介護費用で兄弟と揉めたくない人へ|負担割合と役割分担のコツ

介護費用を兄弟で分担する際の対立と和解を象徴したサムネイル画像 同居・近居・呼び寄せ

「親の介護費用も世話の手間も、気づけば自分ひとりで背負い込んでいる」「でも、お金の話をきょうだいに切り出したら、角が立って関係が壊れてしまいそう」。そんな悩みを抱えていませんか。

兄弟姉妹がいるからこそ、「誰がいくら払うのか」「誰がどこまで面倒を見るのか」で揉めやすいのが親の介護です。一度ボタンの掛け違いが起きると、介護の苦労以上に、家族関係へ深い傷が残ってしまうこともあります。

だからこそ、感情的にぶつかり合う前に、揉めないためのルールを家族で持っておきたいところです。実は法律上、介護費用をきょうだいで均等に負担する決まりはなく、まず親自身のお金で賄うのが大原則です。この前提と、費用や役割を分けるコツを押さえれば、関係を保ったまま納得のいく協力体制を築けます。

この記事でわかること
  • 介護費用は誰が払う?「親のお金が基本」とされる理由と、扶養義務の正しい捉え方
  • 揉めない費用負担の決め方(4つのパターン)と、お金以外の役割分担のコツ
  • 関係を壊さずにお金の話を切り出す「角の立たない伝え方」
  • 協力してくれないきょうだいへの段階的な対処と、扶養請求調停・寄与分の実態
  • 負担の総量そのものを減らす、外部サービスと住まいの工夫

結論|兄弟で介護費用と役割を「揉めずに分ける」3つの原則

介護費用を兄弟で揉めずに分けるための3つの原則をまとめた図解

揉めごとを防ぐために、家族で最初に共有しておきたい原則は次の3つです。

  • 原則1:介護費用は「親のお金」で賄うのが大前提。
    子どもが身銭を切って肩代わりするのを当たり前と考えないことが、揉めごとを防ぐ出発点です。
  • 原則2:費用は「均等割」より「資力に応じた按分+手間の調整」で決める。
    収入も生活環境も違うきょうだいに一律の折半を求めると、不満や反発が生じやすくなります。
  • 原則3:お金・役割・記録の「見える化」を、揉める前から始める。
    不公平感の多くは、「ほかのきょうだいが何をしているのか見えないこと」から生まれます。

民法が定める扶養義務は、自分の生活を維持したうえで、余力の範囲で助け合う「生活扶助義務」にとどまります1。

誰がいくら出すかを法律が割り振ってくれるわけではないので、感情論で負担を押し付け合わず、「親の資産を最優先の財源にし、各自の事情に応じて費用を分担し、記録を共有して透明性を保つ」という現実的なルールを家族でつくることが、きょうだい関係を守る近道になります。

大前提|親の介護費用は誰が払う?「親のお金が原則」と扶養義務の正しい意味

生活保持義務と生活扶助義務の違いを天秤で比較した図解

「親の介護費用は、子どもたちが出し合って賄うのが当たり前」と思い込んでいる方は少なくありません。しかし、この思い込みこそが、きょうだい間のトラブルの出発点になりがちです。

まずは、費用負担の法的な土台を整理しておきましょう。

介護費用は「親本人の年金・資産」で賄うのが大原則

介護にかかる費用は、原則として親自身の年金や預貯金、資産から支払います。子どもが自分の家計を削ってまで親の介護費用を工面しなければならない、という法的な義務はありません。

在宅介護の費用の目安や負担を抑える制度は、在宅介護の費用|月5〜10万円の内訳と負担を減らす制度で詳しく整理しています。ここで押さえておきたいのは、「まず親のお金から使う」という順番です。

この原則を家族全員で共有しておくだけで、多くの揉めごとは未然に防げます。子どもの持ち出しを前提に話を始めると「誰がいくら出すのか」という押し付け合いになりがちですが、「親の資産の範囲でどうやりくりするか」を出発点にすれば、感情的な対立を避けやすくなるからです。

子の扶養義務は「自分の生活を壊さない範囲」にとどまる

民法では、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負うと定められています2。親と子は直系血族にあたるので、子は親に対してこの扶養義務を負います。ただし、扶養義務には重さの違う2つの種類があり、区別しておく必要があります。

扶養義務の種類対象となる関係義務の重さ
生活保持義務未成熟の子に対する親、夫婦間重い。自分の生活水準を落としてでも、相手に自分と同程度の生活を保障する
生活扶助義務成人した子から親、兄弟姉妹間軽い。自分の生活を成り立たせたうえで、経済的な「余力」の範囲で援助する

親の介護で子が負うのは、後者の「生活扶助義務」です。

つまり、自分の仕事や家庭、生活水準を犠牲にしてまで費用を捻出する義務まではない、と考えられています。住宅ローンの返済や子どもの教育費を抱える世代が、無理をして親の介護費用を全額肩代わりする必要はありません。

「長男だから」「同居しているから」と特定の人がすべてを負担すべきだという考え方もありますが、これは昔ながらの慣習にすぎず、法的な根拠はありません。家族全員がこの点を理解していれば、主介護者に負担が集中して不満が爆発するのを防げます。

立て替えた費用は、あとから請求できる?

親の資産が足りず、子どものひとりが費用を立て替えた場合、その分を他のきょうだいに負担してもらうよう求める(求償する)ことは、理論上は可能です。話し合いでまとまらなければ、きょうだいを相手方として家庭裁判所に扶養請求調停を申し立てることもできます3。

ただし、請求するときに欠かせないのが客観的な証拠です。いつ、何のために、いくら支払ったのかを示す領収書や記録がなければ、立替分として認められにくいのが現実です。さらに記録がないと、「親のお金を使い込んだのではないか」と逆に疑われるおそれもあります。立て替えるときこそ記録を細かく残しておけば、自分の身を守ることにつながります。

介護費用の負担割合の決め方|4つのパターンと選び方

介護費用の負担割合を決める4つのパターンを比較したカード型図解

親のお金で賄うのが原則とはいえ、預貯金が底をついたり、施設の費用が年金を上回ったりして、子どもの援助が必要になる場面はあります。その際の負担割合の決め方として、代表的な4つのパターンを比べてみましょう。

パターン内容長所短所・注意点
①親の資産を原資(推奨)親の年金や預貯金の範囲で受けられるサービスを組み合わせる子どもの持ち出しがなく、最も揉めにくい親の資産が尽きた時点で、別の方法が必要になる
②収入・資力按分それぞれの年収や家庭の事情に応じて割合を決める(例:兄7・弟3)生活扶助義務の考え方に沿っており、公平感を得やすい互いの収入を開示する必要があり、合意に手間がかかる
③手間との相殺調整実際に介護を担う人の金銭負担を軽くし、介護できない人が費用を多く負担する介護の「見えない労力」を評価できる手間をどの程度の金額に見立てるか、話し合いが必要
④均等割費用をきょうだいの人数で等分する計算が明快で分かりやすい要注意。各世帯の経済事情や負担の実態を無視するため、不満を招きやすい

まず①で賄えるかを確かめ、足りない分だけを②〜④の考え方で分けるのが、基本の順番です。

「均等割」は分かりやすいが、揉めやすい

一見すると最も公平に思える均等割ですが、実はトラブルの温床になりやすい分け方です。

きょうだいごとに、世帯の収入や子どもの教育費、住宅ローンの有無といった経済事情は大きく異なります。そうした事情を無視して一律に割り勘を求めると、家計に余裕のないきょうだいほど追い詰められ、関係が悪化しやすくなります。

また、「お金を半分出しているのだから」と遠方のきょうだいが口だけを出し、毎日手を動かしている同居のきょうだいの不満が爆発するケースも少なくありません。

「手間」を金額に換算して衡平を図る

同居や近居で直接介護を担う人は、時間や体力、ときには自分のキャリアといった「見えないコスト」を日々費やしています。そこで使いたいのが、③の手間との相殺調整です。

たとえば「日々の介護を訪問介護や家事代行に頼んだら、月にいくらかかるか」を目安に労力を金額に換算し、直接介護を担えない遠方のきょうだいが、その分だけ金銭の負担を多めに引き受けます。

家庭裁判所の扶養請求調停でも、各扶養義務者の経済状況や生活状況を考慮して話し合いが進められます4。均等に割ることだけが、公平な分け方ではありません。どのパターンが向くかは、親の資産状況やきょうだいそれぞれの家庭環境によって異なります。

なお、親を呼び寄せて同居・近居する場合に、分担の前提となる費用の内訳は、親の呼び寄せ費用は4つに分かれる|同居・近居の違いと転入後14日の手続きで整理しています。

お金以外の役割分担の決め方|遠方の兄弟でもできること

介護の役割を直接介護・金銭管理・事務・連絡の4つに分けた役割マップ図解

きょうだい間の介護トラブルは、お金だけで起こるわけではありません。むしろ「誰がどれだけ手間をかけているか」という労力の偏りのほうが、感情的なわだかまりを生みやすい傾向があります。

介護を身体のケアに限らずに捉え、役割を細かく分けて分担することが、不満を溜めないためのポイントです。

介護の役割を4つに分けて割り振る

介護に関わる作業を書き出してみると、身体の介助のほかにも多くの仕事があることが分かります。これらを特定の一人に背負わせず、きょうだいで振り分けましょう。

役割の種類具体的なタスク向いている担当
直接介護・通院付添食事や排泄の介助、医師の説明への同席、急変時の駆けつけ同居・近居のきょうだい(主介護者)
金銭管理親の口座管理、介護費用の立替・精算、税金や公的保険料の納付事務処理が得意な人、または主介護者
事務手続き・情報収集役所への届出、介護保険や給付金の申請、施設探し、日用品・介護消耗品の手配遠方に住む人、ネットでの作業が得意な人
精神的支援・連絡調整親への定期的な電話や訪問、ケアマネジャーからの報告の集約と共有遠方のきょうだい、親と関係が良好な人

遠方・多忙でも「貢献できる役割」は必ずある

遠くに住んでいても、仕事が忙しくても、離れたままできる支援はたくさんあります。

たとえば、ネットスーパーや通販を使ったおむつなど日用品の定期注文、自治体独自の支援制度の下調べと申請書類の作成、ケアマネジャーとのやり取りを家族のLINEグループで集約して共有する役目は、住んでいる場所に関係なく担えます。

直接身体を動かすことだけが介護ではない、と家族で認識をそろえておきましょう。それぞれが得意な形で後方支援を引き受ければ、現場で世話をする主介護者の孤立感が和らぎ、遠方にいる側の「何もできていない」という後ろめたさも軽くなります。

主介護者(キーパーソン)を1人決めて窓口を一本化する

役割は分けても、病院やケアマネジャーとの窓口まで複数に分けると、情報が行き違い、指示がばらばらになって現場が混乱します。

そこで、連絡窓口になる主介護者(キーパーソン)は1人に絞り、決めることや実際の作業の負担はきょうだい全員で分け合います。この形なら、現場の混乱を防ぎながら、主介護者の抱え込みも避けられます。

なぜ兄弟は介護で揉めるのか|3大原因と「不公平感」の正体

兄弟が介護で揉める3つの原因と情報格差による不公平感を示した図解

きょうだいの対立は、もともとの仲の良し悪しより、介護の始まり方と事前の準備の有無から生まれることが多いと考えられます。原因の構造を知っておけば、先回りして防ぎやすくなります。

揉めごとが起きる3つの原因

  • 原因1:介護が突然始まる。
    親の転倒・骨折や入院をきっかけに、心の準備も家族の話し合いもないまま介護が始まり、近くにいた人が流れで全部を背負ってしまう。
  • 原因2:事前の話し合いや役割分担を先送りしていた。
    「いざとなったら考えればいい」と後回しにした結果、誰が何を担うのか曖昧なまま、特定の人の負担だけが膨らんでいく。
  • 原因3:時間的・金銭的な余裕がない。
    仕事や子育てで手一杯で物理的に関われず、その状態で負担を求められると反発が生まれる。

原因1と2は事前の話し合いで、原因3は外部サービスなどで負担そのものを減らすことで、和らげられます。

不公平感の正体は「情報格差」

きょうだいの間で生まれる不満の根っこには、多くの場合「自分ばかりが重荷を背負わされている」という不公平感があります。そして、この不公平感の正体は、介護の現場と、離れて暮らす家族との間に生じる「情報格差」です。

遠方に暮らすきょうだいは、主介護者が毎日どれほど神経をすり減らしているか、こまごました支出をいくら立て替えているかを、悪気なく「本当に知らない」ことがほとんどです。食事や排泄の世話、夜間の見守り、通院の付き添い、ケアマネジャーとの調整といった「見えない負担」は、そばにいない人にはなかなか想像がつきません。

その結果、遠方のきょうだいが「たまに顔を出してお金も少し出しているのだから、十分協力している」と考える一方で、主介護者は「これだけ苦労しているのに誰も分かってくれない」と孤独を深め、関係がこじれていきます。

実際に、東京で実母と同居して介護を一手に引き受けた人が、月1回の電話と年数万円の援助しかしない遠方のきょうだいと深く対立し、関係が断絶してしまったケースもあります。費用分担を決めないまま同居を始めて、きょうだい仲が壊れてしまう例は珍しくありません。

同居介護で起きやすい後悔は、同居介護の後悔10選で具体的に紹介しています。

揉めないための話し合いの進め方|5ステップと「角の立たない切り出し方」

介護の話し合いを進める5ステップと角の立たない切り出し方を示したフロー図

不公平感の原因が、現場にいる人といない人との情報格差にあるなら、介護の状況を家族に開き、冷静に話し合える段取りを整えることが対策になります。

話し合いは5つのステップで進める

思いつきで話を切り出すと、お互いに感情的になりがちです。次の順で段階を踏むと、話の筋道が整理され、合意に近づきやすくなります。

  • ステップ1
    親本人の意向を確かめる。

    親が元気なうちに、「将来どこでどのように暮らしたいか」「お金の管理をどうしたいか」をそれとなく聞いておきます。知人の介護の話などを話題にすると、切り出しやすくなります。

  • ステップ2
    親の資産状況を把握する。

    年金の受給額、預貯金の残高、加入している民間の生命保険や介護保険の内容を洗い出し、介護に充てられる原資を明確にします。

  • ステップ3
    主介護者(キーパーソン)を1人決める。

    医療機関や介護事業者とのやり取りを円滑にするため、対外的な窓口役を決めます。

  • ステップ4
    費用負担と役割のルールを決める。

    前述の、費用負担の4つのパターンや役割分担の表を参考に、誰が何を担うかを具体的に決めます。決めた割合や立替の精算方法、担当は、メモや共有ノートに書いて全員が同じものを持っておきます。法的な拘束力のある契約書にする必要はありません。

  • ステップ5
    記録の共有(見える化)を始める。

    介護の内容や立替費用のレシートを、きょうだい全員がいつでも確認できる仕組みを整えます。

ステップ2で原資を確かめる前に割合を決めると、親のお金で足りる分まで子が負担しかねません。資産の把握を分担の取り決めより先に置くのは、そのためです。

「記録の見える化」が疑心暗鬼を防ぐ

情報格差は、介護と家計の実態を家族全員が見られる状態にしておくことで埋められます。不満をぶつけ合う前に、日々の状況を共有する仕組みを入れましょう。

具体的には、スマートフォンの共有カレンダーや介護記録アプリ、家族のLINEグループなどを使い、ケアの内容や通院の予定、立て替えた領収書の写真をこまめに載せます。事実を淡々と共有するだけで、遠方のきょうだいも「こんなに通院が多いのか」と状況を客観的に理解でき、手助けや費用の申し出につながりやすくなります。

さらに、お金の流れを常に見える状態にしておけば、「親の預貯金を勝手に使っているのではないか」という無用な疑いも防げます。見える化は、主介護者自身を守る盾にもなるのです。

お金の話は「角の立たない切り出し方」で

家族の間でも、お金の話を切り出すのは気が重いものです。話し合いを始めるときは、「あなたも費用を負担して」と直接求める言い方を避けるのが鉄則です。いきなり請求されると、相手は責められたと感じて身構えてしまいます。

専門職の助言や将来に向けた備えをきっかけにすると、角を立てずに本題に入れます。たとえば、次のような切り出し方です。

  • 「ケアマネジャーさんから、これからの介護の方針を家族で話し合っておくように言われてね」
  • 「将来、施設に入ることになったときの費用を、今のうちにみんなで試算しておかない?」
  • 「お母さんの預貯金が今後何年くらい持ちそうか、一度みんなで確認しておきたいんだけど」

「自分 対 きょうだい」の構図にせず、「家族みんなでこれからの課題に向き合う」という形をつくることが、関係を保ちながら話し合いを始めるコツです。

それでも協力が得られないとき|見える化→第三者→扶養請求調停の段階的対処

協力しない兄弟への対処を見える化・第三者・調停の3段階で示した階段図

どれほど配慮して話し合っても、介護に関わることを頑なに拒んだり、費用の負担を一切断ったりするきょうだいがいるのも現実です。その場合も、相手を責め立てず、段階を踏んで対処していきましょう。

いきなり法的手段に行かず、順を追う

協力が得られないからといって、いきなり法的な手続きに踏み切るのは得策ではありません。次の順で、少しずつ働きかけを強めていくのが現実的です。

  • 第1段階:記録を開示して事実を示す。
    日々の介護記録や支出の領収書を見せ、「これだけの負担が現実に生じている」ことを数字で示します。
  • 第2段階:第三者を交えて話し合う。
    当事者同士だと感情的になる場合は、地域包括支援センターの相談員やケアマネジャー、親族の年長者などに同席してもらい、冷静に話せる場をつくります。
  • 第3段階:家庭裁判所の扶養請求調停を利用する。
    対話を尽くしても解決の糸口が見えない場合の、最後の手段です。

扶養請求調停とはどんな手続きか

扶養請求調停は、親の扶養の費用や分担について話し合いがまとまらないときに、家庭裁判所に申し立てる手続きです5。

調停委員が双方から事情を聞き、それぞれの経済状況や生活状況、親の意向などを考慮したうえで、解決案を示したり助言したりします。話し合いがまとまらなければ、原則として審判の手続きに移り、裁判官が判断します。

過去に立て替えた分の負担が認められた例もあります。両親の死後、生活に困っていた姉と、その姉を長く援助してきた妹が、扶養する余力のある兄に負担を求めた事案です。裁判所は兄に、姉への毎月8万円の扶養料と、妹がそれまでに負担した額の半分(112万円)の支払いを命じました(東京高裁平成28年10月17日決定)。

親の介護の事案ではありませんが、余力のあるきょうだいに負担を求めた例として参考になります。ただし、扶養請求調停は、相手に経済的な余力がなければ支払いが命じられないなど、万能ではありません。

介護を多く負担したら相続で報われる?|寄与分・特別寄与料の現実と限界

寄与分の認定ハードルの高さと生前対策の有効性を示した図解

「ほかのきょうだいより多く親の面倒を見てきたのだから、遺産相続では多めに分けてもらえるはず」。介護を担ってきた側がそう期待するのは、ごく自然なことです。

しかし、介護の苦労を相続のときに取り戻すのは、思っているよりずっと難しいのが実情です。

寄与分は要件が厳しく、認められにくい

相続人が親の療養看護などで特別な貢献をした場合、法定相続分に上乗せして遺産を受け取れる「寄与分」という制度があります6。ただし、家庭裁判所の実務では認められるための基準が厳格で、一般に次の4つの要件をすべて満たす必要があるとされています。

  • 無償性:介護の見返りとして、報酬や生活費などの対価を受け取っていなかったこと。
  • 専従性:片手間ではなく、仕事に影響が出るほど介護に専念していたこと。
  • 継続性:長い期間(おおむね数年以上)にわたって介護を続けていたこと。
  • 因果関係:その介護によって、親の財産の維持や増加に貢献したこと。たとえば、在宅での介護によって、親が介護施設の費用を払わずに済んだ場合。

週に数回実家に通って身の回りの世話をした程度や、介護保険サービスを使いながら世話を続けた程度では、「子として通常の扶養義務の範囲内」とみなされ、寄与分として認められないことが多いと考えられます。「長年尽くしてきたのに、相続では報われなかった」という結果になりかねないのです。

特別寄与料も期待しすぎは禁物

2019年7月に施行された民法の改正で、相続人ではない親族(たとえば長男の妻)が無償で介護に尽くした場合に、相続人へ金銭を請求できる「特別寄与料」の制度が設けられました7。

ただし、特別寄与料も寄与分と同じく要件が厳しく、額は、話し合いで決まらなければ家庭裁判所が、寄与の時期・方法・程度や遺産の額などの事情を考慮して定めます。その家庭裁判所への申し立ても、相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始の時から1年以内に限られます8。

実際に認められる額も、介護の労力に見合うとは限りません。特別寄与料の制度ができる前の審判ですが、寝たきりになった夫の親を約28か月自宅で看護した妻の貢献は、夫の寄与分として扱われ、親族として通常の扶助を超える部分だけが評価されて、月3万〜9万円程度、総額120万円とされました9。大きな見返りは期待しにくいと考えておくのが無難です。

「相続で取り返す」より「生前の対策」が確実

寄与分も特別寄与料も認められにくいことを考えると、「介護を頑張った分は、親が亡くなったあとの相続で取り戻せばいい」という前提に頼るのは危ういと考えられます。死後の遺産分割で争うと、感情的にも金銭的にも大きく消耗します。

もし親自身が「長く面倒を見てくれた子に多く遺したい」と望んでいるなら、確実なのは生前の対策です。具体的には、遺言書の作成、生命保険の受取人の指定、家族信託などがあります。親が元気で判断能力があるうちに準備しておけば、死後の争いを防ぎやすくなり、介護を担った人の労苦にも報いられます。

いずれも法務や税務の専門知識が必要になるため、弁護士や司法書士、税理士などに相談しながら進めることをおすすめします。

兄弟間の費用・役割調整でやりがちな失敗と注意点

兄弟間の費用・役割調整でやりがちな3つの失敗を警告マーク付きで示した図解

良かれと思って取った行動が、かえってトラブルの火種になることもあります。とくに陥りやすいのは、次の3つです。

注意点1:自分の財布から立て替えると「私的流用」を疑われる

「親のためだから」と、主介護者が自分のお金でこまめに支払いをしたり、親の口座からまとまった現金を引き出して手元で管理したりするのは危険です。出入りの記録が曖昧なままだと、ほかのきょうだいから「親の預貯金を使い込んだのではないか」と疑われ、取り返しのつかない不信感を生みます。

実際に、親の介護施設の費用を立て替えながら親の口座から現金を引き出していた子が、領収書を残しておらず、調停で「支出の裏付けが取れない」と判断されて一部の返還を求められた例が、弁護士のコラムで紹介されています10。

こうした疑いを防ぐための基本は、介護に関わる支払いは親の口座から行い、1円単位でレシートを残すことです。正確な記録があれば、ほかのきょうだいへの説明責任を果たせるうえ、主介護者自身も理不尽な疑いから身を守れます。

注意点2:「均等割」や「長男だから」の押し付けは反発を生む

各家庭の生活水準や事情を無視した一律の割り勘や、「長男なのだから面倒を見るのが当然」「同居している人が全額負担すべき」といった昔ながらの決めつけは、強い反発を招きます。法的な根拠がないうえ、負担を押し付けられた側の納得感を奪うからです。

それぞれの経済力や介護に割ける時間を見極め、全員が納得できる分け方を探しましょう。

注意点3:扶養請求調停は「最後の切り札」と心得る

費用を出さないきょうだいへの対抗手段として扶養請求調停がありますが、安易に申し立てると、次のような限界や負担に直面します。

  • 実効性の限界:
    子が親に対して負うのは「生活扶助義務」なので、相手の世帯に経済的な余力がないと判断されれば、支払いは命じられません。
  • 時間と費用の負担:
    申し立ての費用自体は大きくありませんが、弁護士に依頼すれば相応の報酬がかかり、平日に裁判所へ出向く手間やストレスも小さくありません。
  • 関係断絶のおそれ:
    裁判所を介した争いになると、きょうだい関係が修復できなくなるおそれがあります。

こうした代償を考えると、裁判所の手続きは最後の手段です。まずは情報の共有や第三者の同席によって、話し合いで解決を目指すのが現実的です。

負担を「分ける」前に「減らす」|外部サービスと住まいの選択肢

外部サービスと住まいの工夫で介護の負担総量を減らす視点を示した比較図解

ここで一度、見方を変えてみましょう。

きょうだいの間で「誰が重い負担を背負うか」を押し付け合う前に、家族全体が抱える介護負担の総量そのものを小さくするという考え方です。全体の負担が軽くなれば、分担をめぐる争いも自然と和らぎます。

外部サービスを使い倒して負担総量を減らす

家族だけで介護を完結させようとすると、心身ともに限界を迎え、その苛立ちからきょうだいの衝突に発展しやすくなります。公的・民間のサービスを、使える限り使いましょう。

  • 介護保険サービス:
    デイサービスやショートステイ、訪問介護などを、支給限度額の範囲で積極的に組み込む。
  • 自治体独自の支援:
    配食と見守りのサービス、紙おむつの支給や購入費の助成、福祉タクシー利用券など、市区町村が独自に設けているものを活用する。
  • 自費の家事代行・見守りサービス:
    保険が使えなくても、掃除や調理の代行、民間の見守りサービスを取り入れて、介護する人が息を抜ける時間をつくる。

公的な支援の多くは「申請主義」で、自分で窓口に申請しなければ使えません。知らずに損をしないよう、地域包括支援センターやケアマネジャーに「いま使える支援や助成はないか」を相談してみてください。

なお、所得に応じて自己負担の月額に上限を設ける「高額介護サービス費」の上限額11は制度の改定で見直されることがあり、自治体の助成内容も地域ごとに異なります。お住まいの自治体の最新情報で確認してください。

住まいの工夫で負担を構造的に下げる

介護にかかる費用は月々の平均が9.0万円(在宅と施設を合わせた平均)、介護を行った期間の平均は4年7か月(55.0か月)という調査結果があります12。介護が長期戦になりやすいからこそ、住まいの形を見直して、負担を構造的に下げる視点も役立ちます。

主な選択肢を比べると、次のとおりです。

住まいの形費用プライバシー介護負担将来の扱い
完全同居改修費中心で比較的安い低い24時間化しやすく逃げ場が少ない住み続け/売却
近居二重の住居費がかかる高い距離を保てるが移動の手間各自の住居
施設月額の負担が大きい中専門職に任せられる退去で完結
敷地内の別棟設置費+付帯工事中〜高近さと距離を両立しやすい使用後に買取の選択肢も

完全同居は費用を抑えやすい反面、主介護者の負担が24時間に及びやすく、逃げ場がなくなるおそれがあります。

一方、近居や敷地内の別棟のように「すぐそばにいながら、生活の場は別」という距離を保てる形は、お互いの暮らしを守りやすく、外部サービスも気兼ねなく入れやすい傾向があります。その結果、家族全体の負担が軽くなり、長く続く介護を乗り切りやすくなると考えられます。

呼び寄せの手順は親の呼び寄せで失敗しない7つの落とし穴と全手順で、同居と近居を実際に選んだ家族の体験は親の呼び寄せ同居vs近居|5家族の教訓で紹介しています。

選択肢の一つとしての「別棟介護」(シニアリビング)

「家族の生活を守りながら、すぐそばで親を見守りたい」という場合の方法の一つに、自宅の庭に設置する別棟の介護専用ハウス「シニアリビング」があります。

仕様

  • 母屋のリフォーム工事は不要で、工場で完成させたユニットを庭に設置します。1ユニットは6.0m×2.4m(駐車場1台分より少し大きい程度)で、単棟は一人用、2連棟なら夫婦世帯用、3〜4棟をつなげれば平屋住宅に近い広さにもできます。
  • 移動型の建築で軽視されがちな断熱性能を重視した高断熱仕様で、ヒートショック対策にも配慮しています。
  • 使い終わったあとは買取の選択肢もあり、従来の建築で発生しがちな解体費用を抑えられる場合があります。

向き・不向き

庭にまとまった空きスペースがあり、完全同居のストレスを避けつつ親の近くで見守りたい家庭には、向いていると考えられます。一方で、設置できる敷地がない場合やマンション住まいの場合、常時の医療処置が必要な場合、親本人が敷地内での別居に強く抵抗している場合には向きません。

設置にあたっては、建ぺい率や用途地域など法令上の確認も必要なため、検討するときは自治体や事業者に確認してください。完全同居・近居・施設などと並ぶ選択肢の一つとして、家族の条件に照らして比べてみてください。

同居・近居・別棟の費用の違いは、親の呼び寄せ費用は4つに分かれる|同居・近居の違いと転入後14日の手続きでも整理しています。

今日からできる実行チェックリスト

介護費用と役割分担で今日からできることを段階別にまとめたチェックリスト図解

親の状況に合わせて、いまの段階でできることから始めてみましょう。

親が元気なうち(予防・準備の段階)

  • 将来の暮らし方や介護、お金の管理について、親の希望を雑談の中で聞いておく
  • 親の年金額・預貯金・加入している保険を把握し、介護の「原資」を確認する
  • きょうだいで「いざというときにどう協力するか」を一度話題にしておく

介護が始まった直後(初動・ルールづくりの段階)

  • 病院や介護の窓口との連絡役になる主介護者(キーパーソン)を1人決める
  • 費用の分担方針(親の資産を優先し、足りない分は資力按分+手間の調整)を話し合い、決めたことを書き残す
  • 直接介護以外の作業を書き出し、遠方のきょうだいも含めて役割を分ける
  • 共有カレンダーや介護記録アプリで、ケアの内容や支出の「見える化」を始める
  • 介護費用は親の口座から支払い、レシートや領収書をすべて保存する

揉め始めたとき(対処の段階)

  • 感情的に言い返さず、日々の記録と立替の履歴を見せて実態を共有する
  • 地域包括支援センターや担当のケアマネジャーなど、中立的な立場の人に間に入ってもらう
  • 外部サービスや住まいを見直し、家族全体が背負う負担の総量を下げる
  • 話し合いが決裂した場合は、最後の手段として家庭裁判所の扶養請求調停を検討する

介護の悩みは、一人で抱え込まずに専門の窓口を頼りましょう。日々のケアや使える公的制度は地域包括支援センターやケアマネジャーへ、費用負担や相続をめぐる法的な問題は弁護士や家庭裁判所へ、早めに相談することが家族全員を守ることにつながります。

よくある質問

Q
親の介護費用は、兄弟で均等に分担しなければいけませんか?
A

いいえ、法律上、きょうだいで均等に負担する決まりはありません。介護費用は、まず親自身の年金や預貯金から支払うのが大原則です。親のお金で足りずに子が援助する場合も、各自の収入や家庭の事情に応じた「資力按分」や、直接介護を担う人の金銭負担を軽くする調整が現実的です。一律の割り勘は不公平感を生み、関係がこじれる原因になりやすいため、事情に合わせて配分しましょう。

Q
介護を全くしない兄弟に、費用を請求できますか?
A

請求できる場合はありますが、まずは話し合いで合意を目指すのが前提です。子が親に対して負う扶養義務は、自分の生活を維持したうえで余力の範囲で助け合う「生活扶助義務」にとどまります。どうしても協力が得られなければ家庭裁判所の扶養請求調停を利用できますが、相手に経済的な余力がなければ支払いは命じられません。時間や費用、家族関係への影響も大きいため、最後の手段と考えましょう。

Q
遠くに住んでいて直接介護できません。どう関わればいいですか?
A

直接の介助ができなくても、離れて担える役割はたくさんあります。たとえば、介護用品のネット注文、役所への申請書類の作成、施設の情報収集、ケアマネジャーからの報告の集約と共有、親への定期的な電話などです。「身体を動かすことだけが介護ではない」と家族で認識をそろえ、それぞれの環境に合った役割を分担すると、主介護者の孤立感も和らぎます。

Q
お金の話を兄弟に切り出すと角が立ちそうです。どう伝えればいいですか?
A

「あなたも払って」と直接求めず、専門職の助言や将来の備えをきっかけに切り出すのがコツです。たとえば「ケアマネジャーさんから、今後の分担を家族で決めておくように言われた」「将来、施設に入った場合の費用を一緒に試算したい」と持ちかけると、責められたと感じさせずに済みます。「自分対きょうだい」の構図にせず、「家族全員で課題に向き合う」形で相談しましょう。

Q
親を介護したぶん、相続で多くもらえますか?
A

介護の貢献が、そのまま相続で報われるとは限りません。「寄与分」という制度はありますが、対価を受け取っていないこと(無償性)や、仕事に影響が出るほど専念したこと(専従性)などの要件が厳しく、子としての通常の扶養の範囲とみなされて認められない例が多いためです。苦労を反映させたいなら、親が元気なうちに遺言書の作成や生命保険の受取人の指定などをしておくほうが確実です。

まとめ|「親のお金」「資力に応じた分担」「見える化」で、兄弟は揉めずに済む

きょうだいとの揉めごとの多くは、負担の分け方を先に決めておくことで防げます。

費用はまず親自身のお金で賄い、足りない分だけを、各自の収入や事情、介護に割く手間に応じて分け合います。そのうえで介護の様子とお金の流れを家族に見えるようにしておけば、不公平感の元になる「情報格差」(現場にいる人といない人の、知っていることの差)も埋められます。

この記事のポイントを整理します。

Point
  • 介護費用の財源は親のお金が基本。
    子の扶養義務は、自分の生活を脅かさない範囲(生活扶助義務)に限られる。
  • 分担は均等割より、収入に応じた按分と、介護の手間を金額に見立てた調整で。
    役割を細かく分け、遠方の家族も後方支援で関わる。
  • 話し合いは段取りを守る。
    親の意向確認、資産の把握、連絡窓口になるキーパーソンの決定、ルールの取り決めと記録、見える化の順に進める。
  • お金の話は第三者の視点を借りて切り出す。
    協力が得られなければ段階を踏み、相続での寄与分には過度に期待しない。
  • 負担は分ける前に「減らす」。
    外部の支援や住まいの工夫で、家族が抱える負担の総量を下げる。

まずは、親の年金と預貯金で月々の介護費用がどこまで賄えそうか、きょうだいで一度確かめるところから始めてみてください。そのうえで住まいの形に迷ったときは、それぞれの長所と短所を比べてみましょう。

「適度な距離を保ちながら近くで見守る」住まい方の一つとして、自宅の庭に設置する別棟の介護専用ハウス「シニアリビング」もあります。負担を抱え込む前に全体の量を減らす手段の一つとして、気軽に情報を集めてみてください。

シニアリビングについては、シニアリビングの詳細ページでご覧いただけます。

脚注

  1. e-Gov法令検索「民法」第877条(扶養義務者). https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
  2. e-Gov法令検索「民法」第877条(扶養義務者). https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
  3. 裁判所「扶養請求調停」(手続案内). https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_11/index.html ↩︎
  4. 裁判所「扶養請求調停」(手続案内). https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_11/index.html ↩︎
  5. 裁判所「扶養請求調停」(手続案内). https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_11/index.html ↩︎
  6. e-Gov法令検索「民法」第904条の2(寄与分). https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
  7. e-Gov法令検索「民法」第1050条(特別の寄与). https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
  8. e-Gov法令検索「民法」第1050条(特別の寄与). https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 ↩︎
  9. 法務省 法制審議会民法(相続関係)部会「参考資料 寄与分に関する裁判例(相続人以外の者の寄与に関するものを中心に)」(2017). https://www.moj.go.jp/content/001222143.pdf ↩︎
  10. 守口門真総合法律事務所「Vol.3 兄弟間で揉める“使い込み問題”を防ぐには【弁護士コラム】」(2025・民間). https://murakami-law.org/2270/ ↩︎
  11. 厚生労働省「介護サービス情報公表システム|サービスにかかる利用料」(高額介護サービス費を含む). https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html ↩︎
  12. 公益財団法人 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」(2024). https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html ↩︎