扱っています。

何歳で決めるか – 選べる時期には、終わりがあります

ここまで読んで、「考えるのはもう少し先でもいいかもしれない」と思われた方もいるでしょう。その感覚は自然なものです。ただ、判断の材料として、一つの事実をお伝えします。

国土交通省の調査によると、注文住宅を「建て替え」た世帯の世帯主年齢は、「60歳以上」が59.1%で最も多く、平均は60.7歳でした12。一方で「新築」した世帯は30代が43.7%で最も多く、平均44.8歳です。

つまり建て替えという行為そのものが、もともと人生の後半に属する行為だということです。「この年齢で家を建てるなんて」と思う必要はありません。むしろ、あなたと同じ年頃の人が、実際にいちばん多く選んでいる道です。

そのうえで、時間の制約についても正直にお伝えします。家を建てる・直すという行為には、住むこと以外の負担がついてきます。打ち合わせを何度も重ね、荷物を片づけ、仮住まいへ移り、また戻る。これは家の性能とは無関係に、体力と気力を使う作業です。

だから、選べる道は年齢によって変わっていきます。60代なら、建て替えも減築も一階だけで暮らすことも、どれも選べます。70代の後半以降になると、工事を伴わない道のほうが現実的になる場面が増えると考えられます。同じ人でも、10年経てば最適な答えは変わるということです。

急ぐ必要はありません。ただ、「いつでも決められる」わけではないことだけは、頭の片隅に置いておいてください。

敷地の制約を、そもそも受けないという選び方

ここまで、平屋を建てるうえでの制約を繰り返しお伝えしてきました。敷地の広さ、建ぺい率、仮住まい、工事の負担。これらの多くは「その場所で、一から建てる」という前提から生まれています。その前提を外すと、別の道が見えてきます。

私たちがご提案しているシニアリビング「終活の住処」は、移設と買取ができる平屋ユニット住宅です。工場で完成させた建物を、クレーン付きのトラックで運んで設置します。

分類上はユニック車で吊り下げて据えるユニットハウス(建築物)で、牽引して移動するトレーラーハウスとは扱いが異なります。法的な扱いは設置方法や自治体の判断によって異なるため、設置前にご確認ください。

この記事で挙げた制約と、どう向き合うか

この記事で挙げた点建て替えて平屋にする場合移設・買取ができる平屋ユニット
敷地の制約建ぺい率の上限が家の広さの上限になる母屋を残したまま庭に置ける。1ユニット6.0m×2.4mから、連棟で広げられる
仮住まい工事期間中は必要。引越しが二度母屋に住んだまま設置を進められる場合がある
工事の負担解体から竣工まで数か月工場で完成させた状態で運ぶため、現場の工期は短い
夫婦の距離間取りで工夫するそれぞれの個室を確保する構成にできる
住まなくなった後建物として残る。解体には費用がかかる移設できる。使い終わった後は買取も可能

断熱と気密については、移動できる建物では軽視されがちな部分ですが、ここを重視した仕様にしています。段差の少ない設計で、将来の身体の変化や介護用ベッドにも対応します。

向かないケースもお伝えします

この選択肢は万能ではありません。

  • 敷地に設置スペースが確保できない場合には成立しません。
  • 用途地域や自治体の条例によって設置が認められないケースもありますので、事前の確認が必要です。
  • 来客が多く、広いリビングでもてなしたいという暮らし方には、従来の建築のほうが向きます。
  • 土地から取得する場合は、当然ながら土地代が別途必要になります。

建て替え、減築、一階だけで暮らす、住み替える。この記事で挙げたどの道にも、成立する条件と成立しない条件があります。比べたうえで選んでいただくことが、私たちの願いです。

よくある質問

Q
老後の平屋は、何坪あればいいですか?
A

坪数から決めないことをおすすめします。まず寝室・居間・台所・浴室・トイレという毎日使う場所を挙げ、そこに必要な広さを見積もってください。次に来客用の部屋や仏間など、毎日は使わない部屋について「去年、何回使ったか」を数えます。年に数回しか開けない部屋は、建てるときの費用だけでなく、住んでからも掃除と空調と固定資産税を要求し続けます。なお敷地に建てられる広さには建ぺい率と容積率の上限があるため、希望の坪数が実現できるかどうかは自治体でご確認ください。

Q
「平屋はやめたほうがいい」と言われるのは、なぜですか?
A

間取りの工夫では消せない制約が5つあるからです。同じ延床面積なら二階建てより広い敷地が要ること、水害のとき上階へ逃げられないこと、窓や出入口がすべて地面の高さに並ぶこと、周囲が建て込んでいると日当たりを隣家に左右されること、そして基礎と屋根の面積が増えるぶん坪あたりの単価が高く出やすいことです。ただし、これらがすべての敷地で問題になるわけではありません。ご自身の敷地でどれが当てはまるかを確かめることが、判断の出発点になります。

Q
今の二階建てを減築して、平屋にできますか?
A

できる場合があります。ただし令和7年4月から、屋根や柱など主要構造部の過半に手を入れる工事は、小規模な木造建築物であっても建築確認と検査が必要になりました。一方で国土交通省は緩和措置も示しており、構造耐力上の危険性が増大しなければ既存不適格のままでよいとされています。水回りだけのリフォームや手すり・スロープの設置は、従来どおり手続き不要です。工事の範囲によって扱いが変わりますので、着手前に建築士へご相談ください。

Q
70代からでも、建て替えは間に合いますか?
A

年齢だけで判断できるものではありませんが、選べる道は年齢とともに変わっていきます。国土交通省の調査では、注文住宅を建て替えた世帯の世帯主は「60歳以上」が59.1%で最も多く、平均は60.7歳でした。つまり建て替えは、もともと人生の後半に属する行為です。ただし工事には仮住まいへの引越しと新居への引越しという二度の負担がついてきます。体力と気力の見通しを含めて、建て替え・減築・一階だけで暮らす、の三つを並べて比べてみてください。

Q
平屋と二階建てでは、どちらが安く建ちますか?
A

同じ延床面積で比べると、平屋のほうが坪あたりの単価は高く出やすい傾向があります。総二階の建物と比べたとき、平屋は基礎の面積も屋根の面積もおよそ二倍になるためです。ただし足場が小さくて済む、階段が要らないといった有利な点もあり、総額がどうなるかは条件によって変わります。また入居後の外壁や屋根の修繕でも大きな足場を組まずに済みやすいため、長い目で見た維持費まで含めて比べることをおすすめします。

まとめ:決めるのは平屋かどうかではなく、これからの二十年

老後の住まいとして平屋が向いているのは、本当です。ただし向いているかどうかは、家の形ではなく敷地と年齢で決まりました。同じ平屋でも正解になる方と後悔する方に分かれるのは、そこに理由があります。

最後に、判断の材料を整理しておきましょう。

Point
  • 階段がなくなることの意味は大きい。ただし万能ではない
    転落の入口は家から消えますが、転倒は消えません。物を減らす決断と、平屋にする決断は同時に進めてください。
  • 消せない制約は、間取りの相談より先に確かめる
    敷地の広さ、水害のときの逃げ道、地面の高さに並ぶ窓、隣家に握られる日当たり。建ぺい率と容積率、接道、周囲の建物の高さ、ハザードマップの4つは、今日からご自分で調べられます。
  • 「平屋にしない」も、立派な結論
    浸水想定区域にある、敷地が狭い、今の家がまだ健全。この三つに当てはまるなら、別の道のほうが安全で暮らしやすいことがあります。
  • 今の家をどうするかには、四つの道がある
    建て替える、減築する、一階だけで暮らす、住み替える。工事をしないという選択肢も、同じ重さで並んでいます。
  • 選べる道は、年齢とともに変わっていく
    急ぐ必要はありません。ただ「いつでも決められる」わけではないことは、頭の片隅に置いておいてください。

家を小さく整えることは、暮らしを縮めることではありません。使わない部屋を守るために払っていた手間と時間を、これからの日々に振り替える——そう決められるのは、体力も判断力もある今だからこそです。

そしてその選択は、いつかこの家を片づける人への、静かな思いやりにもなります。立つ鳥、跡を濁さず。住まいをどうするかを自分で決めるという行為には、そこまでの意味があります。

私たちは、この記事で挙げた制約の多くが生まれる前提——「その場所で、一から建てる」——を外した、移設・買取ができる平屋ユニット住宅をご用意しています。母屋を残したまま庭に置くこともでき、工場で仕上げるため現場の工期が短く、高断熱でバリアフリーです。

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脚注

  1. 独立行政法人国民生活センター「医療機関ネットワーク事業情報からみた高齢者の家庭内事故」(2025). https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20251029_1.pdf ↩︎
  2. e-Gov法令検索「建築基準法」(第42条 道路の定義/第43条 敷地等と道路との関係/第52条 容積率/第53条 建蔽率/第56条 建築物の各部分の高さ). https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 ↩︎
  3. e-Gov法令検索「建築基準法」(第42条 道路の定義/第43条 敷地等と道路との関係/第52条 容積率/第53条 建蔽率/第56条 建築物の各部分の高さ). https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 ↩︎
  4. 内閣府(防災担当)「避難情報に関するガイドライン」(2022). https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/ ↩︎
  5. 警察庁「令和6年の刑法犯に関する統計資料」(2025)図表2-2-1-2および2-2-1-5より算出. https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/R06/r06keihouhantoukeisiryou.pdf ↩︎
  6. e-Gov法令検索「建築基準法」(第42条 道路の定義/第43条 敷地等と道路との関係/第52条 容積率/第53条 建蔽率/第56条 建築物の各部分の高さ). https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 ↩︎
  7. e-Gov法令検索「建築基準法」(第42条 道路の定義/第43条 敷地等と道路との関係/第52条 容積率/第53条 建蔽率/第56条 建築物の各部分の高さ). https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 ↩︎
  8. 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」. https://disaportal.gsi.go.jp/ ↩︎
  9. 国土交通省「建築物の改修における建築基準法のポイント」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001911322.pdf ↩︎
  10. e-Gov法令検索「不動産登記法」(第51条 建物の表題部の変更の登記). https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123 ↩︎
  11. 独立行政法人国民生活センター「医療機関ネットワーク事業情報からみた高齢者の家庭内事故」(2025). https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20251029_1.pdf ↩︎
  12. 国土交通省住宅局「令和6年度 住宅市場動向調査 報告書」(2025). https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001900667.pdf ↩︎