子どもが独立して、使われないままの部屋がいくつか残っている。外壁の更新見積もりを受け取って、この家にあと何年住むのだろうと考えた。膝の具合で、二階へはほとんど上がらなくなった。そろそろ住まいのことを考えたほうがいいのかもしれない——そう感じ始めている方は、少なくありません。
けれども、いざ調べてみると決まりません。資料は集まりますし、比較の記事も読みました。それでも「では、うちはどうするのか」となると答えが出ないまま、また一年が過ぎていきます。
足りないのは情報の量ではなく、決める順番です。
この記事では、老後の住まいの選び方を八つに整理した地図と、そこから自分の答えにたどり着くための五つの順番をお渡しします。公的な調査の数字を手がかりに、いま多くの方が実際にどう選んでいるかも見ていきます。
「終の棲家」とは、最期を迎える場所のことでしょうか
「終の棲家」は、人生の最後に住む家という意味で使われる言葉です。辞書を引いても、おおむねそのように説明されています。
けれども、この言葉を調べている方がいま考えていることは、少し違うところにあるはずです。これから先、自分はどこでどう暮らすのか。その問いのほうが先にあって、言葉はあとからついてきています。
ここに小さな、しかし決定的なずれがあります。辞書が指しているのは「最後に住む家」です。ところが住まいを選ぶときに実際に決めているのは、「最後まで自分の意思で暮らせる家」のほうです。
この二つは重なることもありますが、同じものではありません。そして、どちらのつもりで考え始めるかで、その後の進み方がまるで変わります。前者のつもりで始めると、住まいの検討がそのまま人生の終わりの話になり、手が止まります。
もう一つ付け加えておきます。この二つがずれたのは、そう昔のことではありません。かつては、ほとんど重なっていました。次の章で、その変化を数字で見ます。
表記が三つあるのは、意味の違いではありません
この言葉には「終の棲家」「終の住処」「終の住みか」といった書き方があります。読み方はいずれも「ついのすみか」で、意味に違いはありません。用いる字が違うだけです。
本記事では「終の棲家」で統一します。調べるときにどの表記を使っても、同じことを探していると考えて差し支えありません。
終の棲家選びは、これからの二十年を決めることです
先に結論をお伝えします。終の棲家を考えるとは、最期を迎える場所を決めることではありません。これから先の十数年から二十数年を、自分で決められるうちに整えることです。
そしてもう一つあります。住まいの選択は、どこに住むかを決めただけでは終わりません。その家を最後にどうするかまで含めて、ひとつながりです。
出口の話を先にすると、重く聞こえるかもしれません。ところが実際には逆で、出口を先に決めておくほうが、入口の選び方はずっと楽になります。その理由は、記事の後半で数字とともにお示しします。
亡くなる場所は、この七十年で入れ替わりました
辞書の意味と、実際に選んでいるものは別だとお伝えしました。これは言葉の遊びではありません。統計を見ると、その差ははっきりと数字に表れています。
七十年前は、八割の人が自宅で亡くなっていました
厚生労働省が人口動態統計としてまとめている、亡くなった場所の内訳があります。1951年の数字を見ると、自宅が82.5パーセント、病院は9.1パーセントでした1。
ほとんどの人が自分の家で最期を迎えていた時代です。当時であれば、「終の棲家イコール亡くなる場所」という理解は、実態とよく合っていました。
その割合は、その後ゆるやかに、しかし確実に入れ替わっていきます。1975年はまだ自宅47.7パーセントに対して病院41.8パーセントでした。ところが1980年の時点では、病院52.1パーセントに対して自宅38.0パーセントとなり、すでに順位が入れ替わっています2。
統計表は五年ごとの数字ですので、何年に入れ替わったかまでは特定できません。それでも、入れ替わりが起きたのは1970年代の後半だったとはいえます。
| 年次 | 自宅 | 病院 |
|---|---|---|
| 1951年(昭和26年) | 82.5% | 9.1% |
| 1965年(昭和40年) | 65.0% | 24.6% |
| 1975年(昭和50年) | 47.7% | 41.8% |
| 1980年(昭和55年) | 38.0% | 52.1% |
| 2000年(平成12年) | 13.9% | 78.2% |
| 2010年(平成22年) | 12.6% | 77.9% |
出典は厚生労働省の人口動態統計(確定数)の統計表です3。なお同じ表の注記により、平成2年までは老人ホームでの死亡が自宅またはその他に含まれています。
いまの内訳
近年の数字も見ておきます。厚生労働省の資料によれば、令和3年に亡くなった場所は、医療機関が67パーセント、自宅が17パーセント、介護施設・老人ホームが14パーセントでした4。
自宅や施設の割合は近年やや増えています。それでも、最も多いのは医療機関です。
この数字が意味していないこと
誤解のないように書いておきます。この数字は、自宅で暮らすことの良し悪しを示すものではありません。医療の側の事情が大きく関わっており、住まいの評価として読むべきものではありません。
確かめておきたいのは一点だけです。住まいを選ぶという行為は、もう「亡くなる場所を決める行為」ではなくなっています。
ですから、終の棲家を考えることは、人生の終わりを直視する作業ではありません。これから先の暮らしを組み立てる作業です。ここから先は、その前提で読み進めてください。
老後の住まい、選択肢の地図
ここから具体的な話に入ります。老後の住まいには、どんな選択肢があるのでしょうか。
整理の仕方はいくつもありますが、本記事では八つに分け、さらに三つのグループに束ねます。この分け方は当媒体の整理です。
最初に置くのは「今の家に住み続ける」です。これは他をひととおり検討したあとに残るものではなく、はじめから正当な選択肢のひとつです。
住み続ける系
- そのまま住み続ける……今の家に手を加えず、暮らし方のほうを合わせていきます
- 手を入れて住み続ける……段差や水回り、断熱など、気になるところを直します
- 建て替える……同じ敷地に建て直します
移る系
- 住み替えて買う……戸建てやマンションを新たに取得します
- 賃貸に移る……建物を持たず、借りて暮らします
- 高齢者向けの住まいに移る……サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどが該当します。これらは根拠となる法律によって種類が分かれています
- 子の近くへ移る……同居ではなく、近くに住む形です
建てる・置く系
- 今の敷地に小さな家を置く……母屋を残したまま、敷地内に小さな住まいを用意します
八つの選択肢を、五つの軸で並べる
次の表は、それぞれの向き不向きを大づかみに見るためのものです。金額は載せていません。条件によって幅が大きく、平均値を見ても自分の場合が分からないためです。
| 選択肢 | 初めの負担 | 工事や引っ越しの手間 | 住み慣れた場所 | 将来その家をどうするか | 向いている方 |
|---|---|---|---|---|---|
| そのまま住み続ける | ほとんどなし | なし | そのまま保てる | 決めていないと課題が残る | 今の家に大きな不便を感じていない |
| 手を入れて住み続ける | 中くらい | 中くらい | そのまま保てる | 建物はそのまま残る | 骨格に不満はなく設備や段差が気になる |
| 建て替える | 大きい | 大きい | そのまま保てる | 新しい建物が残る | 建物が古く、敷地に余裕がある |
| 住み替えて買う | 大きい | 大きい | 変わる | 前の家を手放す必要がある | 立地そのものを変えたい |
| 賃貸に移る | 中くらい | 中くらい | 変わる | 建物を残さない | 身軽さを優先したい |
| 高齢者向けの住まいに移る | 中〜大きい | 中くらい | 変わる | 建物を残さない | 支えのある環境を先に用意したい |
| 子の近くへ移る | 中〜大きい | 大きい | 変わる | 前の家の始末が残る | 子世帯との距離を縮めたい |
| 今の敷地に小さな家を置く | 中くらい | 小さい | そのまま保てる | 母屋と合わせて二棟分を考えることになる | 母屋が広すぎる、敷地に余裕がある |
いま知っておきたいのは全体の形です。八つもあるように見えて、実際には「今の場所に居続けるか、離れるか」で大きく二つに割れます。この割れ目が、あとで出てくる判断の順番と直接つながります。
それぞれの選択肢について、費用の内訳や詳しい長所短所を並べて比べたい場合は、老後の住まいの選択肢を費用と条件で比較する記事で改めて扱う予定です。このまま住み続けるか住み替えるかを迷っている段階であれば、判断のチェックリストに絞った記事のほうが早いかもしれません。住み替えを進める手順そのものについても、別途まとめる予定です。
八つ目の「小さな家を置く」という形については、平屋・タイニーハウス・移設できる家・敷地内の離れまで含めた小さな家という選び方の全体像で詳しく扱っています。単身で老後を迎える場合の備え方については、おひとりさまに絞った記事を別に用意する予定です。
九割以上の人は、住み替えるつもりがありません
地図を見て、選択肢の多さに気後れされたかもしれません。ここで、実際に人がどう選んでいるかを見ておきます。
国土交通省が五年に一度行っている住生活総合調査があります。2025年8月に確報が公表された令和5年の調査によると、今後の住み替え意向がある世帯は全体で21.4パーセントでした5。平成15年の27.9パーセントから平成25年に19.5パーセントまで下がり、そこからわずかに戻した水準です。
この数字は、持ち家に住む高齢の世帯に絞るとさらに小さくなります。「単独世帯(65歳以上)」で8.9パーセント、「65歳以上の夫婦世帯」で7.9パーセントです6。
裏返すと、こうなります。持ち家に住む高齢の単身世帯・夫婦世帯のうち、九割以上は住み替えるつもりがありません。
動かない理由は、諦めではありませんでした
同じ調査は、住み替えや改善の意向がない理由も聞いています。30歳代以上のすべての年代で最も多かったのは「現在の住まいに満足しているため」で、いずれも30パーセント以上でした7。
お金がないから動けない、という消極的な理由が最多ではありませんでした。満足しているから動かない——これが多数派の姿です。
いまこのまま住み続けたいと考えていて、それが後ろ向きな選択ではないかと気にされているのであれば、その心配は要りません。同じことを考えている人のほうが、はるかに多数です。
ただし「満足している」は、いまの時点の話です。同じ家でも、体の状態や家族の構成が変われば、満足の中身は変わります。多数派であることは、これから先も同じ選択でよいという保証にはなりません。
ただし、手が動く時期は限られています
同じ調査には、もう一つ見ておきたい数字があります。家計を主に支える人の年齢が高いほど、住み替えの意向を持つ割合は小さくなっていきます8。
一方でリフォームの意向は、55〜59歳で17.2パーセント、60〜64歳で19.1パーセントと、この年代で大きくなります9。住まいに実際に手を入れる動きは、この時期に集まっているといえます。
年齢が上がると、住み替えという大きな動き方は選ばれにくくなります。そのぶん、いま手元にある家をどう整えるかが中心になっていきます。
住み続けることは多数派です。けれども、住み続けるという選択は、何も決めないことと同じではありません。次の章から、その違いを見ていきます。
決まらないのは、順番が示されていないからです
ここまでで、選択肢の地図と、実際に人がどう選んでいるかを見てきました。それでも、では自分はどうするかとなると、なかなか決まりません。
資料はもう十分に読んだ、という方は多いはずです。パンフレットも取り寄せましたし、比較の記事もいくつも読みました。それでも決まりません。
理由ははっきりしています。選択肢の一覧表は「何があるか」を教えてくれますが、「何から決めるか」は教えてくれません。
順番がないと、条件が互いに動いてしまいます
順番のないまま比べ始めると、こうなります。予算を考えると場所が決まりません。場所を考えると建物の形が決まりません。形を考えると、また予算に戻ってきます。
お金と場所と体調と家族の事情は、互いに結びついています。ですから、どれか一つを決めようとするたびに、ほかが動いてしまいます。
もう少し具体的に書きます。予算の上限を考えようとすると、場所を変えるかどうかで前提が変わります。では場所を先に決めようとすると、今の家をいくらで手放せるかが分からないと動けません。その金額を調べようとすると、いつ手放すかが決まっていないので概算にしかなりません。
そうして一周して、最初に戻ってきます。何時間か考えて、結局ひとつも決まっていません。この経験に覚えのある方は、少なくないはずです。
これは、判断力や決断力の問題ではありません。決める順番が渡されていないだけです。次の章で、その順番をお示しします。
決める順番 – 五つの段
順番は五つあります。上から順に決めていくと、下の段は自然に絞られていきます。
第一段:出口を決める
いちばん最初に決めるのは、意外に思われるかもしれませんが、いま住んでいる家を最後にどうするかです。
選択肢は大きく三つあります。誰かに譲るか、売るか、建物を畳むかです。このうちどれを想定しているかで、次の段以降の選び方が変わります。
先ほどの住生活総合調査は、いまの住まいを必要としなくなった場合の処分の見込みも聞いています。持ち家の世帯では、多くの世帯類型で「子・親族などに譲渡する」の割合が高くなっていました10。
ただし例外もあります。64歳以下の単独世帯だけは「売却する」が39.4パーセントで、「子・親族などに譲渡する」の27.1パーセントを上回っていました11。
つまり多くの方は、譲るつもりでいます。ところが、譲り方まで決まっているかというと、そこは別の話です。この差については次の章で詳しく見ます。
第二段:場所を決める
次は場所です。今の土地に居続けるのか、離れるのか。ここが決まると、八つの選択肢は半分以下になります。
判断の材料は、建物ではなく生活のほうにあります。買い物と通院に行けるか。車を手放したときにどうなるか。近所に声をかけられる相手がいるか。
この段でよくあるのが、建物への不満から入ってしまうことです。寒い、段差がある、掃除が大変。どれも大事なことですが、建物は直せます。場所は直せません。
第三段:形を決める
場所が決まって、はじめて建物の形の話になります。今の家のままか、手を入れるか、建て替えるか、移るか、敷地に小さな家を置くか。
第二段で「今の土地に居続ける」と決めていれば、選択肢は住み続ける系と、敷地に置く形に絞られています。「離れる」と決めていれば、移る系のなかから選ぶことになります。
ここまで来ると、比べる対象は二つか三つです。八つを一度に比べようとして動けなくなっていた状態からは、抜け出せています。
第四段:期限を決める
いつまでに決めるかを決めます。ここを空けたままにすると、ほかの段がどれだけ決まっていても実行されません。
期限の決め方には、年齢とは別の考え方があります。このあとの章で詳しく扱います。
第五段:相手を決める
最後は、誰と決めるか、そして誰に伝えるかです。
夫婦であれば、二人で決めることになります。片方が「そろそろ考えよう」と言い、もう片方が「まだ早い」と応じて、そこで話が終わってしまいます。この形は珍しくありません。二人で同時に話すと声の大きいほうに寄りますので、先に別々に書き出す方法をおすすめします。
単身であれば、決めるのは一人です。ただし、決めたことを誰に伝えておくかは、決めておく必要があります。伝わっていない決定は、決まっていないのと同じ扱いになってしまいます。
五つの段を、もう一度
- 出口……この家を最後にどうするか(譲る/売る/畳む)
- 場所……今の土地に居続けるか、離れるか
- 形……住み続けるか、手を入れるか、建て替えるか、移るか、置くか
- 期限……いつまでに決めるか
- 相手……誰と決め、誰に伝えるか
この並びは当媒体の設計であり、公的に定められたものではありません。それでも、上から順に決めると下が絞られるという点で、実際に使いやすい順序だと考えています。
なぜ出口から決めるのか – 住まなくなった家に起きていること
五つの段のいちばん上に「出口」を置いた理由をお話しします。ここが、入口の選び方を大きく左右します。
空き家は、こうして生まれています
国土交通省が令和6年に行った空き家所有者実態調査があります。結果が公表されたのは2025年8月です12。
この調査で、人が住まなくなった理由を見ると、最も多いのは「死亡」で約44パーセントでした。次いで「別の住宅に転居」が約39パーセントで、この二つで約八割を占めます13。
つまり空き家の多くは、投資に失敗した物件でも、放り出された別荘でもありません。誰かが暮らしていた家です。その人が亡くなるか、別の住まいに移ったことで、空き家になっています。
その家は、相続で引き継がれています
同じ調査で、いま空き家を持っている世帯がどうやってその家を手に入れたかを見ると、最も多いのは「相続」で約58パーセントでした14。新築や建て替えが約17パーセント、既存住宅の購入が約14パーセントですから、相続が突出しています。
建築時期も見ておきます。空き家のうち1980年以前に建てられたものが約六割を占めます15。引き継いだ時点で、すでに古い建物であることが多いということです。
そして、ほとんど何も決まっていませんでした
この調査でいちばん重い数字はここです。相続で空き家を取得した世帯に、相続の前に対策を講じたかを聞いています。
「特に対策は講じていない」が77.0パーセントで、「相続前に対策を講じた」は23.0パーセントでした16。
しかも、講じた対策の中身を見ると、最も多いのは「被相続人との話し合い」で16.7パーセントです17。遺言の作成支援や、後見制度・家族信託の活用は、いずれもごくわずかでした。
言い換えると、こうなります。話し合いをしたのが16.7パーセントですから、家を引き継いだ人の八割以上は、その家をどうするかについて、前の持ち主と話していません。
「迷惑をかけたくない」の中身
ここで第一段の話に戻ります。持ち家の世帯にいまの住まいを必要としなくなったときの見込みを聞くと、多くの世帯類型で「子・親族などに譲渡する」の割合が高いのでした18。
渡すつもりはあります。ところが、渡し方は決まっていません。この隙間が、そのまま空き家になっています。
「子どもに迷惑をかけたくない」という言葉は、多くの方が口にされます。その中身を分解していくと、いちばん最後まで残るのは住まなくなった家の始末であることが少なくありません。
書き添えておきます。この数字は、備えていない人を責めるためのものではありません。備える機会が、そもそも設けられていないのです。家を建てるときにも、買うときにも、その家を最後にどうするかを考える場面は用意されていません。
ですから、自分で場面を作るしかありません。それが第一段です。今日決めるのは、譲るのか、売るのか、畳むのか。この一行だけで足ります。
実際に家を仕舞う手順そのもの、つまり片付け・名義・売却・解体といった実務については、持ち家の終い方に絞った記事で扱う予定です。住まい以外も含めた終活全体の進め方についても、別途まとめます。
いつまでに決めるか – 期限を決めるのは年齢ではありません
第四段の期限です。「何歳までに決めるべきか」という問いはよく聞かれますが、この問いには年齢では答えられません。
期限を決めているのは、状態です
住まいに関する行動は、そのほとんどが契約をともないます。家を売る、貸す、建てる、借りる、工事を頼む。いずれも法律上は「法律行為」にあたります。
民法第三条の二は、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています19。
これは本人を守るための規定です。同時に、住まいの決定には、制度の側から静かに期限が引かれているということでもあります。
個別の判断は事情によって異なりますので、実際に問題になりそうな場面では司法書士や弁護士などの専門家にご確認ください。ここでお伝えしたいのは、期限の性質です。期限を決めているのは年齢ではなく、自分で決められる状態が続いているかどうかです。
差し迫っていないのに、選べる範囲だけが減っていきます
老後の住まいには締切がありません。今日決めなくても誰も困りません。ですから何年でも先送りできます。
その一方で、選べる範囲は静かに減っていきます。先ほど見たとおり、年齢が上がるほど住み替えの意向を持つ割合は小さくなっていました20。体力も、資金の見通しも、そして決められる状態も、時間とともに変わります。
差し迫っていないのに、選択肢だけが減っていきます。ここが、老後の住まいという課題のいちばん扱いにくいところです。
だからこそ、期限は自分で置くしかありません。置き方には二通りあります。日付で置くか、出来事で置くかです。
日付で置くなら、「来年の誕生日までに第一段だけは決める」といった形になります。出来事で置くなら、「屋根か外壁の更新見積もりを受け取ったとき」「車の運転をやめようと思ったとき」あたりが目印になります。
どちらでも構いません。ただし出来事で置く場合は、その出来事が起きたときに必ず目に入る場所に書いておいてください。目印を決めても、そのとき思い出せなければ期限を置いていないのと同じになります。
何歳で何を準備するかという年代別の進め方については、終の棲家を何歳から考えるかに絞った記事で改めて扱う予定です。
選択肢のひとつとしての「小さな家」
地図の八つ目に「今の敷地に小さな家を置く」を挙げました。この形について補足します。当媒体を運営する会社が扱っている住まいでもありますので、仕様として決まっていることと、向き不向きを分けて書きます。
シニアリビング「終活の住処」は、移設・買取ができる平屋ユニット住宅です。工場で仕上げた状態で運び、ユニック車で吊り下げて据えます。分類上はユニットハウス(建築物)として扱われ、トレーラーハウスとは扱いが異なります。
仕様として決まっているのは、次の点です。
- 1ユニットは6.0メートル×2.4メートル。単棟から連棟まで、敷地と暮らしに合わせて構成できます。
- 高断熱・高気密で、段差の少ない設計です。
- 夫婦それぞれの個室を確保する構成にできます。
- 自宅の敷地にも、子世帯の近くにも設置できます。
- 使い終わったあとは買取もできます(条件は物件の状態などによって異なりますので、個別にご確認ください)。
この記事の文脈で言えること
ここまで見てきたのは、入口と出口がひとつながりだということでした。そして、渡すつもりはあるのに渡し方が決まっていないという隙間が、空き家を生んでいることも見ました。
この住まいの特徴を一言でいえば、出口が最初から決まっていることです。移せますし、買い取ってもらうこともできます。第一段(この家を最後にどうするか)の答えを、住み始める前に持てるということです。
一方で、地図の表に書いたとおり、敷地に小さな家を置くと母屋と合わせて二棟になります。母屋の始末は別に残ります。ここは自動的には解決しません。母屋をどうするかは、第一段で改めて決める必要があります。
向かないケース
- 設置スペースや搬入経路がなく、クレーンの作業空間が取れない場合
- 用途地域や自治体の条例による制約がある場合(設置前に必ず確認が必要です)
- 広い部屋で大人数の来客に対応したい場合
- 土地から取得する場合(土地の条件しだいで前提が大きく変わります)
建て替え・住み替えとの比べ方
| 観点 | 建て替える | 住み替えて買う | 敷地に小さな家を置く |
|---|---|---|---|
| 初めの負担 | 大きい | 大きい | 中くらい |
| 工事の期間と、その間の暮らし | 仮住まいと二度の引っ越しが要る | 引っ越しは一度 | 母屋に住んだまま据えられる場合がある |
| 夫婦の距離 | 間取りしだいで自由に取れる | 物件しだい | 連棟にして個室を分けられる |
| 将来その家をどうするか | 建物が残る | 前の家を手放す必要がある | 移す、または買い取ってもらう選択がある |
| 設置・取得の条件 | 敷地の法規制 | 物件の条件と資金 | 搬入経路とクレーンの作業空間 |
金額はここでも出していません。条件による幅が大きく、平均を見ても自分の場合の判断材料になりにくいためです。
平屋・タイニーハウス・移設できる家・敷地内の離れといった小さな家の四つのかたちと選び方は、それぞれの向き不向きをまとめた記事があります。この住まいそのものについては、シニアリビング「終活の住処」でご覧いただけます。
この記事の見方の限界と、気をつけたいこと
ここまでの内容には、はっきりした限界があります。最後にそれを並べておきます。
亡くなる場所の統計は、住まいの評価ではありません
記事の前半で、亡くなった場所の内訳を見ました。あの数字の背景には医療の事情が大きく関わっており、住まいの良し悪しを示すものではありません。
あの統計は、「終の棲家」という言葉が指すものを確かめるために引きました。自宅と医療機関のどちらがよいかという話とは、別のものです。
「住み続ける」が成立しなくなる条件があります
九割以上が住み替えるつもりがないという数字は、住み続けることが常に可能だという意味ではありません。次の三つは、住み続けるという前提を崩します。
- 建物の寿命……空き家のうち約六割は1980年以前に建てられたものでした21。住宅には寿命があり、ある時点で手を入れるか建て替えるかの判断が必要になります。
- 立地と移動手段……車を手放したあとに、買い物と通院が徒歩や公共交通で成立するかどうかで、同じ家の住み心地は大きく変わります。
- 一人になったとき……夫婦二人で成立していた暮らしが、一人になっても同じように成立するとはかぎりません。
早く決めすぎることにも弊害があります
早めに決めておくほうが、選べる範囲は広く残ります。ただし、早ければ早いほどよいというものでもありません。
十年先を見越して決めたことが、五年後の状況と合わなくなることはあります。必要以上に早く家を手放してしまい、あとから住まいの自由度を下げてしまう場合もあります。決めておくことと、実行してしまうことは別です。
地域差と条件差が大きい領域です
都市部と地方では、選べる選択肢の数がそもそも違います。持ち家か借家かでも前提が変わりますし、夫婦か単身かでも条件は変わります。本記事の一覧表は全体の形を見るためのもので、個別の条件を当てはめたものではありません。
数字も制度も変わります
統計は年次によって動きます。費用、税、補助、法規はいずれも地域差と年度差が大きい領域です。実際に動かれる段階では、お住まいの自治体と専門家、そして最新の情報で必ずご確認ください。
老後の住まいでよくある後悔の型と、それを避けるための条件については、後悔しない住まいの条件に絞った記事で改めて扱う予定です。
今日からできること – 五つの段を、紙に書き出す
最後に、持ち帰って使える形にしておきます。紙を一枚用意して、五つの段をそのまま書き出してみてください。
- 第一段・出口……この家は最後にどうするか。譲る/売る/畳む のどれか
- 第二段・場所……今の土地に居続けるか、離れるか
- 第三段・形……そのまま/手を入れる/建て替える/移る/敷地に置く のどれか
- 第四段・期限……いつまでに決めるか。日付で書く
- 第五段・相手……誰と決めるか。誰に伝えるか
書き方には、二つだけコツがあります。
夫婦の場合は、先に別々に書いて、あとから突き合わせてください。二人で同時に話し始めると、声の大きいほうの案に寄っていきます。別々に書くと、相手が何を諦めるつもりでいるかが見えます。
単身の場合は、書いたものを誰に渡すかまで書いてください。紙のありかを知っている人が一人もいなければ、書いていないのとほぼ同じ結果になります。
紙に書く意味は、頭のなかにあるものを外に出すところにあります。頭のなかにあるうちは、五つの段が混ざったまま同時に動きます。書き出すと、それぞれが別々の項目として並びます。
書いたものは、しまい込まずに見えるところに置いてください。半年後に見返すと、決まっていない段がひと目で分かります。
それから、書いたことは変えて構いません。一度書いたら守らなければならない、というものではありません。書いてある状態と、何も書いていない状態とでは、あとから考え直すときの手間がまるで違います。
そして、五つすべてを今日決める必要はありません。第一段が一行書ければ、それで足ります。譲る、売る、畳む。このどれかが決まっているだけで、残りの四段はぐっと考えやすくなります。
よくある質問
- Q「終の棲家」と「終の住処」、どちらの書き方が正しいですか?
- A
どちらも正しく、意味に違いはありません。「終の棲家」「終の住処」「終の住みか」はいずれも「ついのすみか」と読み、用いる字が違うだけです。調べるときにどの表記を使っても、出てくる内容は同じと考えて差し支えありません。本記事では「終の棲家」で統一しています。
- Q終の棲家は、何歳から考えればいいですか?
- A
- Qこのまま今の家に住み続けるつもりです。それでも決めておくことはありますか?
- A
一つだけあります。「この家を最後にどうするか」——誰かに譲るのか、売るのか、建物を畳むのかです。持ち家に住む高齢の単身世帯・夫婦世帯のうち九割以上は住み替えるつもりがありませんが24、住み続けることと、何も決めないことは別のものです。住まなくなった家の始末は、決めていないかぎり誰かに残ります。
- Q家は子どもに残したほうがいいのでしょうか?
- A
残す・残さないに正解はありません。ただし、渡すつもりがあるのなら、渡し方まで決めておく必要があります。空き家の取得方法で最も多いのは相続で約58パーセントを占めますが、相続で引き継いだ世帯の77.0パーセントは相続の前に何の備えもしていませんでした25。片付けや名義、売却といった実務については、持ち家の終い方に絞った記事で改めて扱う予定です。
- Q一人暮らしです。夫婦の場合と、進め方は変わりますか?
- A
決める順番は同じですが、第五段の「相手を決める」の中身が変わります。夫婦であれば二人で決めることになりますので、同時に話し始めるより、先に別々に書いて突き合わせるほうがうまくいきます。一人であれば決めるのは自分だけですが、そのぶん「決めたことを誰に伝えておくか」まで決める必要があります。伝わっていない決定は、決まっていないのと同じ扱いになってしまいます。
まとめ:決めるのは、住まいではなく順番です
終の棲家という言葉は、人生の最後に住む家を指します。けれども実際に選んでいるのは、これから先の十数年から二十数年を暮らす場所です。この二つを分けて考えると、住まいの検討はぐっと進めやすくなります。
選択肢は八つあり、その多くは「今の場所に居続けるか、離れるか」で二つに割れます。そして九割以上の方は、住み続けるほうを選んでいます。動かないことは、後ろ向きな選択ではありません。
ただし、住み続けると決めた方にも、一つだけ決めておいてほしいことがあります。この家を、最後にどうするのか。ここが決まらないまま引き継がれた家が、いま空き家になっています。
この記事で見てきたことを、五つに整理しておきます。
- 言葉の意味と、選んでいるものは別です。亡くなる場所と住まいは、この七十年で別のものになりました
- 「住み続ける」は正当な選択肢です。しかも多数派で、その理由の多くは満足であって諦めではありません
- 決まらないのは、順番が示されていないからです。情報を足しても解けません
- 順番は、出口・場所・形・期限・相手の五つです。上から決めると、下は自然に絞られます
- 期限を決めているのは年齢ではなく、自分で決められる状態が続いているかどうかです。差し迫っていないのに、選べる範囲だけが静かに減っていきます
五つすべてを今日決める必要はありません。紙を一枚出して、第一段だけ書いてみてください。譲る、売る、畳む。この一行が決まるだけで、残りの四段の見え方が変わります。
そして、住まいの形そのものに「出口」を持たせておくという考え方もあります。シニアリビング「終活の住処」は、移設も買取もできる平屋ユニット住宅です。住み始める前から、その家を最後にどうするかの答えを持っておけます。どんな住まいなのか、まずは眺めてみてください。
老後の住まいを考えることは、人生の終わりに備えることではありません。これからの時間を、自分の手で整えることです。子に頼らず、美しく仕舞える住まいへ。立つ鳥、跡を濁さず——その一歩は、今日の一行から始められます。
脚注
- 厚生労働省「平成22年(2010)人口動態統計(確定数)の概況 統計表 第5表 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移」(2011). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii10/dl/s03.pdf ↩︎
- 厚生労働省「平成22年(2010)人口動態統計(確定数)の概況 統計表 第5表 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移」(2011). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii10/dl/s03.pdf ↩︎
- 厚生労働省「平成22年(2010)人口動態統計(確定数)の概況 統計表 第5表 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移」(2011). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii10/dl/s03.pdf ↩︎
- 厚生労働省「【テーマ6】人生の最終段階における医療・介護」(2023). https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001097991.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)第三条の二」. https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)第三条の二」. https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報集計)結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001907398.pdf ↩︎
- 国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(2025). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907478.pdf ↩︎
