介護はどこで?自宅か施設か5択を4軸で比較【2026年版】

5つの住まいの選択肢を4つの軸で評価した比較表を模したサムネイル 住まいの選択肢

親と同居するか、実家を改修するか。庭に別棟を置くか、近くに呼び寄せるか、それとも施設を探すか。「親の介護をどこでするか」と考えたとき、選択肢そのものはすでに頭に浮かんでいる方が多いはずです。

それでも、どれか一つに決めきれない。調べれば調べるほど迷いが深まり、親に話を切り出せないまま何か月も過ぎてしまう。そんな足踏みの状態になっていないでしょうか。

その迷いには、はっきりとした理由があります。「選ぶ人」と「実際に住む人」が違うからです。自分が住む家なら自分の都合で決められますが、親の住まいとなるとそうはいきません。

だからこそ、最初に考えるべきなのは「住まいの形」ではありません。まずは「誰がどこまで介護を担えるのか」です。考える順番を整えるだけで、本当に比べるべき選択肢はぐっと絞り込まれます。

この記事では、代表的な5つの選択肢を「費用」「プライバシー」「家族の負担」「将来性」の4つの軸で比較します。掲載している数値や制度は、2026年時点の公的統計および法令に基づいています。

この記事でわかること
  • 5つの選択肢を4つの軸で比べた結果と、迷わないための検討の順番
  • 「要介護3」を境に、介護にかかる時間がどう変わるのか
  • 選んだ形が続けられなくなったとき、別の選択肢へ移るのにいくらかかるのか
  • 家族で話し合うときに、共有しておきたい具体的な項目

介護はどこで?5つの選択肢と、決める順番

介護の住まいを決める3ステップを示したフロー図

親の介護をどこでするかを考えるとき、住まいの選択肢は「同居」「介護リフォーム」「庭の別棟」「近居」「施設入居」の5つに整理できます。

ただし、いきなりこの5つを見比べても結論は出ません。最初に確かめるべきなのは、「誰が主な介護者になるのか」です。ここが曖昧なまま住まいの形だけを先に決めてしまうと、想定していなかった誰か一人に負担が偏ってしまいます。

決める順番は3つのステップで進めます

  1. 誰が主な介護者になるのかを確かめます。
    親の配偶者なのか、同居する子どもなのか、通ってくる子どもなのか、それとも外部の事業者なのか。「なんとなく自分だろう」という曖昧なままでは、話を先へ進めないようにします。
  2. その人が無理なく続けられる範囲を決めます。
    1日に何時間まで、週に何日まで、いつまで関われるのか。仕事を辞めないことを前提に、現実的な線を引きます。
  3. その範囲に収まる選択肢を選びます。
    担い手の範囲を超える選択肢は、いくら費用面で条件が合っていても長続きしません。

この順番で進めていけば、比べるべき選択肢は自然と2つか3つに絞られます。最初から5つすべてを同じ熱量で検討する必要はありません。

5つの選択肢の早見表

選択肢費用プライバシー家族の負担将来性向いている家族
①同居◎ 初期費用はほぼ不要× 双方とも保ちにくい× 逃げ場がなくなりがち△ 改修した跡が残る1階だけで介護生活が完結し、主な介護者と、その代わりを務める人が決まっている場合
②介護リフォーム◯ 数万〜100万円超△ 間取りの工夫しだい△ 同居前提なら高くなりやすい× 元に戻すのに再び費用がかかる親が今の家に住み続けたい意向が強く、要介護度が軽度〜中度の場合
③庭の別棟△ まとまった初期費用が必要◎ 建物が分かれるため確保しやすい◯ 気持ちの切り替えがしやすい◯ 買取や移設の余地がある敷地に余裕があり、親子の生活空間をしっかり分けたい場合
④近居△ 住居費が二重にかかる◎ 双方の独立性が保たれる△ 移動の時間と体力が必要◎ 賃貸なら解約手続きだけで済む親子双方に経済的な余裕があり、適度な距離を保ちながら仕事と介護を長く両立させたい場合
⑤施設入居× 月々の費用負担が大きい△ 居室のタイプ(個室・多床室)による◎ 日々の介助から離れられる◯ 退去や住み替えが可能24時間の見守りが必要な場合や、家族が仕事をどうしても中断できない場合

※この評価は5つの選択肢を相対的に比べたもので、ご家族の経済状況や親御さんの意向、要介護度によって順位や向き不向きは入れ替わります。

選ぶのは子で、住むのは親です

住まいを選ぶ子世代と、実際にそこで暮らす親世代を左右に対置した図

この記事を読んでいる方の多くは、「自分自身が住むわけではない家」を選ぼうとしているはずです。ここに、親の住まい選びを一般的な引っ越しと分ける難しさがあります。

よかれと思って動いているのに、どこか気持ちが晴れない。自分にとっての最適解を出しても腑に落ちず、かといって親の希望をすべて受け入れようとすると、自分の生活が成り立たなくなる。この板挟みは、気持ちの持ちようだけでは解決できません。

同居しても、主に介護するのはあなたとは限りません

「親と同居すれば、自分がそばで介護できる」と考えて話を進めていないでしょうか。

厚生労働省の2025(令和7)年国民生活基礎調査によると、在宅の要介護者等から見た主な介護者は、同居している家族が46.1%を占めています1。

その内訳を詳しく見ると、配偶者が22.5%で最も多く、子は18.2%、子の配偶者は4.2%にとどまります2。つまり、同居という形を選んでも、日々実際に手を動かして介護にあたっているのは「親の配偶者」であるケースが少なくないのです。

年齢の組み合わせを見ても、同じ傾向がはっきりと表れています。要介護者等と同居の主な介護者がともに60歳以上である割合は79.0%、ともに75歳以上の割合も37.1%にのぼります3。

一方で、別居しながら介護に関わっている家族は、50代と60代が約8割を占めています4。ちょうど、この記事を読んでいる現役世代と重なる年齢層です。

子が「自分が面倒を見る」つもりで同居に踏み切ったとしても、実際の負担は、高齢のもう一方の親(配偶者)に集中してしまうことがあります。住まいを決める前に「誰が実務を担うのか」をはっきりさせるべき理由は、ここにあります。

親が一人で暮らしたまま介護が始まる形が、増えています

在宅の要介護者等がいる世帯を世帯構造別に見ると、核家族世帯が40.2%、単独世帯(一人暮らし)が33.2%、三世代世帯が9.0%となっています5。

2001年の調査では単独世帯が15.7%、三世代世帯が32.5%でしたから6、この24年で単独世帯の割合は2倍を超え、三世代世帯は3分の1以下にまで減りました。

もはや、「親のそばに誰かが常にいる状態」から介護が始まるとは限りません。一人暮らしの親に介護が必要になれば、誰がどこで支えるのかを決めなければならず、「住まいをどう整えるか」が最初の大きな判断になります。

親の一人暮らしをいつまで続けられるか、どんな変化が出たら住まいを見直すかの見極め方は、親の一人暮らしの限界サインと動く時期で整理しています。

5つの選択肢は、それぞれ何をする形か

同居・介護リフォーム・庭の別棟・近居・施設入居の5つの住まいの形を並べた図

5つの選択肢の特徴は、「具体的にどのような暮らしになるのか」と「お金がどのように出ていくのか」の2点から見ると、輪郭がはっきりとつかめます。

①同居|親子が同じ建物で暮らす

親を子世帯の家に迎えるか、子が実家に戻るかして、一つ屋根の下で暮らす形です。

初期費用はほとんどかからず、費用は月々の生活費の増加分として出ていきます。ただし、今の住まいがバリアフリーになっていない場合は、次の②で触れる改修費用が別に必要です。

同居を選んだあとの準備の手順や要介護度別の費用の目安、世帯分離などの使える制度については、同居介護の費用はいくら?月額の目安と世帯で変わる制度で詳しくまとめています。

②介護リフォーム|今の家を改修する

親または子の家に手すりを付けたり、段差を解消したり、水回りを改修したりして、介護しやすい環境へ作り替える形です。

お金は初期にまとまって出ますが、月々の固定費はほとんど増えません。介護保険の住宅改修費や、各自治体の助成制度も使えます。

部位ごとの費用相場や補助金・減税のしくみ、申請の順序や点検商法など、失敗しやすいポイントは、介護リフォームの費用と補助金|4制度の使い方と申請の順序で扱っています。

③庭の別棟|敷地の中に独立した建物を置く

自宅の敷地内に、介護のための小さな独立した建物を1棟置く形です。母屋とは別の建物になるため、気軽に行き来しながらも、生活空間やプライバシーをしっかり分けられます。

費用は初期費用が中心です。ただし、建物本体の価格だけでは総額になりません。運搬費、基礎工事費、電気の引き込みや給排水の接続工事費、各種の申請費用などが別に積み上がります。

工法別の総額や広さごとの費用相場は【2026年版】庭に離れを増築する費用|3工法×広さ別の総額と注意点で、税金面や家族関係の注意点は敷地内同居の税金とストレス|知らないと損する5つの落とし穴で整理しています。

④近居|別々の住まいで、近くに暮らす

親子がそれぞれ別の家に住み、徒歩圏内や車で15分ほどの「スープの冷めない距離」で暮らす形です。なお、どこまでの距離を近居と呼ぶかについて、公的な定義はありません。

費用面では、2軒分の住居費がかかり続けます。都市部で親子とも賃貸住まいとなる場合は、毎月の家賃が家計に重くのしかかります。

親を近くへ呼び寄せるときに発生する費用は、親の呼び寄せ費用は4つに分かれる|同居・近居の違いと転入後14日の手続きに整理してあります。

⑤施設入居|生活の場を施設へ移す

特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などに入居し、暮らしの拠点そのものを移す形です。

費用は、入居時の一時金と毎月の利用料に分かれます。一時金が要らない代わりに月額が高めに設定されている施設もあり、総額で見ると、入居期間の長さによって損得が逆転することがあります。

主な8種類の住まいの違いと費用相場は、高齢者向け住宅の種類と費用|8種類を3分類で比較【2026年版】にまとめてあります。

【比較①】費用|初期と月額は分けて見る

5つの選択肢の初期費用と月額費用を上下2段の棒グラフで比較した図

介護にかかる費用を「総額いくら」とひとまとめに捉えると、判断を誤るもとになります。「初期にまとまって出るお金」と「毎月出ていくお金」では、家計に与える影響が大きく異なるためです。

選択肢初期に出るお金毎月出ていくお金注意する点
①同居ほぼゼロ(改修が必要なら②の費用が加わる)生活費の増加分今の家が介護に向かないと、結局②の費用がかかる
②介護リフォーム数万円〜100万円超ほぼ変わらない浴室やトイレなど水回りの全面改修は高額になりやすい
③庭の別棟本体+運搬・基礎・電気・給排水・申請の費用ほぼ変わらない本体価格だけの見積もりで判断しない
④近居敷金・礼金・引越し費用など住居費が二重にかかり続ける都市部では月々の負担が最も重くなりやすい
⑤施設入居入居一時金(0円の施設もある)月々の施設利用料一時金0円の施設は月額が高め。総額は入居期間に左右される

この表から分かるとおり、①同居・②介護リフォーム・③庭の別棟は、月々の出費があまり増えず、費用が出るとすれば初期に集まる型です。一方、④近居と⑤施設入居は、毎月の負担がかかり続ける型です。介護が長引くほど、後者の負担は大きく積み上がっていきます。

介護そのものにかかるお金の目安

生命保険文化センターの2024(令和6)年度調査によると、過去3年間に介護経験がある人が使った一時的な費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円でした7。この金額には、公的介護保険サービスの自己負担分も含まれています。

介護を行った場所別に月々の費用を見ると、在宅介護が平均5.3万円であるのに対し、施設介護は平均13.8万円です8。

また、介護を行った期間は平均55.0カ月(4年7カ月)で、4年を超えて介護した人が約4割を占めています9。

在宅と施設では、月額にして約8.5万円の差があります。平均期間の4年7カ月分を単純に掛け合わせると、約470万円もの開きになります。ただし、これはあくまで平均値どうしの試算で、個々の家庭の事情によって金額は変わります。

在宅介護でかかる費用の内訳や、家計の負担を軽くできる公的制度については、在宅介護の費用|月5〜10万円の内訳と負担を減らす6つの制度で詳しくまとめています。

支出だけでなく、減る収入も並べます

「在宅介護のほうが月々の支出が安い」と単純に結論づけるのは早計です。在宅介護の費用が低く抑えられているのは、家族が自分の時間を割いて、無償で介護を担っているからです。介護のために勤務時間を減らせば、当然その分の世帯収入は減ります。

家計を比べるときは、「実際に出ていくお金」と「入らなくなるお金(減収分)」を同じ表に並べて計算する必要があります。たとえば、年収500万円の人が時短勤務を選んで給与が2割減れば、年間で100万円の減収です。この減収を織り込むと、施設に入居した場合の月額との差は大きく縮まります。

【比較②】プライバシー|親の側と家族の側は別に考える

同居・庭の別棟・施設それぞれで、親と家族の生活領域がどう分かれるかを示した図

プライバシーは、親と迎える家族のどちらか一方が我慢するだけの形では、長くは続きません。

同居は、共有する空間の広さで決まります

同居で最もストレスの原因になりやすいのは、間取りそのものです。台所や浴室、トイレなどを共有する時間が長くなるほど、生活時間帯や習慣のずれから、日常的な摩擦が起きやすくなります。

特に、「玄関から親の部屋までの動線」が、家族が集まるリビングなどの共有空間を横切るかどうかは見落とせません。事前に図面で生活動線を確かめておけば、同居を始めてからの摩擦や、あとから改修する出費を抑えられます。

別棟と近居は分かれますが、それぞれ弱点があります

庭の別棟と近居は、建物そのものが分かれるため、お互いの生活空間をしっかり確保できます。ただし、その性質には大きな違いがあります。

庭の別棟は同じ敷地内にあるため、様子を見に行くための移動時間はかかりません。その代わり、夜間の急な呼び出しや体調の変化があったときには、雨の日も寒い日も母屋から外に出て向かうことになります。

近居は物理的な距離がある分、お互いの関係が煮詰まりにくいのが利点です。しかし、日々の行き来そのものが大きな負担になります。片道20分の距離でも、様子を見に行くたびに往復40分が移動に取られます。

施設は、居室のタイプで自由度が変わります

施設に入居する場合、家族の側の生活リズムは守られます。一方で親の側にとっては、個室であってもルールのある集団生活となり、相部屋(多床室)であれば自由度はさらに下がります。

見学のときは、居室の設備とあわせて、起床・食事・入浴などの時間がどこまで決まっているかを確認しておくと、親御さんが実際にそこで暮らす様子を思い描きやすくなります。

【比較③】家族の負担|介護にどれだけ時間を取られるか

要介護2と要介護3で、同居の主な介護者の介護時間がどう変わるかを示した帯グラフ

食事、入浴、排泄の介助に、室内での移動、病院への付き添い。介護の負担は「作業の手間」として捉えられがちですが、選択肢を比べるときは、「どれだけの時間を取られるか」で見るほうが判断しやすくなります。

要介護3を境に、介護にかかる時間が変わります

介護の手間は、要介護度が上がるにつれて少しずつ増えていくと考えがちです。厚生労働省の2025年国民生活基礎調査は、同居している主な介護者が介護に費やす時間を、要介護度別に集計しています10。

それによると、要支援1から要介護2までは「必要なときに手をかす程度」と答えた人が最も多くなっています。ところが、要介護3以上になると「ほとんど終日」介護にあたっている人が最も多くなります11。

「ほとんど終日」と答えた割合は、要介護2では15.1%にとどまっていたものが、要介護3になると29.5%と、およそ2倍に増えます12。要介護度ごとの詳しい数値は、「要介護3で何が変わるか」の表にまとめています。

この段階を過ぎると、仕事を続けながら主な介護者を務めるのが難しくなる家庭が増えます。住まいの形を選ぶときは、「要介護3以降の状態になっても、その形で持ちこたえられるか」をあらかじめ見据えておく必要があります。

介護離職は、減少から増加に転じています

仕事を辞めて介護にあたる「介護離職」は、国の統計で人数を確かめられます。総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査」によると、介護・看護のために過去1年間に前職を離職した人は10.6万人にのぼりました13。2017年の調査では9.9万人でしたから、5年間で0.7万人増えたことになります。

介護離職者の数は2007年から2017年にかけて減り続けていましたが、2017年から2022年にかけて増加に転じました14。なお、この調査は5年ごとに行われており、2026年時点では2022年調査が最新のデータです。

会社の側に、対応する義務ができました

2025(令和7)年4月から、改正育児・介護休業法が段階的に施行されています。これにより、介護離職を防ぐための雇用環境の整備とともに、個別の周知と意向確認が事業主に義務づけられました15。

「職場で親の介護のことを言い出しにくい」と、一人で抱え込んでしまう方は少なくありません。

しかし法改正以降は、従業員から家族の介護に直面したと申し出があれば、会社は次の3つを個別に知らせ、制度を利用する意向があるかを確認しなければなりません。

  • 介護休業などの両立支援制度の内容
  • 制度を利用するときの申出先
  • 介護休業給付金に関すること16

さらに、制度の取得や利用を控えさせるような周知や意向確認は認められていません17。「会社に迷惑をかけるのでは」と相談をためらう必要は、もうありません。

働きながら介護を続けるために会社が用意すべき制度については、同居介護の費用と準備をまとめた記事の「仕事を続けるための制度」の章で詳しく扱っています。

選択肢ごとに、介護者に何が起きるか

  • 同居:移動時間はゼロですが、日常生活と介護の境目がなくなります。意識して一人で休む時間を作らないと、心身がもちません。
  • 介護リフォーム:同居が前提なら、負担の中身は同居と同じです。親が自宅で一人暮らしを続ける場合は、実家に通う移動時間と体力が上乗せされます。
  • 庭の別棟:敷地内にあるため移動の手間はありません。母屋のドアを閉めれば、介護の場から物理的に距離を置けます。
  • 近居:訪ねるたびに移動時間がかかります。日中の見守りを家族だけで担うのは難しいため、外部の介護サービスを組み込む必要があります。
  • 施設入居:日々の直接的な介助からは離れられます。その代わりに、まとまった月額費用の工面と、「施設に預けてしまった」という心の葛藤が残ることがあります。

【比較④】将来性|あとから選び直せるか

5つの選択肢を、あとから選び直しやすい順に1本の軸の上に並べた図

親の心身の状態は一定ではありません。要介護度が上がることもあれば、骨折や病気で入院が長引くこともあり、認知症の進行によって暮らし方が変わることもあります。

だからこそ、住まいを途中で選び直すことは失敗ではなく、最初から計画に織り込んでおくべき前提です。ただ、後戻りのしやすさは、選択肢によってまったく違います。

戻しやすい形と、戻しにくい形があります

  • 賃貸での近居:契約を解約して退去すれば、住まいそのものを手放せます。5つのなかで最も身軽で、方向転換がしやすい形です。
  • 施設入居:退去の手続きを取れば、別の施設への住み替えや在宅への復帰ができます。有料老人ホームなら、前払金の返し方が法律で決まっています。
  • 庭の別棟:使わなくなったときは、撤去・移設・メーカーによる買取のいずれかを選べる余地があります。ただし、撤去を選ぶ場合は解体と搬出の費用がかかります。
  • 同居:親が施設へ移ったり亡くなったりしたあとに、家財の整理や、空いた部屋の使い道の見直しが残ります。
  • 介護リフォーム:一度改修した住まいを元に戻すには、再び工事の費用がかかります。手すりや介護仕様の浴室などは、将来家を売るときにプラスに評価されるとは限りません。

「選び直しやすさ」は、検討を始めたばかりの時点では見落とされがちで、状況が変わって身動きが取れなくなったときに初めて重みに気づきます。だからこそ、最初に決める前に一度考えておく価値があります。

要介護3で何が変わるか|切り替えを考える目安

要支援1から要介護5まで、介護時間が「ほとんど終日」になる割合の推移を示した折れ線図

自宅での介護を続けるか、施設への移行を考えるか。この大きな判断を感情だけで下すと、決めたあとで「本当にこれでよかったのか」と迷いが残りやすくなります。客観的なデータを知っておけば、家族のあいだで意見が食い違うことも防ぎやすくなります。

介護者の時間で見た分岐点

同居している主な介護者が介護に費やす時間は、要介護度が上がるにつれて大きく変わります18。

要介護度ほとんど終日半日程度2〜3時間程度必要なときに手をかす程度
要支援13.5%2.3%6.9%60.6%
要支援26.0%3.8%6.2%66.4%
要介護110.6%7.0%13.0%57.7%
要介護215.1%13.3%12.0%49.1%
要介護329.5%21.8%17.6%26.3%
要介護448.5%19.1%7.9%15.1%
要介護554.2%14.9%11.0%11.2%

表のとおり、要介護3で「ほとんど終日」と「必要なときに手をかす程度」の順位が入れ替わります19。ここが、住まいの形を見直す大きな分岐点です。

使うサービスの中身も変わります

変わるのは介護にかかる時間だけではありません。厚生労働省の「令和6年度 介護給付費等実態統計(令和7年4月審査分)」を見ると、要介護度が上がるにつれて、訪問介護の利用内容が大きく入れ替わることが分かります20。

体に直接触れて介助する「身体介護」を利用する割合は、要介護1では40.1%ですが、要介護5では92.7%に達します。反対に、調理や掃除などを代わりに行う「生活援助」の利用率は、要介護1の50.1%から要介護5では23.1%へ下がります21。

つまり、家事を手伝う介護から、ベッドから車いすへの移乗や入浴、排泄を介助する介護へと、中身が変わっていくのです。同じ「在宅介護」という言葉でも、家族に求められる労力はまったく別のものになります。

通いのサービスと施設でも、同じ傾向が見られます。日帰りで通うデイサービス(通所介護)の利用者は、「要介護1〜3」が全体の84.2%を占めています22。これに対し、特別養護老人ホーム(特養)の入所者は、「要介護3〜5」が全体の96.2%です23。制度のうえでも、特養への新規入所は原則として要介護3以上と定められています。

特別養護老人ホームの費用や入所の条件は、特養の費用と入居条件|待機・申し込み方法まで解説で整理しています。名前が似ていて混同されやすい2つの住まいの違いは、サ高住と住宅型有料老人ホームの違い|費用と退去リスクを比較にまとめてあります。

特養の申込者は、3年で18%減っています

「特養は何年も順番を待たないと入れない」というイメージは、2025年度の調査で見直しておく必要があります。厚生労働省の調査によると、2025(令和7)年4月1日時点で、要介護3以上の入所申込者は20.6万人、そのうち在宅で暮らしている方は8.6万人でした24。

前回の2022(令和4)年度調査では申込者が25.3万人(うち在宅10.6万人)でしたから、この3年間で18.4%減ったことになります25。

ただし厚生労働省は、この数値に「長期間にわたり申込者名簿に登載されている方も含まれており、必ずしも現に入所を必要としている場合に限らない」と注記しています26。実際の待機期間や入りやすさは、地域や施設によって大きく異なります。具体的な入所の見込みは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに最新の状況を確かめておくのが確実です。

暮らしのなかで気づく5つのサイン

要介護度は認定の結果であり、日々の暮らしで感じる切迫感よりも遅れて変わります。公的な判定を待たずに、次の5つのサインを手がかりに、状況を振り返ってみてください。回数や時間は公的な基準ではなく、家族が状況を見極めるための目安です。

  1. 夜間の対応が週3回以上になった。
    夜中のトイレ介助や徘徊の見守りが続くと、介護者の睡眠が慢性的に削られます。
  2. 身体介護の比重が増えてきた。
    ベッドからの移乗、入浴、排泄の全介助が毎日のように必要になると、在宅介護の負担は一気に重くなります。
  3. 連続6時間の睡眠が2週間以上取れていない。
    睡眠不足が続くと、介護者自身の判断力が落ちやすくなります。
  4. 介護のための欠勤・遅刻・早退が月3回以上になった。
    働き方が崩れ始め、介護離職に近づいているサインです。
  5. 認知症の症状が週単位で変わっている。
    徘徊や昼夜逆転、興奮や暴言などが目立ち始めると、自宅で安全を保つことが難しくなります。

このうち2つ以上が当てはまる状態が続いているなら、住まいの形を見直す時期です。介護の期間は平均で4年7カ月に及びます。「今をしのげるか」ではなく、「この生活があと4年続いても、家族が倒れずにいられるか」を基準に判断してください。

選び直しには、いくらかかるのか

有料老人ホームの前払金の返還ルールと、在宅側で相場が公表されていない4つの費用を対比した図

「一度決めたら後戻りできない」と思い込んでいるからこそ、最初の一歩が踏み出せなくなります。しかし実際には、退去や解約のときのルールが法律で定められている選択肢と、相場がまったく読めない選択肢があります。

施設は、戻り方が法律で決まっています

有料老人ホームが家賃などを前払金(入居一時金)として一括で受け取る場合、老人福祉法は事業者に3つの義務を課しています27。「返還の契約」「保全措置」「権利金の受領禁止」です。

1つめは、返還の契約です。入居後3か月以内に契約が解除された場合、事業者は「家賃等の月額を30で割った額に、入居した日から解除の日までの日数を掛けた額」だけを差し引き、残りを返す契約を結ばなければなりません28。入居者が亡くなって契約が終了した場合も、同じ扱いです。

つまり、万が一施設が合わずに3か月以内に退去することになっても、実際に暮らした日数分の家賃等を払えば、残りは戻ってきます。差し引けるのは日数分の家賃等に限られているため、契約で定めた「初期償却」の分を上乗せして差し引くことはできません。

また、3か月を過ぎてから退去する場合でも、前払金の算定の基礎として想定した入居期間が残っていれば、その分は日割りで返ってきます29。

2つめは、保全措置です。事業者は前払金の算定の根拠を書面で示し、返還の債務を負う場合に備えて、保全措置を講じる義務があります30。

3つめは、権利金の受領禁止です。家賃・敷金・介護等の対価として受け取る費用のほかに、権利金その他いかなる名目の金品も受け取ってはならないと定められています31。

施設入居は、一見すると5つのなかで最も高額な選択肢に思えます。それでいて有料老人ホームでは、退去するときにいくら戻るかのルールが、5つのなかで最もはっきり法律で決まっています。

在宅側は、戻り方が決まっていません

一方、在宅側の選択肢には、公表された相場がありません。実家を空き家にする、賃貸住宅を引き払う、改修した家を売る、庭の別棟を撤去する。いずれも、目安にできる金額が示されていないケースです。

  • 親の家を空き家として残す場合:
    固定資産税に加え、水道光熱費の基本料金、庭木の手入れや通気の管理にかかる費用が続けて発生します。総額は、建物の傷み具合や所在地によって大きく異なります。
  • 近居のために借りていた賃貸住宅を解約する場合:
    解約の予告期間や、退去時の原状回復費用のうち借主がどこまで負担するかは、個別の賃貸借契約の内容しだいです。
  • 介護用に改修した家を売る場合:
    取り付けた手すりやバリアフリー設備が、中古住宅の買い手に評価されるとは限りません。買い手によっては、元の状態に戻すことを求められることもあります。
  • 庭の別棟を撤去する場合:
    解体・撤去の費用は、建物の構造や広さに加えて、重機が入れる道幅や搬出の経路によって大きく変わります。

これらの費用に目安がないのは、調べ方が足りないからではありません。立地や建物ごとの条件の差があまりに大きく、「全国一律の相場」そのものが存在しないためです。「あとでいくらかかるかが事前に読めない」こと自体が、在宅側の選択肢に共通する大きなリスクです。

契約や工事の前に確かめておく5項目

  1. 施設:入居一時金の初期償却の割合と、償却の期間
  2. 施設:前払金の算定の基礎となっている想定入居期間
  3. 施設:途中で退去・解約したときの返金の計算式と、保全措置の方法
  4. 賃貸(近居):解約の予告期間と、退去時の原状回復で借主が負担する範囲
  5. 改修・別棟:将来、元に戻す場合や撤去する場合にかかる見積額

特に5つめの撤去費用は、工事を依頼する最初の段階で業者に確認しておくのが現実的です。いざ撤去が必要になってから相見積もりを取る余裕は、まずありません。

家族で決めるとき、何を話しておくか

家族会議で話しておく8つの項目を2列に並べたチェックリスト

住まいの決定は、配偶者やきょうだいと納得のいく合意ができていなければ、途中で行き詰まってしまいます。家族会議を感情論で終わらせないために、話し合う項目を先に決めておきます。

次の8つは、そのまま家族で共有できる形にしてあります。

話しておく8項目

  1. 本人の希望と、避けたいこと。
    どこで、誰と、どのような毎日を過ごしたいか。反対に「これだけは避けたい」ことは何か。
  2. 今できることと、手助けが必要なこと。
    食事、入浴、排泄、着替え、服薬の管理などがどこまで一人でできるか。物忘れなど、認知症の症状の有無も含めます。
  3. 5つの選択肢のうち、どれを候補にするか。
    すべての案を検討し続けず、2つか3つの候補に絞り込みます。
  4. 毎月の予算と、親自身の資産。
    親が受け取っている年金額と預貯金、子の側から毎月援助できる上限額、実家の資産価値。
  5. 使える公的制度と職場の支援。
    要介護認定の申請状況、介護保険の住宅改修費、勤め先の介護休業や短時間勤務の制度、介護休業給付金。
  6. 状況を見直す日と、決めたことの記録。
    3か月後や半年後に見直す日を決め、話し合って決めた内容をメモや共有ノートに残します。

特に要となるのが、3番目(主な介護者と代わりの人)と7番目(切り替えの条件)の2点です。「誰が担うのか」と「どこまで状態が変わったら次の手を打つのか」について家族の認識がそろっていれば、途中で状況が変わっても、落ち着いて住まいの形を修正していけます。

親子だけで話さないという選択

実の親子だからこそ距離が近すぎて、かえって感情的なぶつかり合いになりがちです。「迷惑をかけたくない」という親の遠慮や、「もっと面倒を見てあげたい」という子の負い目が邪魔をして、お互いの本音を隠したまま平行線をたどることも珍しくありません。

そうしたときは、地域包括支援センターの職員やケアマネジャーといった第三者に、話し合いの場へ同席してもらうのが賢明です。専門職が間に入ることで、話し合いが事実の確認から始まります。地域包括支援センターへの相談は無料で、特定の施設に偏らない中立の立場から意見をもらえます。

選択肢のひとつとしての、庭の別棟

母屋の庭に据えた別棟の介護ハウスの配置と、1ユニットの寸法を示した図

住まいに求める優先順位は家庭によってさまざまですが、「同居によるプライバシーのストレス」と「近居による住居費の二重負担や移動の負担」を、同時に避けやすい中間の選択肢があります。庭に置く別棟(離れ)です。

私たち株式会社アイデアは、この形の住まいとして「C’ZB(シーズビー)シニアリビング」を製造・販売しています。

仕様

  • 工場で仕上げ、クレーン付きトラックで敷地へ運んで据え付けます。
    建築の分類としては、搬入・設置するユニットハウス(建築物)に当たります。車両として扱われるトレーラーハウスとは、法的な扱いが異なります。
  • 母屋の解体や大がかりな改修を必要としません。
    あらかじめ基礎工事を済ませておけば、最短で搬入した当日から使える状態になります。
  • 断熱を重視した仕様にしています。
    高齢の方が一年を通じて室内で暮らし続けることを前提に設計しているため、冬の室温差が小さくなり、ヒートショックへの備えになります。
  • 1ユニットは長さ6.0m×幅2.4mです。
    単棟なら介護用ベッドと洗面、簡易トイレを置けます。2連棟なら浴室や来客用の空間まで設計でき、敷地に合わせて3棟・4棟の連結にも対応します。
  • 使い終わったあとの買取に対応しています。
    設置年数や建物の状態に応じた個別の査定になりますが、使わなくなったあとの行き先を用意できます。

向いているケース

  • 敷地に駐車場1台分以上の空きスペースがあり、お互いの生活リズムを尊重しながら暮らしたい場合
  • 親の要介護度が軽度から中度で、日中はある程度一人で身の回りのことができる場合
  • 母屋の間取りが複雑でバリアフリー化が難しく、改修しても安全な動線を確保できない場合

向いていないケース

  • 敷地の広さが足りない、前面道路が狭くてクレーン付きトラックが入れない、クレーンの作業空間が取れないなど、設置・搬入の条件が満たせない場合
  • すでに24時間体制の医療的な対応や、常時の見守りが必要な状態にある場合
  • 初期費用をまとめて用意することも、借り入れで工面することも難しい場合
  • 夜間の急な容態の変化に、介護施設と同じような即応体制を求めている場合

不利な点も挙げておきます

敷地内に独立した建物がもう1棟できるため、介護が終わったあとに別棟をどうするかという課題が残ります。親が施設へ移ったあと、空いた別棟を撤去するのか、移設するのか、買取に出すのか。その判断と費用の確認が、あらためて必要になります。

税金の面でも注意点があります。相続税の「小規模宅地等の特例」は、被相続人(亡くなった方)または生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等が対象で、要件を満たす特定居住用宅地等であれば、330㎡を上限に土地の評価額を80%減額できます32。

配偶者以外の親族(子など)が親の住まいの敷地でこの特例を使うには、原則として、親が住んでいた「一棟の建物」に一緒に住んでいたことが要件になります33。母屋と別棟に分かれて暮らす形は、税法上の「同居」にあたりません。そのため、親が暮らす別棟の敷地については、母屋に住む子は原則としてこの特例を使えません。

ただし、子が親と生計を一にしていた(生活費を共にしていた)場合は、子が住む母屋の敷地部分が特例の対象になりえます。判断を分けるのは建物のつくりではなく、どちらの住まいの敷地かと、生計が同じかどうかです。設計に入る前に、相続に詳しい税理士に確認しておくと安心です。

さらに、用途地域の制限や自治体の条例によっても、設置できる条件や手続きが異なります。設置を検討する段階で、自治体の建築窓口にご確認ください。仕様や設置条件の詳細は、シニアリビングの「距離を保つ介護」のページでご確認いただけます。

今いちばん良い形と、3年後に良い形は違う

今・3年後・看取りの時期の3段階で、向く住まいの選択肢がどう入れ替わるかを示した時間軸の図

介護の期間は、平均で55.0カ月(4年7カ月)です34。4年を超えて介護した人も、約4割にのぼります35。「いま目の前のしんどさ」だけを基準に住まいを固めてしまうと、数年後に状況が変わったとき、無理が生じやすくなります。

時間の経過で、評価は入れ替わります

選択肢今(要支援〜要介護2)3年後(要介護3〜4)看取りの時期(要介護5)
①同居◯ 家族の協力体制が整っていれば続けられる△ 夜間の見守りや介助の負担が急に増える× 24時間の在宅介護は家族の疲れが大きい
②介護リフォーム◯ 地域の在宅介護サービスが手厚ければ続けられる△ 再度の改修や住み替えの検討が必要× 医療的な対応が必要になる
③庭の別棟◎ 親子双方の生活ペースと距離感を保てる△ 排泄や移乗の全介助が増え、母屋への移行を検討× 夜間の緊急対応が難しくなる
④近居◯ お互いの仕事や日常生活を両立しやすい△ 通う時間と体の疲れが重荷になる△ 施設への移行を検討する時期
⑤施設入居△ 体が元気なうちは本人が抵抗を感じやすい◯ 介助を専門職に任せられ、安定して続けられる◎ 医療との連携や看取りに対応する施設がある

「今にとって最適な住まい」が、「3年後にとっても最適な住まい」であり続けるとは限りません。一つの選択肢だけで、介護の始まりから看取りまでをすべて完結させようとすると、どこかで家族の誰かが限界を迎えがちです。

3つのルートに当てはめる

  • ルートA:要介護2までで、家計に一定のゆとりがある場合。
    庭の別棟、近居、または小規模な介護リフォームから始めます。状況が変わったときにも方向転換できるよう、「あとから変えやすい形」を優先して選びます。
  • ルートB:要介護2までで、費用を抑えたい場合。
    同居に必要最低限の改修を組み合わせるか、家賃を抑えた賃貸での近居を選びます。介護保険の住宅改修費や、勤め先の両立支援制度を先に確認しておきます。
  • ルートC:すでに要介護3以上か、認知症の症状が進んでいる場合。
    最初から特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームへの入居を本格的に検討します。在宅を続ける場合でも、いざというときの退路として、施設の情報収集や申し込みの準備を並行して進めておきます。

どのルートを選ぶ場合でも、「どんな状態になったら次の住まいへ切り替えるか」という基準を家族で先に決めておけば、一度の決断ですべてを背負い込む必要はなくなります。

よくある質問

Q
介護はどこでするのが、いちばん費用を抑えられますか?
A

毎月出ていくお金だけで比べれば、在宅介護が最も安くなります。生命保険文化センターの調査では、介護の月額は在宅が平均5.3万円、施設が平均13.8万円です。ただし在宅が安く見えるのは、家族が無償で介護の時間を出しているからです。仕事を減らせばその分の収入も減るので、出ていくお金と入らなくなるお金を同じ表に並べて比べると、実際の差が見えてきます。

Q
自宅から施設へ切り替えるタイミングの目安は?
A

一つの目安は「要介護3」の認定です。厚生労働省の国民生活基礎調査では、同居の主な介護者が「ほとんど終日」介護にあたる割合が、要介護2の15.1%から要介護3では29.5%へ増えます。暮らしの面では、夜間の対応が週3回以上、介護による欠勤・遅刻・早退が月3回以上といった変化が重なって続くなら、住まいの形を見直す時期です。

Q
施設に入って合わなかったら、払ったお金は戻りますか?
A

有料老人ホームなら、入居後3か月以内の退去では、実際に暮らした日数分の家賃等を差し引いた前払金の残りが戻ります。老人福祉法が、事業者にそうした契約を結ぶよう義務づけているためです。3か月を過ぎても、前払金の計算で想定した入居期間が残っていれば、その分は日割りで戻ります。契約の前に、初期償却の割合と返金の計算式を書面で確かめておきましょう。

Q
親は自宅がいいと言い、子は施設が安心だと考えています。どう折り合いをつければよいですか?
A

「自宅か施設か」の二択から入らず、「誰が、1日に何時間まで介護を担えるのか」という上限から話し始めるのがおすすめです。選ぶのは子でも、暮らすのは親です。担い手の限界が共有できれば、候補は自然と絞られます。親子だけでは感情的になりやすいので、地域包括支援センターの職員やケアマネジャーに同席してもらうと、話し合いが事実の確認から始まります。

Q
仕事を辞めずに親の介護をするために、使える制度はありますか?
A

あります。2025年4月から施行された改正育児・介護休業法で、介護に直面したと申し出た従業員に、会社が制度の内容・申出先・介護休業給付金について個別に知らせ、利用の意向を確かめることが義務になりました。介護休業(対象家族1人につき通算93日まで)や短時間勤務などを使えるよう、限界を迎える前に勤め先の人事や労務の窓口へ相談してください。

まとめ|住まいの形より先に、担う人と範囲を決める

「親の介護をどこでするか」の答えは、家族の状況によってさまざまです。それでも決め方の順番には共通点があり、選ぶのは子でも暮らすのは親だという前提から始めれば、無用な迷いや対立はかなり減らせます。

この記事のポイントを整理します。

Point
  • 最初に決めるのは、「誰が、どこまで介護を担うのか」です。主な介護者と続けられる範囲が決まれば、検討すべき選択肢は自然と絞られます。
  • 費用は「初期費用」と「月々の費用」に分けて比べます。月額の数字だけを見ていると、家族が自分の時間と収入を削って払っている見えないコストを見落とします。
  • 「要介護3」が、介護にかかる時間が大きく変わる分岐点です。選ぼうとしている住まいの形が、要介護3以降も持ちこたえられるかを、決める前に確かめておきます。
  • 選び直しの費用は、選択肢によって大きく違います。有料老人ホームは法律で前払金の返し方が決まっている一方、在宅側の改修や撤去には決まった相場がなく、思わぬ費用がかかることがあります。
  • 「どんな状態になったら次の住まいへ切り替えるか」という基準を先に共有しておけば、最初の決断を一人で重く抱え込まずに済みます。「要介護3になったら」「夜間の対応が週3回以上になったら」と、引き金を言葉にしておきます。

ご自身の家族に当てはめたとき、現実的な選択肢として、どれが手元に残るでしょうか。親の今の要介護度、介護の中心となる人、その人が無理なく介護に割ける時間。まずはこの3点を紙に書き出すところから始めてみてください。今日はそこまでで十分です。

書き出してみて、同居も施設もしっくりこない場合は、母屋と適度な距離を保ちながら敷地内で見守れる「庭の別棟」という選択肢もあります。同居のプライバシーの問題と、近居の住居費の重さを、同時に避けやすい形です。仕様や設置の条件は、シニアリビングの「距離を保つ介護」のページにまとめてあります。

悩みながら情報を集めている時間そのものが、親の人生とご自身の生活に向き合っている時間です。考える順番さえ決まれば、そこから先は一歩ずつ進めます。

脚注

  1. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  2. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  3. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  4. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  5. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  6. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  7. 公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]」による). https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html ↩︎
  8. 公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]」による). https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html ↩︎
  9. 公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]」による). https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html ↩︎
  10. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  11. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  12. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  13. 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」(2023). https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf ↩︎
  14. 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」(2023). https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf ↩︎
  15. 厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(2025). https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf ↩︎
  16. 厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(2025). https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf ↩︎
  17. 厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(2025). https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf ↩︎
  18. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  19. 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(2026). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/index.html ↩︎
  20. 厚生労働省「令和6年度 介護給付費等実態統計の概況」(2025). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/24/index.html ↩︎
  21. 厚生労働省「令和6年度 介護給付費等実態統計の概況」(2025). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/24/index.html ↩︎
  22. 厚生労働省「令和6年度 介護給付費等実態統計の概況」(2025). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/24/index.html ↩︎
  23. 厚生労働省「令和6年度 介護給付費等実態統計の概況」(2025). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/24/index.html ↩︎
  24. 厚生労働省 老健局高齢者支援課「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)に関する調査結果」(2025). https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001621766.pdf ↩︎
  25. 厚生労働省 老健局高齢者支援課「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)に関する調査結果」(2025). https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001621766.pdf ↩︎
  26. 厚生労働省 老健局高齢者支援課「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)に関する調査結果」(2025). https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001621766.pdf ↩︎
  27. e-Gov法令検索「老人福祉法」第29条(昭和38年法律第133号). https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000133 ↩︎
  28. e-Gov法令検索「老人福祉法施行規則」第21条(昭和38年厚生省令第28号). https://laws.e-gov.go.jp/law/338M50000100028 ↩︎
  29. e-Gov法令検索「老人福祉法施行規則」第21条(昭和38年厚生省令第28号). https://laws.e-gov.go.jp/law/338M50000100028 ↩︎
  30. e-Gov法令検索「老人福祉法」第29条(昭和38年法律第133号). https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000133 ↩︎
  31. e-Gov法令検索「老人福祉法」第29条(昭和38年法律第133号). https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000133 ↩︎
  32. 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm ↩︎
  33. 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm ↩︎
  34. 公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]」による). https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html ↩︎
  35. 公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]」による). https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html ↩︎