老後 夫婦の個室と別室の間取り|距離のつくり方4つと注意点

老後の住まいを考えて「夫婦それぞれの部屋」を調べると、出てくるのは寝室を分けるかどうかの話ばかりです。
しかも読み進めるうちに、話の中心は「別々にすると夫婦仲はどうなるか」へ移っていきます。知りたかったのは住まいのつくり方だったのに、いつのまにか自分たちの関係のほうを採点されている。

寝る場所を分けるかどうかで片がつくなら、話は簡単です。
ただ、退職して家にいる時間が増えたあとに落ち着かなさが出てくるのは、眠っているあいだではありません。起きているあいだのほうです。

だとすれば、考えたいのは寝室の分け方ではなく、日中に一人でいられる場所があるかどうかです。
起きている時間の過ごし方は、退職を境に変わります。どう変わるのかは、統計と国の資料からたどれます。

この記事でわかること
  • 退職の前後で、一緒に過ごす相手がどう入れ替わるのか – 総務省の生活時間調査から
  • 眠る時刻がずれていくことについて、国の資料が何を書いているのか
  • 別々にしている夫婦がどれくらいいるのか。そして、なぜその数字が見つからないのか
  • 工事をせずに今日からできる距離のつくり方と、間取りで解く場合の置き方
  • 別々にすることで失うもの – 海外の研究が示していること

「個室」を、寝る部屋のことだと考えていませんか

60代を過ぎたご夫婦が家の中で落ち着かなさを感じるのは、夜ではありません。

日本人の平均で見ると、一日のうち眠っている時間はおよそ8時間です1。残りの16時間は、二人とも起きています。同じ屋根の下で、それぞれが何かをして過ごしている。

落ち着かなさは、この16時間のほうから来ます。寝室をどうするかは、残りの8時間についての話にすぎません。

日中の居場所として見ると、打てる手が変わります。寝室を二つにするには、部屋がもう一つ要りますが、昼間に一人でいられる場所をつくるだけなら、工事をせずにできることがいくつもあります。

なお、小さな家にはどんな形があるのかは、平屋・タイニーハウス・移設できる家・敷地内の離れまで含めた小さな家の全体像をまとめた記事で扱っています。

変わったのは夫婦の仲ではなく、一緒にいる時間の長さです

退職の前後で家の空気が変わったと感じるとき、多くの方はその理由を人に求めます。相手が変わってしまったのか、それとも自分の気が短くなったのか、と考えます。

けれども、この時期に大きく変わっているものが一つあります。一緒に過ごす相手の内訳です。

職場の人と過ごしていた時間が、家族と過ごす時間に入れ替わります

総務省の社会生活基本調査は、睡眠を除いた一日の時間を、誰と一緒に過ごしていたかで分けて集計しています2。年齢の階級ごとに並べると、60代をはさんで数字がはっきり動きます。

年齢階級家族と一緒にいた時間学校・職場の人と一緒にいた時間
55〜59歳4時間38分3時間42分
60〜64歳5時間18分2時間45分
65〜69歳5時間57分1時間30分
70〜74歳6時間08分46分

55〜59歳と70〜74歳を比べると、家族と一緒にいた時間は1時間30分増え、学校・職場の人と一緒にいた時間は2時間56分減っています。一緒にいる相手が、職場の人から家族へ入れ替わっていく様子が数字に出ています。

増えた時間は、一人の時間にはほとんどなっていません

この調査では、一人でいた時間も集計されています。ところが同じ二つの年齢階級のあいだで、一人でいた時間は15分しか増えていません

つまり、退職によって空いた時間の大部分は、一人で過ごす時間にはなっていないことになります。行き先は、家族と一緒に過ごす時間のほうでした。※公表値からの当媒体の読み取りです。

そのうえで言えることがあります。家の中で起きているのは、関係の変化ではなく時間の配分の変化です。相手が変わったのでも、我慢が足りないのでもありません。同じ空間に二人でいる時間が、それまでの人生で経験したことのない長さになっただけです。

ただし、この統計には注意すべき点があります。年齢の階級ごとの集計であって、夫婦二人の世帯だけを取り出した数字ではありません。「家族」には別に暮らしている家族も含まれます。

また、同じ人を長い年月にわたって追いかけた調査ではなく、年齢の違う人たちを同じ時点で調べたものです。ここに挙げた変化は、一組のご夫婦にそのまま起きるとは限りません。なお、令和3年の調査は感染症の影響を受けた時期にあたるため、5年前との比較にもその影響が含まれています。

眠りが変わるのは、二人の間に何かが起きたからではありません

「最近、夫のいびきで目が覚める」「妻より二時間早く起きてしまい、居間に出るのも気を遣う」。こうした変化を、二人の関係の問題として受け取っている方は少なくありません。

けれども、この時期の眠りについては、国がまとめた資料に書かれていることがあります。

夜に眠れる時間は、年齢とともに短くなります

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、脳波を使って夜間の睡眠時間を調べた研究として、15歳前後では約8時間、25歳で約7時間、45歳では約6.5時間、65歳では約6時間と示しています3。成人したあとは20年ごとに30分程度の割合で、夜に眠れる時間が短くなっていくという内容です。

同じ資料には、加齢とともに「寝つくのに長く時間がかかる」「途中で目が覚める時間や回数が増える」「熟眠感が減る」といった変化が起きることも書かれています。

夜中に目が覚めるようになったことも、早く目が覚めてしまうことも、二人の間に何かが起きたからではありません。年齢とともに起きることとして、資料に記されている範囲のことです。

朝型になる度合いは、男性のほうが強いと書かれています

もう一つ、夫婦にとって見過ごせない記述があります。同じ資料は、加齢が進むと早寝早起きの傾向が強まって朝型化すること、そして「この傾向は特に男性で強く」、適切な睡眠習慣を考えるうえで年代別・性別の配慮が必要になることを述べています4

夫婦で起きる時刻と眠る時刻がずれていくのは、資料が性別の違いとして書いている事柄です。どちらかの生活が乱れているという話ではありません。

さらに、この資料は退職そのものにも触れています。「定年退職などを迎え自宅で過ごす時間が増えるとともに、育児などの家庭内での役割も徐々に減少するため、必要な睡眠時間に対して床上時間が相対的に過剰となる傾向がみられます」という一文です5。床上時間とは、眠っているかどうかにかかわらず寝床で過ごしている時間を指します。

高齢の世代については、床上時間が8時間以上にならないことを目安に必要な睡眠時間を確保する、という推奨が示されています。ただし必要な睡眠時間には個人差があるため、6時間以上を目安に自分に合う時間を見つけるように、とも書かれています。

ここで扱っているのは、資料に書かれている一般的な傾向です。眠りの不調が続く場合の判断は、この記事の範囲を超えます。気になる状態があるときは、医療機関にご相談ください。

他の夫婦がどうしているかは、実は分かっていません

「別々にしている夫婦は、どのくらいいるのだろう」。この問いは、調べ始めた方のほとんどが持つものだと思います。多数派がどちらなのかが分かれば、自分たちの選択を測る物差しになるからです。

ところが、この数字は見つかりません。夫婦の寝室が同室か別室かを、国は統計に取っていないからです。

確認した5つの調査には、その項目がありません

当媒体が確認したのは、住まいと暮らしに関する主要な5つの調査です。

  • 住宅・土地統計調査(総務省):
    住宅の部屋数や広さ、所有の関係は調べられていますが、その部屋を誰がどう使っているかまでは調べられていません
  • 社会生活基本調査(総務省):
    一日の時間の配分や誰と一緒にいたかは分かりますが、どの部屋にいたかという項目はありません
  • 国民生活基礎調査(厚生労働省):
    世帯の構成や健康の状態は調べられていますが、住宅の中の使われ方は対象になっていません
  • 住生活総合調査(国土交通省):
    住まいへの満足度や住み替えの意向は調べられていますが、寝室のあり方を問う設問はありません
  • 高齢社会白書(内閣府):
    高齢期の暮らしを幅広くまとめていますが、夫婦の寝室に関する集計は含まれていません

検索すると割合の数字はいくつも出てきますが、その多くは住宅に関わる会社や事業者が自社で行った調査によるものです。

それが正しくないという話ではありません。国が定点で数えたものとは、性質が違うということです。調査の対象も方法も、それぞれ異なります。

数えられていないものを、基準にはできません

この事実には、思っていたより大きな意味があります。国が「夫婦はこうあるもの」という標準を持っていない、ということです。

住まいの広さについては国が目安を示してきましたし、階段の寸法には建築基準法の定めがあります。けれども、夫婦がどの部屋で眠り、日中どこで過ごすかについては、公的な目安が置かれていません。

ですから、多数派に合わせるという決め方は、そもそも成り立ちません。決め方として残るのは、自分たちの一日に合うかどうかで判断することだけです。

距離は、壁だけでつくるものではありません

一人でいられる状態をつくろうとすると、多くの方がまず部屋を思い浮かべます。空いている部屋はあるか、なければ建て替えか、という順で考えが進みます。

けれども、一人でいられるかどうかを決めているものは、壁だけではありません。当媒体では、次の4つに整理しています。

隔て方やり方いつからできるか向いている場面
時間をずらす同じ部屋を、別の時間帯に使う今日から朝と夜。起きる時刻がずれている場合
向きを変える机や椅子の向きを変え、視線が交わらないようにする今日から同じ部屋にいる時間が長い場合
音を隔てる扉を替える、置くものを変える、使う時間を分ける一部は今日から。多くは手を入れる工事テレビ・電話・音楽・家事の音
出入口を分ける行き来の経路そのものを分ける間取りを変える工事顔を合わせずに出入りしたい場合

この4つは、費用と手間の小さい順に並んでいます。上の2つは今日から試せて、下に行くほど工事が必要になります。

順番には意味があります。手前から試していくと、自分たちの落ち着かなさが、どの段階で収まるのかが分かります。時間をずらしただけで足りることもあれば、音を隔てないと収まらないこともあります。

逆に、間取りの話から始めると、必要のない工事にたどり着くことがあります。部屋を一つ増やしたあとで、実は起きる時刻が2時間ずれていたことのほうが大きかったと気づいても、増やした部屋は元に戻せません。

音については、制度が定めている範囲がはっきりしています

4つのうち、音だけは少し事情が違います。ここには公的な等級があるからです。ただし、その等級が何を対象にしているかを見ておく必要があります。

等級が測っているのは、住戸と住戸の間です

住宅性能表示制度には、音環境に関する評価があります。国土交通省の資料によれば、そのうち壁について定められているのは「透過損失等級(界壁)」で、対象は「居室の界壁の構造による空気伝搬音の遮断の程度」とされています6

界壁とは、隣の住戸との間の壁のことです。同じ資料は、界床を「上下住戸との間の床」、界壁を「隣戸との間の壁」と説明しています。等級は四段階で、等級4は特定の条件下で日本工業規格のRr-55等級相当以上、等級3はRr-50等級相当以上とされています。建築基準法の技術的基準は、おおむねRr-40等級に相当する程度と書かれています。

そしてこの資料は、こうした音の問題について「戸建住宅よりも共同住宅の各住戸間で発生する場合の方が多くなっています」と述べています。制度が想定しているのは、隣の家との間の音です。

同じ家の中の部屋と部屋の間には、物差しがありません

この資料を確認した範囲では、同じ住宅の中で、部屋と部屋の間の音の伝わりにくさを評価する等級は置かれていませんでした。

また、建築の学会がまとめた解説も、同じ方向を示しています。日本建築学会の住まいづくり支援建築会議による解説は、住戸の中で発生する音について「建物性能への不満とは直結しにくい傾向にありますが、生活時間の異なる家族のいる場合、夜間は洗濯機や掃除機など、音の出やすい家電の使用を控えるなどの配慮をしましょう」としています7

これは国の基準ではなく学会がまとめた解説ですが、家の中の音は、建物の性能ではなく暮らし方の工夫で対処するものとして扱われていることが分かります。

ここから言えることは、はっきりしています。隣の家との間の音には等級がありますが、同じ家の中で隣り合う部屋の音がどのくらい聞こえるかは、契約前に等級で確かめられるものではありません。数字で示された保証がない以上、実際にその場で確かめるしかありません。

これから建てる場合も、今の家に手を入れる場合も同じです。可能であれば、片方の部屋でテレビをつけ、もう片方で聞いてみるという確かめ方があります。モデルハウスや完成済みの住宅を見学できるときは、この確認をお願いしてみる価値があります。

なお、音と眠りの関係については、先の睡眠ガイドにも記述があります。寝室内で測定した騒音が、睡眠効率の低下や中途覚醒時間の延長と関連していたという研究を挙げ、静かな睡眠環境の確保が重要としています8

工事をせずに、今日からできること

4つの隔て方のうち、手前の2つ(時間をずらす・向きを変える)は道具も工事も要りません。ここではその2つに加えて、場所の決め方と、相手への切り出し方をご紹介します。

ずれている時間を、そのまま使う

起きる時刻がずれてきたなら、そのずれた時間帯が、そのまま一人の時間になります。

先に起きた側が居間で新聞を読み、あとから起きた側が寝室で身支度をする。この時間は、同じ家の中にいながら、二人ともほぼ一人で過ごしています。

合わせようとすると、この時間は消えてしまいます。早く目が覚めた側が音を立てないように寝床でじっとしている家は、一人の時間を一つ失っています。ずれを直すものと考えず、使えるものと考えると見え方が変わります。

机と椅子の向きを変える

同じ部屋にいても、視線が交わらなければ気配の重さはかなり違います。

向かい合わせに置かれたソファを、直角に置き直す。窓に向けて椅子を置く。テレビを見る側と本を読む側が、同じ方向を向かずに済むようにする。こうした変更は、その日のうちにできます。

部屋を分ける前に試す価値があるのは、費用がかからないうえに、うまくいかなければ元に戻せるからです。

「なんとなくそこにいる」を「ここが自分の場所」に変える

使っていない部屋があるなら、椅子と灯りを置くだけで日中の居場所になります。机や本棚は後からでかまいません。

大事なのは、その場所が誰の場所なのかがはっきりしていることです。「なんとなくそこにいる」状態のままだと、相手も入っていいのかどうか分かりません。「ここは自分の場所」と決まっていれば、相手は入る前に一声かけるようになります。

部屋が余っていない場合でも、居間の一角や廊下の突き当たりに椅子を一つ置くだけで、同じことが起きます。

切り出し方に困っているとき

ここまで読んで、やってみたいと思っても、相手にどう言えばよいか分からないという方は多いと思います。

「離れたい」と言えば、相手はそれを関係の話として受け取ります。けれども、ここまで見てきたとおり、実際に起きているのは時間と眠りの変化です。

ですから、変わったことのほうを主語にする言い方があります。「最近、朝は五時に目が覚めてしまうから、その時間は別々にしたい」「テレビの音が気になるようになったから、夜は部屋を分けたい」という形です。

これは相手を説得するための言い回しではありません。実際に起きていることをそのまま言うと、相手も同じ変化に心当たりがあることが少なくないからです。

間取りで解くなら、二つの居場所をどこに置くか

手前の手立てで足りなかった場合、はじめて間取りの話になります。ここで問題になるのは、部屋の数ではなく二つの居場所のあいだに何があるかです。

間に何を挟むかで、距離の性質が変わります

二つの居場所を隣り合わせに置くと、壁一枚で音も気配も行き来します。部屋を分けたのに落ち着かない、という状態はここから起きます。

間に何かを挟むと、そこに距離が生まれます。そして挟むものによって、生まれる距離の性質が変わります

間に挟むもの音の伝わり方顔を合わせる頻度向いている場合
何も挟まない(隣り合わせ)壁一枚で伝わる多い互いの気配を感じていたい
収納・廊下少し弱まる変わらない面積に余裕がない
水回りかなり弱まる変わらない音が気になっている
居間弱まる一日に何度も必ず通る離れすぎることが心配

居間を挟む配置には、独特の働きがあります。それぞれの居場所から出るたびに、必ず二人の共有する場所を通ることになるからです。食事のときも、お茶を入れるときも、外に出るときも通ります。

離れることが目的ではなく、離れたり戻ったりできることが目的なのだとすれば、この配置は理にかなっています。

出入口の向きも、印象を変えます

同じ距離であっても、二つの扉が向かい合っているのと、背を向けているのとでは、行き来のしやすさが違います。

向かい合っていれば、扉を開けたときに相手の部屋が目に入ります。声もかけやすくなります。背を向けていれば、出入りに気づかれにくくなります。

どちらがよいかは、二人が何を求めているかによります。気配を消したいのか、行き来を軽くしたいのかで選び方が変わります。

面積は、どこかから出てきます

ここまでは配置の話でした。けれども、二つ目の居場所をつくれば、その分の面積はどこかから出ていきます。多くの場合、削られるのは居間です。

ですから、間取りを描く前に決めておくことがあります。その面積を、何と引き換えに用意するのかです。20坪台で夫婦二人が暮らす場合の面積の割り振り方については、20坪台の面積配分と、2つ目の部屋に何平米を割くかを扱った記事で詳しく整理しています。

別々にすることで、失うものもあります

ここまで、距離をつくる方法を見てきました。けれども、離れることに代償がないわけではありません。

別室の夫婦のほうが、幸福感が低いという研究があります

台湾で行われた調査があります。台湾北部に住む高齢のご夫婦860組、1,720人を対象に、寝る部屋の分け方と心理的な幸福感の関係を分析したものです9

その結果、別々の部屋で寝ている夫婦は、一緒に寝ている夫婦に比べて心理的な幸福感が低いという関連が示されました。過去の関係の質を統計的に調整したうえでも、この関連は残ったと報告されています。

これは査読を経た学術論文ですが、そのまま日本に当てはめられるものではありません。次の三点に注意が要ります。

  • 台湾で行われた調査です。住まいの形も、夫婦の過ごし方の慣習も日本とは異なります。
  • ある一時点を切り取った分析です。別室にしたから幸福感が下がったのか、幸福感が下がっている夫婦が別室を選んでいるのかは、この研究からは決められません。
  • 寝る部屋についての研究です。この記事が扱ってきた日中の居場所について調べたものではありません。

ほかにも、起きることがあります

研究とは別に、実際に起きうることがいくつかあります。いずれも定量的な調査があるわけではなく、当媒体が考えられる範囲として挙げるものです。

  • 会話は減る方向に働きます。同じ部屋にいれば自然に交わされていた短いやりとりが、意識して交わすものに変わります。
  • 相手の様子に気づきにくくなります。顔色や動きの変化は、一緒にいる時間が長いほど目に入ります。
  • 手入れと冷暖房の手間が増えます。部屋が一つ増えれば、掃除も換気も空調も、その分だけ増えます。

ですからこの記事は、分けたほうがよいという結論を取りません。どのくらい離れると心地よいかは夫婦ごとに違い、離れすぎたと感じたときに戻せるようにしておくほうが現実的だと考えています。

戻せるようにするというのは、たとえば壁で固めずに引き戸で仕切っておく、家具で仕切って様子を見る、といったことです。試したうえで元に戻す余地を残しておけば、判断を一度で決め切らずに済みます。

体調が変わったとき、そして一人になったとき

先の話を続けます。離れているほど、相手の変化に気づくのは遅くなります。これは避けようがありません。

一方で、別の面もあります。同じ寝室で休んでいるご夫婦の場合、どちらかが体調を崩して夜中に何度も目を覚ますようになると、もう一方も眠れなくなります。この状態が何週間も続けば、二人とも消耗します。

そのときに、もう一方が移れる場所があるかどうかで、その期間の過ごし方が変わります。付き添い方の話ではなく、そばにいる側が自分の眠りをどう確保するかという話です。

これらは統計で確かめられたことではありません。二つの居場所が体調の変化にどう関わるかを数字で示した公的な資料は、当媒体が探した範囲では見つかりませんでした。

もう一つ、将来のことがあります。やがてどちらか一人になったとき、二つ目の居場所は残ります。

そのとき、使われない部屋になるのか、別の使い道に移せるのかは、つくるときの決め方で変わります。壁で固めた部屋は用途を変えにくく、引き戸で仕切った部屋は開け放って一つに戻せます。今の二人のためだけでなく、その先の一人のためにも選べる形を残しておくという考え方があります。

なお、夫婦二人暮らしそのものの整え方については、別の記事で改めて扱う予定です。

二人で決めるための手順

最後に、二人で話を進めるための手順をまとめます。間取りから入らず、一日の過ごし方から入る順序にしています。

一日を、別々に書き出す

朝起きてから寝るまで、自分がどこで何をしているかを書き出します。台所、居間、寝室、庭というように、場所と時間帯だけで足ります。

大事なのは、二人が別々に書くことです。一緒に書くと、相手の顔色を見ながら書くことになります。

重なっている時間に印をつける

2枚を並べて、同じ場所に二人がいる時間帯に印をつけます。この記事で見てきた16時間のうち、二人が重なっている部分がここに出てきます。

印の付いた時間が一日のうちどのくらいあるのか、そのうち落ち着かないと感じるのはどの時間帯なのかを見ます。

「部屋がほしい」ではなく、時間帯で言う

ここが話の分かれ目になります。「自分の部屋がほしい」と言うと、相手はそれを関係の話として受け取ります。

けれども「朝の二時間」「夕方の一時間」と時間帯で言えば、話は住まいの相談になります。どこをどうすればその時間が取れるか、という具体的な検討に移れます。

手前から順に試す

時間をずらす、向きを変える、音を隔てる、出入口を分ける。この順に試して、どこで足りたかを確かめます。自分の場所を決めることは、どの段階でもできます。

3か月ほど試してみると、必要なものが見えてきます。手前で足りたなら、工事は要りません。

今日からのチェックリスト

  • 二人が別々に、一日の過ごし方を紙に書き出す
  • 同じ場所に二人でいる時間帯に印をつける
  • 落ち着かないと感じる時間帯を、一つだけ選ぶ
  • その時間帯について、時間をずらす・向きを変えるのどちらかを試す
  • 使っていない部屋があれば、椅子と灯りを置いて誰の場所かを決める
  • 3か月後に、まだ足りないかどうかを二人で確かめる

屋根を分けるという選び方 – 移設・買取ができる平屋ユニット

ここまでは、一つの建物の中で距離をつくる話でした。最後に、別の考え方をご紹介します。

シニアリビング「終活の住処」は、移設・買取ができる平屋ユニット住宅です。分類のうえでは、ユニック車で吊り下げて据えるユニットハウス(建築物)にあたり、トレーラーハウスとは扱いが異なります。工場で仕上げた状態で、クレーン付きトラックにより運搬して設置します。

距離のつくり方が、間取りから配置に変わります

1ユニットは6.0m×2.4mです。単棟から連棟まで、暮らしに合わせて組み合わせます。

この造り方には、この記事の話と直接つながる特徴があります。従来の建て方では、二人の距離は一つの建物の中の間取りで決まります。壁の位置を動かすには設計をやり直すことになり、建てたあとでは変えられません。

ユニットを組み合わせる造り方では、距離のつくり方が「壁をどこに置くか」から「単位をどう並べるか」に変わります。二つの居場所の間に何を挟むかを、並べ方として決められます。

さらに、同じ屋根の下で離すだけでなく、母屋とは別の棟として敷地の中に置くという選び方もできます。母屋を残したまま、庭に一棟を据えるという形です。一つ屋根の下ではない距離まで、続けて選べることになります。

従来の建て方と並べて見る

比べる観点従来の建て方(建て替え・増築)移設・買取ができる平屋ユニット
初めの負担設計から施工まで一式ユニットの数に応じて構成する
工事の期間とその間の暮らし仮住まいと二度の引っ越しが要ることが多い敷地に据える余地があれば、母屋に住みながら設置できる
二人の距離のつくり方間取りで決まる。あとから変えにくい単位の並べ方で決まる。別棟として離すこともできる
同じ家の中の音公的な等級がない公的な等級がない(棟を分ければ屋外を挟むことになる)
将来その家をどうするか解体して処分する移設できる。買取にも対応(条件は個別に確認)
据えるための条件敷地の形に合わせて自由に設計でき、大きさの制約も少ない搬入経路とクレーンの作業空間が要る

音については、どちらも同じです。この記事で見たとおり、同じ家の中の部屋と部屋の間に公的な等級がないのは、造り方にかかわらず変わりません。棟を分けた場合は間に屋外が入るため事情が変わりますが、その場合は行き来に外を通ることになります。

設備の面では、高い断熱性と気密性を備え、段差の少ない設計になっています。夫婦それぞれが自分の部屋を持つ構成にも対応します。自宅の敷地のほか、お子さんの家の近くに置くこともできます。

向かないのはこういう場合です

  • 敷地に据える余地や搬入経路がない場合。クレーンの作業空間も必要になります。
  • 用途地域や条例で制限がある場合。地域によって扱いが異なるため、自治体の窓口で確認が要ります。
  • 広い来客対応を求める場合。大人数が集まる部屋を必要とする使い方には向きません。
  • 土地から取得する場合。すでに敷地をお持ちの方に向いた選び方です。

設置の可否や構成の組み方は、敷地の条件によって変わります。ご自宅の敷地で成り立つかどうかは、終活の住処のページで仕様をご確認のうえ、個別にご相談ください。

よくある質問

Q
夫婦で寝室を分けると、仲が悪くなりませんか?
A

一概には言えません。台湾で860組の高齢のご夫婦を調べた研究では、別々の部屋で寝ている夫婦のほうが心理的な幸福感が低いという関連が示されています。ただしこれは一時点を切り取った分析で、別室にしたから幸福感が下がったのか、もともと下がっていた夫婦が別室を選んでいるのかまでは分かりません。

一方で、眠る時刻がずれていくことや夜中に目が覚める回数が増えることは、加齢とともに起きることとして国の資料に書かれています。仲の良し悪しの問題として受け取る前に、時間と眠りの変化として見てみることをおすすめします。

Q
部屋を二つにすると、光熱費はどのくらい増えますか?
A

金額は住まいの断熱の状態や地域によって大きく変わるため、この記事では触れていません。増える要因としてはっきりしているのは、冷暖房と照明が二部屋分になること、そして掃除や換気の手間が増えることです。同じ時間帯に二人が別々の部屋で過ごすほど、この差は大きくなります。実際の負担額は、お住まいの地域や住宅の性能をもとに、施工会社や専門家にご確認ください。

Q
家に空き部屋がありません。それでもできることはありますか?
A

あります。一人でいられる状態をつくる方法は、部屋を用意することだけではないからです。起きる時刻がずれているなら、そのずれた時間帯がそのまま一人の時間になります。机や椅子の向きを変えて視線が交わらないようにするだけでも、同じ部屋にいるときの気配の重さは変わります。居間の一角や廊下の突き当たりに椅子を一つ置き、そこが誰の場所かを決めておくという方法もあります。

Q
相手が「一緒でいい」と言っています。どう話せばよいでしょうか?
A

「離れたい」ではなく、変わったことのほうを主語にする言い方があります。「朝は五時に目が覚めてしまうから、その時間は別々にしたい」「テレビの音が気になるようになったから、夜は部屋を分けたい」という形です。

相手を説得するための言い回しではなく、実際に起きていることをそのまま言うと、相手にも同じ変化に心当たりがあることが少なくありません。あわせて、二人が別々に一日の過ごし方を書き出して並べてみると、話が住まいの相談に移りやすくなります。

Q
いずれ一人になったとき、二つ目の部屋はどうなりますか?
A

使われない部屋になるのか、別の使い道に移せるのかは、つくるときの決め方で変わります。壁で固めた部屋は用途を変えにくく、引き戸で仕切った部屋は開け放って一つに戻せます。二つの居場所を離しすぎたと感じたときに戻せるという点でも、固定しない仕切り方には利点があります。今の二人のためだけでなく、その先の一人のためにも選べる形を残しておくという考え方です。

まとめ:夫婦の距離は、住まいの側から動かせます

退職のあとに家の空気が変わったと感じるのは、二人の仲が変わったからではありません。50代後半から70代前半にかけて、家族と一緒にいる時間は一日あたり1時間半ほど増え、職場の人と過ごす時間はほぼ消えます。同じ相手と、これまでの人生で経験したことのない長さを、同じ屋根の下で過ごすようになっただけです。

そして眠る時刻がずれていくことも、夜中に目が覚める回数が増えることも、加齢とともに起きることとして国の資料に書かれています。朝型になる度合いが男性のほうが強いことまで書かれています。夫婦のどちらかの生活が乱れている、という話ではありません。

この記事で見てきたことを、もう一度整理します。

Point
  • 「個室」を日中の居場所として捉え直すと、打てる手が増えます。寝室を二つにするには部屋がもう一つ要りますが、昼間に一人でいられる場所をつくるだけなら、工事をせずにできることがあります。
  • 距離のつくり方は四つあり、費用の小さい順に並んでいます。時間をずらす、向きを変える、音を隔てる、出入口を分ける。手前から試すと、どこで足りるのかが分かります。
  • 同じ家の中の部屋と部屋の間の音には、公的な物差しがありません。等級が定められているのは隣の住戸との間の壁で、家の中の音は自分で確かめるしかありません。
  • 他の夫婦がどうしているかは、そもそも数えられていません。国は夫婦の寝室を統計に取っていないため、多数派に合わせるという決め方は成り立ちません。
  • 離れることには代償もあります。会話は減り、相手の変化には気づきにくくなります。だからこそ、離れすぎたと感じたときに戻せる形にしておく意味があります。

間取りを描く前に、まず一日を紙に書き出してみることをおすすめします。二人が別々に書いて並べると、どの時間帯が重なっているのかが目に見えます。そのうえで「部屋がほしい」ではなく「朝の二時間」と言えるようになれば、話は関係の相談から住まいの相談に変わります。

そのうえで、住まいの側から距離をつくり直すという選び方もあります。シニアリビング「終活の住処」は、移設・買取ができる平屋ユニット住宅です。1ユニット6.0m×2.4mを組み合わせて構成するため、二人の距離を壁の位置ではなく単位の並べ方で決められます。同じ屋根の下で離すことも、母屋を残したまま庭に別の一棟を据えることもできます。

60代からの20年は、我慢して過ごすには長い時間です。お互いが自分の居場所を持てる家は、離れるための家ではなく、無理なく一緒にいられる家です。どんな形が成り立つのか、仕様のページでご確認いただけます。

脚注

  1. 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要」(2022). https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/gaiyoua.pdf ↩︎
  2. 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要」(2022). https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/gaiyoua.pdf ↩︎
  3. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf ↩︎
  4. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf ↩︎
  5. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf ↩︎
  6. 国土交通省「住宅性能表示制度 8.音環境に関すること」(2002). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/point/2_8.pdf ↩︎
  7. 日本建築学会 住まいづくり支援建築会議「Ⅱ.建物性能を見極める 7.さまざまな環境-音」(2009). https://news-sv.aij.or.jp/shien/s2/mansion/sec2-7.html ↩︎
  8. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf ↩︎
  9. Lin WH, Chiao C「Multilevel analysis of sleep arrangements and psychological well-being among older couples in Taiwan」BMC Public Health 25:3540(2025). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12538779/ ↩︎